第152話 極めつけは

「……かなり良いな」


「その辺を歩かせたら5分以内には攫われそうですよね……」


「返り討ちなの」


 そうだったな。

 

 俺達がいるのは宿から少し離れた服屋。夕方からの祭りに備えて変装の準備をしている途中だ。

 そして今はイブの服を選ぶターン。そこでまずは店員さんのオススメでメジャーだと言うエルフの衣装、付け耳を用意してもらったのだが、


「きゃああああああ!!お似合いですぅぅぅ!!」


 あまりにも似合いすぎて店内が騒然。……と言っても店内にいるのは俺達と店員だけだが。


「可愛いの?」


「ああ、良く似合ってるぞ」


「ぜっせーのびじょなの!」


 その場で一回転して喜ぶイブ。どうやらイブの服は決まったみたいだ。


「さてと、次は俺達だな」


「そうですね!もう準備してありますよ!」


 お、準備が早いな。


 俺はエルスから服の一式を受け取ると早速試着室へ行って着替える。


「どれどれ俺の服は――――ヒラヒラしたこれか」


 すぐさま着替え終わり鏡の前で確認。

 

「肩出しトップス……可愛らしい柄のスカート…」


 女装じゃねえか。


 ノリノリで着替えた数秒前の自分を許せなくなるがそこで一つの考えが頭に浮かんだ。


「……変装祭って言うんだしもしかしてこれが普通だったりとか?」


 息を呑み少し試着室のカーテンを開放。一歩踏み出しエルスやハクヤの様子を確認しに行く。


「おーい!本当にこれであってるのか?」


「あ、ワタルさん本当に着たんで――めちゃめちゃ似合ってますね……」


「髪の短いおねーちゃんなの」


 エルスがなにやら怪しい発言をしようとした気がするが悪くはない模様。そして見てみればエルスも先に着替え終わっていたらしく先程まで俺が着ていたような服装で座っている。


「……お前は男装か」


「もちろんです!ワタルさんだけを恥晒しにするわけにはいきません!」

 

 本音漏れてるぞ。


「ただ祭りとはいえこれで外を歩くのはなぁ…」


「ウィッグの用意もあります!」


「声とかで女装だってバレたら…」


「あまり喋らない寡黙な女性とかいますって!」


 こいつが一番楽しんでるだろ。


 5分ほど説得され仕方なくウィッグを装着。実際せっかくの祭りだしこんな格好も一種の楽しみだと感じている自分もいるため許容範囲といえる。


「…そう言えばハクヤは?あいつも女装なのか?」


「いえ、私が用意したのはワタルさんの分だけなので…。ハクヤさんは自分で良い案が見つかったって言ってましたよ?」


「その通りさ」


 背後に気配を感じ俺達は一斉に振り返る。


 ……そして絶句した。


「この変装のタイトルは精霊王…。我ながらかなりイカしていると思うよ」


「痛いです。ハクヤさんも私の心も」


「ゾワゾワするな。吐き気が止まらん」


「不愉快なの」


 ボコボコだが分かってほしい。謎の花冠に真っ白な謎の服。極めつけは飾り者のデカい羽。


「……よし、せめてその羽はもいでやる」


「……押さえつけます」


「もう捕まえたの」


「や、やめたまえ!」


 イブがハクヤを後から拘束。エルスと俺で羽を千切り机へ置く。


「……神々しさが下がってしまったじゃないか」


 そのアホみたいな格好で外出るよりいいんじゃねえかな。

 ……俺もそんなこと言える服じゃないか。


 ともかくこれで少しはマシになった。そんな中、気付けば時刻は昼を過ぎていることに気付く。外を見てみればまだ祭りが始まっているわけではないのに既に変装して誰かも分からない人達が大勢いる。


「少し早いですけどこのまま昼食行きます?」


「……慣れておくのも大事か」


 こうして街に女装、男装、エルフ、精霊王が解き放たれるのだった。

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