第151話 過剰反応

「――よ!――――――で―――!」


 誰かの呼ぶ声が聞こえる。

 俺の意識は曖昧だがどうにかその声を聞き取ろうと神経を集中させて―――


「――すよ!――――たいんですか!」

 

「うぅ…もう……一度言って…くれ」


「今のワタルさん顔色悪くてちょっと腰にゾクゾクきました!」


 起きなきゃ良かった。


 こんなセリフを聞き取ろうと精神を集中させたことを後悔しつつ、俺はうっすらと目を開ける。

 だが首元に何かあったのかなかなか力が入らない。


「ここは…?」


「ワタルさんのお部屋に決まってるじゃないですか?ついでに言うとハクヤさんもそこにいます」


「僕もここにいるさ」


 別に興味ねえや。


「はぁ…つつ…一体何があったんだ?」


「それはこっちのセリフですよ!私がお部屋に戻ろうとしたら廊下でワタルさんが血を流しながら倒れていて!」


 なるほどな。それで心配したエルスは俺をここまで連れてきてくれたってわけか。


「はぁ…酷い目にあった、心配掛けたな…すまん」


「もう…酷い目に合うんだったら私の前でお願いしますね?」


 馬鹿げたお願いを受け流し俺はゆっくりと立ち上がり鏡の前まで歩いていく。そして痛みの感じる部分をそっと触れるが、


「……何だこれ」 


「ああ、その傷何ですけど……」

 

「吸血鬼、だね」


 エルスの言葉を遮りハクヤが喜々として立ち上がった。そして俺のところまでくると腕を組み満足気に言った。


「とうとうワタルも吸血鬼との契約に成功したみたいだね。さらなる成長に期待させて貰うよ」


 何だこいつ。


「よく分からないがこの傷跡って吸血鬼によるものと似てるのか?」


「似てるか似てないかで言えば分かりません」

 

 似てるか似てないかで言えよ。  


 まあ、吸血鬼の仕業とならば少しプライドは保たれる。なにせ年下の女の子に襲われて気絶したなんて事実は受け入れ難い。本当にあの子が吸血鬼であれば不運な事故なのだ。


「……ってあれ?ここって初代勇者の壁があるんだよな?ならどうして吸血鬼が?」


 初代勇者の壁は悪意を持った魔族を決して通さない。吸血鬼といえば魔王の仲間というイメージが強いのだが……。


「はぐれ吸血鬼とかですかね?」


「ふむ、だが悪意を持っていないならば安全さ」


 俺が襲われたばかりなんだが。


「というかワタルさんは何故吸血鬼に襲われたんですか?悪意を持たない吸血鬼ならばヒューマンであるワタルさんに襲い掛かるなんてことは無いと思うんですけど」


「……まあ、容姿は年下の女の子くらいなんだが少しぶつかって言い争ったんだよ。そしたら急に襲い掛かって来て…」


「キレ症」


「ここまで大人気ない同年代を見たことがないよ」


 言いたい放題だな、覚えとけよ。


 あの件に関しては俺も悪かったとは思うが向こうも過剰反応だったはず。もしかしたら本当にはぐれ吸血鬼で焦っていたのかもしれないな。

 とは言え終わったことだ。幸いにも吸血殺人なんてニュースにならなかっただけマシと言える。


「ふう…取り敢えず俺はこのまま寝るよ。貧血気味だしな」


「夜も遅いですしね。何かあればまた明日話しましょうね!」


「最後にその吸血鬼の容姿について100点満点で採点を頼むよ」


 くたばれアホ勇者。


 エルスとハクヤが部屋を出ていった後、俺はすぐに眠りに落ちるのだった。

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