05 希望の秘薬

 水で濡れた服を乾かす間にドロシーの服を借りる。

 背丈はそう変わらないのに、胸のあたりがスカスカなのがかなりムカついた。


 騒ぎに取り残されたカップ麺は、冷めかけもまた乙であると美味しくいただく。

 伸びた麺も悪くないと思う我々は少数派だろうか?


「悪いね、毎週こんなに美味しいものをごちそうになって」

 私の持ち込んだ対価に満足したドロシーが礼を言う。

 わずか150円程のインスタント食品で満足するとは、見た目に似合わずお安い人だ。

 もっとも、値段を知ってる私もちゃんと美味しく頂いているのだから、カップ麺が優秀なのだろう。


「それじゃ、約束の報酬」


 ドロシーはショーンくんを呼びつけると、さっきの小瓶に入った桃色の錠剤を1錠、私に譲渡してくれる。


「ほんとうにいいのかい? こんな薬で」


「私にとってはこれ以上ない救済よ」


 そんな会話をしていると、ショーンくんがコップに水を入れ、渡してくれる。

 私は桃色の錠剤を口に含むとそれで流し込んだ。


 薬が胃に落ちると次第に胸が熱くなっていく。

 若干の痛みも伴うがそれは我慢してやりすごす。


 すると、自らの胸部が膨れているのが見てとれた。


 ふふふっ、これで今週も+10mmだ。

 著しい成長を遂げた我が胸に手を当て喜びをかみしめる。


 ビバ魔法の薬♪

 ありがとう異世界♪


 うれしさのあまり顔がニヤけるのが押さえきれない。


「なんで一晩しかもたない薬で、どうしてそんなに嬉しそうかな?」


「そもそも胸が大きくなっても、喜ぶのが本人だけというのが哀愁を誘います」


「シャラップ!」


 そう言って私は、客の満足に水を差す魔女と下僕を黙らせた。


   ◇


――翌朝。


 魔女の予言通り、薬の効果は薄れていた。

 昨晩、あんなにも希望に膨らんでいた胸はすっかり元の姿をとりもどしている。

 でも、それは完全にではない。

 これまでの実測の結果、縮むのは9mmまでと判明している。


 すなわち!


 1mmとはいえちゃんと大きくなっているのだ!!


「ふふふっ……」

 あの店に通って早一ヶ月半。


 私の成長はこれで+6mm。ここまでくれば、もう誤差なんて言わせない。


 そして!

 このままいけば、もう半年後にはカップがワンサイズアップできる!


 私は希望に胸を膨らませ、魔女に対価を払い続ける意志を固めていた。


〈了〉

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魔女の秘薬と手頃《チープ》な対価 HiroSAMA @HiroEX

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