04 検分
緑に色づけされた砂が落ちきると、私は自らのカップ麺のフタをめくりとる。
ドロシーのウドンよりも、私のソバの方が待ち時間が少ない。
カップから立ちのぼる湯気を彼女はもの欲しそうに見ている。
私はソレを無視して天ぷらをソバに落とすと、ツユをしみこませるためにそっと割り箸で押し込む。
ほどよくツユが染み込んだところで、持ち上げて口に運ぶ。
サクサク感を存分に残した天ぷらが、口のなかにツユの味わいを運んでくれた。
――美味しい。
そう口に出しかけたところで、目の前の痴態に気づく。
目の前でドロシーが涎をこぼしながら私をみつめている。
「……あげないわよ?」
「べっ、べつにいいもん」
ソバは明日食べるから、その時までの楽しみにしておくのだと彼女は強がるが、目線がチラチラとこちらに向けられる。
砂時計を確認すると、緑の砂はまだ残っていてウドンのできあがりまでしばしあるようだ。
「はぁ、仕方ないわねぇ」
「ほんと!?」
「まだなにも言ってないんだけど?」
「いけずぅ~」
そう言って、とがる魔女の口に天ぷらをかざすとパクりと食いつかれた。
「おいちぃ~」
ほっぺを押さえながらドロシーは満面の笑みをつくる。
「ありがと、愛してるわ」
「同性の愛なんていらないわよ」
「男になれる薬もあるけど?」
その言葉に金髪美麗な王子様を想像し、悪くないと思いつつも結局は一蹴した。
「食っちゃ寝ばかりの男なんて要らないから」
「ぶぅ~」
一転して不満を露わにするドロシーだが、それも砂時計の砂が落ちきるまでのわずかな時間だった。
ドロシーは最後のひと粒が落ちきる瞬間をめざとくとらえ、すばやく行動に移る。
ノリづけされたフタを完全に剥がし、どこからともなく取り出したマイ箸でカップ中央に鎮座した油揚げをツユに落とし込む。
そして十分にツユをしみこませると、いきなり
「おいち~♪」
頬を赤く染めたドロシーが歓喜にうちふるえる。
続けて白くふんわりしたウドンにツユをたっぷり絡ませると、ズズイッと音を立ててすすった。
もともと無邪気にゆるんでいた表情が、さらにだらしないものへと変化する。
それを見ていると行儀などどうでもよくなった。
私もたまらなくなり、ソバを一口すする。
塩分過多にならぬようツユを一口だけのむと、口にカツオ出汁の芳醇な旨味が広がった。
うん、美味しい。
普段、ひとりで食べるときは、ここまで美味しいとは思わないのだけど、このちがいはなんなのか。
美少年の用意してくれたお水がよかったのか、あるいは精霊に沸かしてもらったのが影響してるのだろうか?
七味をかけると、ほのかな刺激がソバの味を引き締めてくれる。
これは箸がすすむ。
ふと気づくと、湯を沸かしたあと放置されていた
どうやら彼らもカップ麺に興味があるらしい。
うらやましそうにカップ麺に手を伸ばそうとするけど、ドロシーは彼らにソレを分けるほど大人ではない。
それどころか邪険に彼らを追い払った。
すると怒った彼らは報復に出る。
ドロシーのキャミの裾にしがみつくと、ソコから火をつけたのだ。
「「えっ?」」
どうやら彼らの身体は高温で、お湯を沸かすだけでなく、薄手のキャミくらいは楽勝で燃やせるようだ。
「あばば」と動揺するドロシーを助けようと、私が代わりに火を消そうとする。
すると、それが不満だったのか、精霊は私の服にまで火をつけようとした。
「ちょっとやめてよっ」
自宅を仕事場にいるドロシーとちがって私には着替えがない。
それどころか数少ないスーツに焦げ目などつけては仕事に支障が出かねない。
あわや火がつきそうになったその瞬間、どこからともなく水がかけられた。
ジュッっという音とともに精霊たちの姿がかき消される。
「ふたりして、なにはしゃいでるんですか?」
みると、ピンクの錠剤の入った小瓶を手にしたショーンくんが立っていた。残る手には汲み置きの水。
「はしゃいでたわけじゃないもん」
まったくその通りなのだが、ショーンくんの表情からするとそうではなかったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます