03 手頃(チープ)な対価

「ひと~つ、ふた~つ、み~っつ……」

 数えながらテーブルに緑と赤のパッケージを並べていく。


 ソレは現代日本ではありきたりでよくみるカップ麺。

 レジ袋に入っていることからわかるよう、スーパーで購入してきたものだ。


 持ち込んだのはウドンとソバを4個ずつ。

 手元に緑のソバを1個残し、残りの1週間分7個をドロシーに譲渡する。


「これこれ、これがほしかったんだ~」

 ドロシーは幼子のように顔をほころばせると薄いビニールに包まれた赤いカップにほおずりをする。


「ショーン、お水~」


「こちらに」

 主の要望を予想していたショーンくんは、あらかじめ準備していた薬缶をカウンター上の鍋敷きに載せる。


 ドロシーはカップ麺を抱きしめながらその場に向かい、トントントンと指先で鍋敷きを叩く。すると鍋敷きから赤い身体を透けさせた幼児が三人現れた。

 人形サイズの幼児たちは協力して薬缶を持ち上げると、お尻をフリフリしながら愛らしく踊りはじめる。


 彼らは火を司る精霊サラマンダーで、魔力を持った者が鍋敷きを叩くと現れるようになっているとのことだ。


 ドロシーは薬だけでなく、こうした魔法の道具も製作している。

 もちろん直接魔法を使ってもよいのだけれど、こうして繰り返し使う魔法は道具にしたほうが便利なのだとか。

 ちなみにここに来る際に利用した羽も彼女のお手製だ。



 精霊たちの踊りが激しくなるにつれ、温もりが空気を経てわずかながらに伝わってくる。


 いまのうちに準備してしまおうと、ビニールを破るとパンと張りつめた音がした。


 ドロシーが検分という名の実食をしてるのをただ見ているのは暇である。

 というか、人が食べているのをみていると、つい自分も食べたくなってしまうのは私だけではないと思う。


 緑のフタをめくり、中から袋をふたつ取り出すと、粉末スープをふりかける。

 七味と丸い天ぷらは食べる直前までとっておき、静かにお湯が沸くのを静かに待つ。


 魔女ドロシーも、赤いフタを開け、自分の分の準備を済ませるとおなじよう待つ……ことはできない。


 せっかちな彼女は下僕であるショーンくんに「まだかな、ねぇ、まだかなぁ?」と椅子で足をバタバタさせながらたずねている。


 とてもではないが、妙齢の女性のする仕草ではない。


 これが許されるのも、ここが彼女の店で、彼女には魔法という特技があるからだ。

 特技のない雇われ人だったら、即刻首を切られていたにちがいない。


 いたいけな少年に働かせ、自分はやりたい放題とはずいぶんとうらやましい身分だ……中世みたいに狩られちゃえばいいのに。


 そんなことを考えていると、精霊たちの掲げる薬缶から湯気が立ちはじめた。

 今日の踊りはいつもよりも激しかったせいか、湯の沸きも早かった気がする。


 ショーンくんは精霊たちから薬缶を取り上げ、それをテーブルに置かれた緑と赤のカップにそれぞれお湯を注いでくれた。


 ドロシーはめくれたフタに封をする同時に「やっ!」と、手元に置かれた砂時計を俊敏な動作でひっくり返す。

 彼女が使ったのは赤の砂を入れた砂時計は五分用で、もうひとつの緑の砂が入った三分用のものを私が使わせてもらう。


 ドロシーは砂が一秒でも早く落ちるよう念じるようみつめている。


 まるっきり子供の仕草だ。


 まぁ、テーブルにおっぱい載せるような子供なんていないけどね。


 ……………………ホントに狩られちゃえばいいのに。

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