第8話

 そうこうしているうちに、ヒーローは数人に声をかけ終えたらしい。何を聞いたのかはよくわからないが、まともに相手にしてもらえなかったようだ。

「そろそろですかね」

 そう言ったヤツの手には、魔法少女が変身するときに使いそうなステッキが握られていた。それを俺に向かってクルクルーっと回す。すると、なんということでしょう。何も起こらない。

「へ……?何も変わって無くないか??」

 俺の質問には答えず、ヤツは人差し指を立てた。

「ヒーローにもボクは見えていませんからね。では行きますよ。歩いてついてきてください」

 そう言ってふよふよと進んで行く。俺は何が何だかわからずに追いかけるしかなかった。

「この辺ですかねぇ。では、携帯でもいじってください」

 ヤツがそう言うので、しぶしぶ携帯を取り出しメールを確認していると、ヒーローが話しかけてきた。人々が足早に通り過ぎていく中で、暇そうに携帯をいじる俺は、声をかけるのにぴったりだったのだろう。

「悪の組織について何か知らないか?」

 なるほど。相手にしてもらえないはずである。これじゃあ完全にヤバい奴である。そういえば俺は見慣れてきていたが、こいつは今、鉄パイプを所持している。知っている、と答えた瞬間「じゃあ死んでくれ」と殴りかかってきても不思議ではない雰囲気だ。鉄パイプに悪の組織、良く言っても、あの病をこじらせてしまった人ぐらいにしか見えない。

 そんなことを考えている俺の斜め上で、ヤツが画用紙をめくった。カンペってやつか、そう思った俺はそれをそのまま読んだ。

「ああ、知ってる。とりあえず、街のはずれにある武器屋に行ってみるといい」

「そうか、わかった」

 頷いたヒーローは、武器屋とは真逆の方向へ歩いて行った。お兄さん?そっちじゃないです武器屋。さっき重々しく頷いたのは何だったんです??

 慌てて引き留めようとした俺の目の前にヤツが滑り込んできた。

「余計なことはしなくていいんです、余計なことは」

 随分と失礼なことを言ってくれる。

「何でだよ」

「いいですか。人は失敗をして成長していくんです」

 言っていることは間違っていないが、武器屋にくらいすんなりと行かせてやってもいいんじゃないだろうか。

「それに、早く悪の組織を倒させたところで大した意味はないですしね」

「なんて奴だ」

 そう言いながらも、それもそうか、と思う俺はだいぶ疲れている。そんな俺に、どこからか自転車を取り出しながら「じゃ、行きましょっか」とやけに明るく言うコイツが悪じゃないなんて俺は信じられなかった。

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ヒーロー様のお守りやってます。 夕鳴なち @nachirurero

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