悪夢のエロ広告

@HasumiChouji

悪夢のエロ広告

『何で、WEB上で変なエロ広告が表示されるの?』

 発端は、twitter上でフォローはしてるが、ここんとこ疎遠になってる知り合いの女性小説家・佐藤ミキのtweetだった。

『いや、あんたが、ふだんエロいページばっかり見てたり、エロ関係のワードで検索してるからだろ。WEB広告ってのは、そう言うモノなの』

 誰かが当然としか思えないリプを付けた。

『違うんだよね。blogサイトの○○○で、特定の小説家に言及してる記事だけで、そのエロ広告が表示されるの。訳のわかんないSMグッズの広告が……』

 なるほど。その小説家が、SMモノでも書いてるエロ小説家なんだろうか?

『誰っすか? その「特定の小説家」って?』

『越谷玄晶』

 ……。

 …………。

 ……………………。

 お……俺かよっ!! 覚えねぇぞっ!!


 慌てて、そのblogサイト中で俺の名前が出ている記事を検索してみた。

 そして、表示される広告は……。

 SM用浣腸器(男が四つん這いになってる写真)。

 SM用拘束具(拘束されてるのは男)。

 男性用貞操帯。

 男が女にいぢめられるエロ漫画。

 中年男が若い「女王様」の性奴隷となるエロ小説。

 ……共通点は見えたが、心当りは無い。

 なお、同じblogサイトの他の記事を見てみたが、普通の……要はエロものじゃない広告だった。


 そのblogサイトの運営の連絡先を突き止め、どうなってるんだと言うメールを出した。

「すいません、その広告に関しては、WEB広告業者に任せています。WEB広告業者の連絡先はこちらになりますので、細かい話は、広告業者さんとやって下さい」

 そして、たった1日の間に、blogサイトの運営→WEB広告業者→WEB広告業者にシステムを納入したソフト開発業者、と次々と盥回しをされる羽目になった。


「広告表示は、AIに学習させる事で決めています。どうも、AIが先生のペンネームを『エロ用語』だと認識してしまっているようです」

「何でだよ?」

「理由は判りません。AIの学習過程や学習結果は、作った私達にとってもブラックボックスと化してますので。一旦、先生のペンネームについてのAIの学習結果をクリアしますので、それで様子を見てみましょう」

「それで大丈夫なの?」

「判りません」

「はぁっ?」

「AIが再び変な学習をしてしまう可能性が有りますので。まぁ、逆に1ヶ月以内に元に戻ったら……」

「おい、待て、1ヶ月以内に元に戻ったりしてたまるか!!」

「いや、AIの学習ログが1ヶ月分保存されてますので、その場合は逆に、原因が有る程度は推測出来ます」

 そして、幸か不幸か、一旦は、俺のペンネームが「エロ用語」と見做されているらしい現象は無くなったが……1ヶ月後には、元に戻ってしまっていた。


「原因は……ある程度判りました。twitterの内容から学習しているようです」

 学習ログとやらの解析には、更に2ヶ月かかった。AIを作ったIT屋の言ってる事を信じれば、だが。

「お……俺は、そんなtweetした覚えは……」

「いや、先生のtweetをRTした人や、先生がRTしたtweetなんかからも学習をしてるみたいです」

「訳が判んね〜よ、一体、どう言う……」

 電話をしながら、俺は思わずPCのマウスの左ボタンを押すのを慌てて止めた。

 俺は、今、知り合いの小説家・戸山ナオミのtweetをRTしようとしていた。

 ……そうだ……そう言や、こいつの小説は……やたらと「男が女にいじめられる」エロ小説が多かった。


 しかし、戸山ナオミの方は、俺のtweetをRTしたり、俺のtweetにリプを付けてくる。

 仕方ない。長い付き合いの友人だが、俺は戸山ナオミをブロックした。

 だが、それでも、1月経っても、2月経ってもWEB広告のAIは、俺のペンネームを「エロ用語」だと認識しているようだった。

 念の為、俺がフォローしている奴や、俺のフォロワーをチェックしてみる。

 思ったより、エロ小説・エロ漫画を書いてるヤツが多い。モノは試しだ。全員ブロック。


「先生、最近、締切をちゃんと守るようになりましたね」

「ああ、ちょっと思う所有ってtwitterやめたんで。そしたら、仕事がはかどるようになった」

「は……はぁ……。そう言えば、最近、全然tweetしてませんね」

「なんか、twitter見てても面白くないんで」

 ……あれから1年近く。とりあえず、WEB広告が俺のペンネームを「エロ用語」だと認識する事は無くなったようだ。

 その代償に、ネット上やオフラインを問わず様々な友人と……そして、人生におけるちょっとした楽しみを失なった気がするが……。

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