読者が設定を素直に受け入れられるように丁寧に下調べがされている作品

少し序章のネタバレを含みます。

 現代の日本社会において公然と治癒の超常現象が認知されている世界観の説明がとても丁寧にされています。

 その説明も物語の進行上必要が生じた時に必要な分だけなされるので読まされている感じがしません。

 パラリンピックの選手が治療を受けたことで次期はオリンピックに出場できるようになったとして、治癒能力が眉唾物ではなかったと証明されたとするエピソードがあります。
 ドーピングに厳しいオリンピックが元パラリンピックの選手の出場を認めたとすることで、治癒能力が科学的にも認められていると上手に、なおかつ分かり易く表現されていると感じました。

 他にも丁寧だと感じたのは治癒能力が認められた後の社会への影響です。治療を求めて殺到する人々、受け入れに困る集落、それを商業化する企業、平等化のために動く国。実社会に治癒能力が実在したら起こると想定できる社会への影響まで描かれているので、日本における超常現象であっても程よく調和して受け入れることができました。

 これぞ魔術と科学の正しい交差なのではないかと思います。魔術と自然科学の交差を描く作品はたまにありますが、人文科学まで交差させるとは感服致しました。

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