ムカシノムサシノ

作者 愛宕平九郎

219

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★★★ Excellent!!!

友達と雑談しながら歩く学校の帰り道は楽しい。この物語は、その当たり前を思い出させてくれる。

“林”という共通の名前で仲良くなった二人は、授業での林いじりをきっかけに、変わってしまった故郷について想いを馳せる。
言葉遊びを通じて、二人の間に共通の世界を作りながら、バカみたいな話や、男子中学生らしく憧れの女性に関しての話を紡ぎつつ、家路につく。

いくつになっても、このときの思い出は忘れがたく、また、読者の心にもある故郷を想起させてくれる。
ビルが生え、コンクリートジャングルと化してしまった都会にも、郷愁を感じられるのだろうか。この二人が大人になったとき、どのように思うのか、とても興味深い。

★★★ Excellent!!!

ありふれた放課後の1ページ。
なのに、ここにしか、この日にしかない、特別な『普通の放課後』に何とも言えない懐かしさを感じました。

言葉で遊びたくなる感受性は勿論のこと、今と昔、自分と誰か、こことどこか、様々な対比で心地よく揺さぶってくれる作品でした。

自分に関することが知りたい、頭を駆け巡る言葉を口にしたい、好きだからこそ許せない、といった裏表のない素直な感情の発露が清々しい余韻を残してくれます。

★★★ Excellent!!!

【ネタバレ的に内容に踏み込みます。未読の方ご注意ください】

長く親、または大人の庇護下に育つうちに思春期とか青春期に突入した者が、世の中とか社会とかとの適切な距離をはかりかねて多少けったいな言動をするのは自然なことと思われます。
言動がけったいなことになるのは、ひとえに客観性に乏しいからで、人と関わったり人との関わりを断ったり、とにかく色んな体験をするうちにそれを持って、節度とかマナーとか常識を身につけるのだと思います。

本作の視点人物・林原君は内向的で年齢の割に客観性を持っていて、でもその友だちの林君は神経太く、けったいな言動ひんぱん。
そんな二人は、実にどうも冴えないけれども、なんだか愛おしくて。
作者によるユーモアでコーテイングされたふたりの軽妙なやり取りの中には、実は切ないものが底に流れていることが徐々に判明し、キラキラしていたり恋愛に喜び悲しんだり、闇の中でもがくばかりが青春ではなく、ふたりの一見平凡な時間もまた掛けがえのない青春と感じて、そこが切ないのかと思います。

プラス、本作に奥行きを与えているのは国木田独歩という作家が扱われていることで、文豪ストレイドッグスでお馴染みの独歩といえば『牛肉と馬鈴薯』で理想と現実のせめぎ合いを思考し、時代に先駆けたスケール大きい作品を物する一方、『忘れえぬ人々』のように人が生きる姿に深い洞察を示した作家であります。

林君と林原君、ふたりのユーモラスでありながら切ないものを描いた物語はラストで一変し、冴えないふたりの青春模様というミニマムな物語が時にまつわる変化という大きな物語へと展開される筆づかいが、実に独歩的でとても感激した次第です。

★★★ Excellent!!!

昔と今は違うけれど、現代の環境に適応した子ども達は元気に生きているものです。これは雑木林がコンクリートジャングルへと変わった武蔵野の、過去から未来へと続く物語なのです。

東京都も広く、全てが都会というわけではありません。
主人公の少年たちが暮らす田無市は田舎も田舎、六本木の住人から見れば小ばかにされてしまうような大田舎でした。でも、少年たちは都会ってスゲーよなぁと憧れつつも、その田舎を愛し、大切に思っているのです。

柄でもなく、日本の将来を託すならこんな少年たちに託したいな…なんて思ってしまいました。
過去を尊重しながらも未来へと続く武蔵野の物語、お時間があれば是非!

★★★ Excellent!!!

『昔の武蔵野は萱原の――』
きっかけは国語の音読リレーだった。
友人同士の会話の中で、主人公たちは気づく。
独歩は、武蔵野が林になったことを言いたかったのではなく、
人工物に変わりつつある様を表現したのではないかと。

それならばと、独歩の視点を持った主人公たち。
――この景色を国木田独歩が見たら、なんて思うのかなぁ。
その時の彼らの発想が素晴らしい。
きっと独歩は、タムとホヤの融合にもビックリするに違いない。