第2話 『ためいき』
そういえば、僕は、こう言った悲観的な思考を若い頃から抱いていたと思う。高校生ぐらいだったかな、いや、たぶんもっと前だったか。
小学校の入学式の日、親から半日ほど離れ、社会の構成員の一員としてのスタートラインに立つ門出の日、緊張、期待、恐怖、まだ名前も知らない感情が多くの子供達に訪れるあの日。
僕は、親に手を引かれ、周りの子供達と同じようにそう言った感情に襲われていた。あの時は、僕も、ただの少年だったのだ。
そうだ、そういえば入学して半月ほどした時にあれがあったのか。
親元を離れ、集団として行動することが少し身についてきた、あの運動会だ。
僕が通っていた学校では、クラス対抗リレーがあった。クラスの中で一番速い人が学年別にバトンを渡すやつだった。その代表者を決めるときに事件は起こった。
僕は、もちろんクラスで一番足の速い高木君が走るものと思っていた。そして、高木くんも自分が走るものだと思い、余裕の表情を浮かべていた。
しかし、ある男子の一言で、事態は変わった。
彼はなぜか高木くんではなく、クラスの人気者の中谷くんを推薦したのだ。中谷くんは明るく、誰にでも優しい、優良少年だった。
その男子の推薦につられるかのように、クラス中の高木くんムードが一気に中谷くんを推す空気に一変した。
その時、中谷くんが一言、「しょうがないなぁ。」と言い、担任の先生に自分が走るようにチラッと目をやった。そこで担任の先生は、公平性を盾に多数決を敢行した。
結果は、言うまでもなく、中谷くんの圧勝。
学校という機関は、問題を避けるためによくこの多数決という人気投票を行う。しかし、事実、これは生徒同士の優劣をつける行為であり、負けた高木くんは、中谷くんよりも人気がないということを知ることになった。
その時、敗者には弁論の余地もないのだ。なんと残酷なのだろうか。この公開処刑ともいえる制度が、教育機関で、なんの疑問も持たれずに行われているのだ。
ぼくは、いまでも、高木くんのあの落胆と羞恥にまみれた表情を覚えている。
そうだ、この表情を目の当たりにし、あの小さな社会でのヒエラルキーを知った時、ぼくはこの世の中に対しての嫌悪感を抱き始めたのだ。
「はあ、、、」
あぁ、高木くんの顔を思い出すたびに、抑えようの無いためいきがでる。
『生きにくい世の中、死に難い人生』 @mori_youkan
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