『生きにくい世の中、死に難い人生』

@mori_youkan

第1話 『なんで』

「次は、高井〜、高井、終点です。お忘れ物の無いようご確認くださいませ〜。」

 

 聴き慣れたフレーズに目を覚ました。

 あぁ、また寝てしまっていたのか。

 今日はまだ木曜日だから、早く帰って寝ないと、、いや、もう金曜日か。あと6時間もすれば、また仕事に向かわなければ。


 何回、いや、何十回同じことを考えただろう。


 はやく帰ろうとは言いつつも、僕の帰りを待っているのは、優しくて可愛い最愛の人でもなく、無性の癒しを与えてくれるペットでもなく、狭い1Kの部屋と乱雑に敷かれた布団、テレビ、そして仕事だ。

 

 特に不満は出てこない、質素で、決して幸せとも言えないが、不自由はない。

 いや、もはや感じなくなってしまっただけなのだろうか。うん、きっとそうだ。あの禿頭の上司のせいで感情が薄れるようになってしまったに違いない。カラスを黒いと言わせないくせに、完全にブラックなあの会社のせいだ。


 あぁ。いやだ。また同じことを考えてしまう。


 僕は、自分が好きだ。しかし、ナルシストというわけでは無い。ただ、この理不尽な世の中で、自分の役割をこなし、だれにも迷惑をかけない、そのハチ公のような尽くす精神をあの会社にも抱ける、この我慢強さがあるからだ。


 いや、そもそも、なぜ僕は我慢をしなければならないのだろう。

 社会人だから?

 いや、社会に出る前から人間という動物は我慢を強いられているはずだ。おもちゃを買ってもらえない子供、お金がなくて好きな服を買えない青年、そしてブラックだと知りながらも働き続ける僕。なにも違いはない。ただ、怒られる恐怖から逃れるためにおもちゃを諦めていたころから、なにも変わっていない。


 なら、人間は生まれてから社会で働く我慢強い駒として育てられているということなのだろうか。


 一人でこんなことを考えながら、歩いてると、アパートについた。もちろん同居人は布団と画面の向こうのタレントしかいない。

 腰をおろし、ビールを片手に、同居人の話を聞きながら感傷にふけると、またあの考えが湧いてくる。


「あぁ、なんで、生まれてきたんだろう。」

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