花の妖精
雨世界
1 でも、すごく大切なこと。
花の妖精
プロローグ
……ささやかなこと。
本編
でも、すごく大切なこと。
とてもいい香りがした。
その香りに誘われるようにして、僕は君と出会った。
そこは僕の暮らしいてる小さな町の一角にある、本当に小さなお花屋さんだった。(エーデルワイスという名前のお花屋さんだった)そのお店で働いていたのが君だった。
君は笑顔で、すごく綺麗なたくさんの花たちの世話をしていた。
とても楽しそうに。
……まるで蝶が花の上で踊るように、働いていた。
君はお花の世話をすることがなによりも大好きなのだと、誰が見てもみんな一目でわかるような、そんな素敵な笑顔をしていた。(それだけではなくて、君はその顔と体の動きで、見ている人たちに本当に花を大切に扱っているということが、無意識のうちに伝わってくるような、そんな洗礼された無駄のない、てきぱきとした動きの気持ちのいい仕事をしていた)
僕はそんな君を見て、一瞬で恋に落ちた。
僕は自然と足の向きを変えて、小さなお花屋さんの前まで、ゆっくりと移動をした。
そこには、僕を君のいるこの運命の出会いの場所まで導いてくれたいい香りのする花が飾ってあった。
……真っ赤な色をした、とても美しい花。
僕はその香りを嗅いでみた。
その香りはやっぱり、先ほど僕が感じた、あのとてもいい香りとまったく同じ、いい香りだった。(あの香りはまちがいなく、この赤い花の香りだった)
「いらっしゃいませ」と僕に気がついて、満面の笑顔で君が言った。
「すみません。あの、この赤い花を買いたいんですけど、この花はなんていう名前のお花なんですか?」と僕は君にそう言った。
すると君は「はい。この赤い花ですね。えっと、このお花はですね……」と言って、その真っ赤な花の説明を僕に丁寧に、とても詳しくしてくれた。(お花の話をしている君は本当に楽しそうな声と顔をしていた)
「このお花。大切な人への贈り物ですか?」と僕がその赤い花を買ったときに、にっこりと笑って君は言った。
「はい。そうです。大切な人に贈る、本当に大切な贈り物です」とにっこりと笑って僕は言った。
その赤い花を、僕は次の日、花の妖精にプレゼントした。
そんな風にしてその日、会社帰りの夕方の時間に、僕は自分の暮らしている小さな町の中にある、小さなお花屋さんで花の妖精と出会った。
それから数週間、僕はその小さなお花屋さんに通いつめて、花の妖精に一目惚れの恋の告白をして、お付き合いをするようになって、その数年後に、僕たちは結婚をした。
結婚式はお互いの家族と友人たちを集めただけのとても小さなものだった。
町の小さな白い教会で(彼女の希望で、結婚式場は綺麗な色とりどりの花で埋め尽くされたけど)僕たちは結婚をした。
そして僕たちは幸せになった。
ささやかだけど、でも確かにそこにある、『きちんとした形のある幸せ』を、(あともちろん、お花のある幸せだった)手に入れた。
僕は君に出会えて、本当に幸せだった。
君も、……私は本当に今幸せです。だって、あなたに会えたから。とにっこりと笑って(ちょっとだけ泣きながら)僕に言ってくれた。
その言葉を聞いたとき、僕は情けないことに泣いてしまった。君は笑っていたけど、あのとき、僕は本当に恥ずかしい思いをした。(僕の顔は真っ赤だった。まるであのときの、僕と君を出会わせてくれたあの赤い花のように)
とてもいい香りのする赤い花。
僕と君を結ばせてくれた赤い花。
その花の名前は『赤い糸(アカイイト)』と言った。
今でも僕と君の暮らしている、気持ちのいい風の吹く、海岸沿いにある小さな白い家の太陽の日差しの差し込む小さな玄関には、小さな鉢の植えられた『赤い糸(アカイイト)』が飾ってある。
きっと一生、僕と君がこの世界を旅立つときがくるまでの間、その赤い花は、その場所にあるのだと、今日、僕は朝仕事に行く僕に「いってらっしゃい。今日も愛しています」といってくれる笑顔の花の妖精を見て、そんなことを思うのだった。
「僕も君を愛している。花の妖精さん」と、にっこりと笑って僕は言った。
花の妖精と呼ばれた君は、少し顔を赤くしながら、僕の頬にいつものように、愛しているのキスをした。
「私は花の妖精さんじゃないですよ。だから、いつものようにちゃんと私の名前で呼んでください」と君はちょっとだけ照れながら、キスのあとで、僕にそう言った。
「いってきます」僕はそういってから、君の名前を呼んだ。(すると君は、本当に嬉しそうに僕の前でにっこりと笑った)
赤い糸のとてもいい香りがした。
花の妖精 終わり
花の妖精 雨世界 @amesekai
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