映画「ディープインパクト」(1998年,スピルバーグ製作総指揮,ミミ・レダー監督)を思い出しました。隕石モノのパニック映画ですが、ハリウッド映画の主要テーマである「家族の絆」を描いた秀作です。女性ニュースキャスターのジェニーが大津波が迫る海岸で、確執のあった父親と和解するシーンには、ぐっと心を動かされます。似た感動(それ以上かも)をこの小説から得ました。
…お疲れ様、お父さん。13年ぶり。おかえりなさい。今までありがとう…美冬のこの台詞で涙腺崩壊です。
情景描写も素敵です。特に、
いずれ町はそっと消えていく。降り注ぐ雪の中に、かき消されていくように。
これは、堪りません!
ぐっとぐっと心を動かされた作品でした。
まず、なんといっても非常に質の高いモンスター・パニック作品です。近未来の日本に設定した舞台配置によるほどよい距離感が、奇怪なモンスターの存在の「真実らしくなさ」を巧みに取り除き、強度の高いリアリティを確保しています。
異質な危機に対する恐怖を緻密に構成していく文章こそがこの作品の魅力ですが、もちろん破壊のカタルシスも用意されています。ミリタリー的な関心も強い作品で、その点もリアリティに高く貢献しています。
しかしそれ以上に、主人公である美冬の心情にしっかりとフォーカスしている点も、この作品の魅力だと感じます。圧倒的な破壊的存在に対して、一個人のできることなど実質的にほぼゼロです。そこにあるのは行為ではなく、心境です。それはなにも新しいテーマというわけではなく、自然災害の多い日本では、古くから文学の主要なテーマになってきたものです。そんな系譜に、この作品はしっかりと連なっているように感じます。
美冬の感じ取った熱を、多くの人にも感じ取ってもらいたい。そう思わせる作品です。