後日談②

「えっ? 年収十億円に月二休?? こ、後継者候補まで白紙?? 本気ですか?」

「ええ、その通りです。教祖様の後継候補についても白紙に戻して下さい」

「え、ええええっ!!? い、一体何故ですか!? 屋敷神も先日までは私の案に賛成してくれていましたよねっ!」


 納得がいかず、声を上げると屋敷神が冷静に諭してくる。


「……悠斗様は教祖様が十億円を受け取った瞬間、神興会を捨てて逃げ出そうとしているのではないかと、心配しているのです」

「ううっ!!?」


 それを言われると痛い。

 完全に見透かされている。


「……既に三度、教祖様は脱走しております。神興会は教祖様あっての宗教団体。お分かり頂けますね?」

「う、ううっ……」


 屋敷神の言葉に、私はガックリうな垂れる。


「……安心して下さい。教祖様にはこれから一ヶ月間、飛行機で世界を周って頂く予定です。客席はファーストクラスを用意致しました。飛行機での移動時間中は、好きに休息をとって頂いても構いません。本来であれば、『影転移』で瞬間的に移動できる所を、敢えて、飛行機を使用するという不合理極まりない手段を用いているのです。悠斗様の御心をおわかり下さい」

「も、もう嫌あぁぁぁぁ!」


 流され続ける人生に初めて反抗してみれば、いつの間にかスタート地点に戻されていた。どうやら、世界中に神興会の教えを広めるまで解放してくれる気はないようだ。

 神興会を逃げ出そうと画策して一ヶ月。

 早々に、神興会から逃げられない事を悟った。


 ◇◆◇


 悠斗の両親を神興会の教祖に祭り上げようとしていた伊藤教祖が悠斗の逆鱗に触れ、屋敷神により年収十億、月二休という無情な就業条件を突きつけられ絶叫を上げる中、神興会の傘下となった他の宗教団体の教祖達は……。


「い、一体、どういう事ですか!?」

「そうです。それでは話が違う!」

「そ、その通りですぞ。神興会を潰してくれるんじゃなかったんですか!」


 屋敷神に隠れて、顕蓮会の教祖に詰め寄っていた。


「ま、まあ、落ち着いて下さい。声が大きいですよ。私も困惑しているのです。まさか、私の弟が裏切るなんて……。いえ、前向きに考えましょう。よく考えてみて下さい。今の状況を見れば、そう悪い状況ではありません」

「どういう事です?」

「そ、それは……。そうです! 今、私達は神興会の内部に潜り込む事に成功しました。元教祖だった者達は皆、各地に担当を持っている筈。神興会の教祖に知られぬよう、少しずつ、信者達を改宗させれば……」


「……残念ながら、それは不可能です」

「なにっ?」


 声のした方に振り向くと、そこには教祖の隣にいる筈の屋敷神が立っていた。


「お、お前は……。教祖の下にいた筈では……」

「ええ、今も教祖様の隣でお守りしておりますよ? あなた方の様に不埒な輩からね」

「な、何っ!?」


 屋敷神がそう言うと急に身体が動かなくなる。


「い、一体何を……」

「いえ、大した事はしておりません。ただ、精霊達の力を借り、あなた方の身体を拘束させて頂いただけです」

「せ、精霊?? わ、私達を捕らえてどうするつもりだ。確かに、私達は神興会の下についた。しかし、私達を慕う信者達が完全にいなくなった訳じゃないんだぞ……」


 虚勢を張りそう言うも、屋敷神はクスクス笑う。


「……失礼しました。あなた方は面白いですね。捕らえられているにも関わらず、随分と楽観的な考えをお持ちのようだ。この私があなた方をこのまま解放すると思っているのですか?」

「ううっ……」


 そう言った瞬間、屋敷神の背後に薄い人型の何かが現れる。


「……あなた方には人柱になって頂きます。神興会の評判を内側から落とそうと考える様な屑は不要です」

「ひ、人柱っ? なんの事だっ!?」

「あなた方がそれを知る必要はありません」


 屋敷神がそう口にすると、背後に立っていた薄い人型の何かが私達の身体に入ってくる。その瞬間、寒気が身体を襲い、段々、頭がボーっとしてきた。


「……身体の調子は如何ですか?」

「さ、寒い……。一体何を……」

「そうですか。順調の様ですね。それでは、皆様。さようなら。よい来世を迎える事ができるよう、心の底から願っております」

「はっ?」


 その言葉を最後に私達は意識を失った。


 ◇◆◇


「……さて、上手くいったようですね?」

「「はい。屋敷神様……」」


 この者達は現世に受肉する力すら持たない神々。

 どうやらこの者達の身体を乗っ取る事に成功したらしい。


「あなた方にも教祖様のサポートをして頂きます。神興会が大きくなれば、あなた方にも働きに応じた信仰心が入ってくる様になります。あなた方の働きに期待しておりますよ」


 そう言い残すと、私は元教祖達の身体を乗っ取った神々を後目に部屋を出る。


「悠斗様の父君と母君を迎い入れることができなかった事は残念ですが、地球における神興会の布教は順調そのもの……。信仰心を餌に神々の協力も取り付けました。しかし、流石は悠斗様です。帰りが遅いと思い地球に迎えに上がりましたが、こうなる事を見越していたとは……」


 悠斗様もようやく『神を統べる神』としての意識を持ってくれた様だ。

 神興会はこの先、多大な信仰心を集める為の組織になる。

「ふふふっ」と笑うと私は教祖様の元に『影分身』を向かわせる。


 そして、本体である私は悠斗様の待つ異世界ウェークに戻る事にした。


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 これにて『神様となった悠斗編』に終了となります。

 悠斗編をここまで見て頂き感謝ですw

 次回、何編を書こうかな?

 ちょっと、何編書くか煮詰まっていないので、何かあればコメント頂けると嬉しいですw

 よろしくお願いします。

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【書籍化】転異世界のアウトサイダー(旧題:異世界転移させられたのに無能扱いされ、捨て駒にされたので、これからは自由に生きたいと思います) びーぜろ @b090057

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