魔法が使える世界。
そんな世界に憧れを抱いていた。
なのに……
「なんで魔法が使えないんだー!?」
ボクの魔力は0だった。
「魔法がある世界と聞いて楽しみにしてたのに……」
例え、異世界であっても現実は無常だった。
ボクの名前は、石橋リュート。
中学2年生になったばかりの春。
学習院で勉強していた所、部屋にいた3人の生徒と共に異世界インディードの王城に異世界転移させられた13歳だ。
神様の名前は忘れてしまったけど、異世界転移の折、神様から『アイテムストレージ』と『石』なるスキルを受け取った。
しかし、それが悪かったのか、ボクの魔力は0。
他の生徒は神様からスキルの代わりにジョブを受け取ったようで、『勇者』『賢者』『聖女』のジョブを得た3人が王城で歓待を受ける中、ボクだけ追い出されてしまった。
いくら魔法が使える世界に転生しても、魔力が0では、魔法を使うことができない。
使うことができるのは、転生時に神様からもらった『石』と『アイテムストレージ』のスキルだけ……
ボクは『石』スキルを発動させ、手のひらに石を出現させる。
「見事な石だ……」
それ以上でもそれ以下でもないただの石。
ボクは項垂れた。
無一文で城から追い出されたため、金はない。魔力もない。異世界だから頼れる親も友達もいない。
『アイテムストレージ』に入れる物もないし、現状、頼れるのは、魔力なしでも使うことのできる『石』スキルだけ……
「これからどうしよう……」
金がない以上、このままここにいてはいずれ詰む。いや、既に詰んでいる。
そんなことを考えていると、冒険者協会と書かれた看板が目に付いた。
「冒険者協会?」
そういえば、ここは異世界か。
確か、前世で読んでいたネット小説によれば、13歳位からでも冒険者協会に登録できたはず……
リュートは立ち上がると、冒険者協会に足を向ける。
「このままここにいても仕方がない。怖いけど、冒険者協会に行って見るか……」
何もせず、餓死するよりかは遥かにマシだ。
そう呟くと、リュートは冒険者協会の扉を叩いた。
◆
「なんだ? ここは子供が来るような場所じゃないぞ?」
冒険者協会に入ってすぐ、冒険者風の男が声をかけてくる。
「し、仕事が欲しくて……」
怯えながらも切実にそう言うと、男はポリポリ頭を掻く。
「あー、悪い。怯えさせちまったか。俺の名はジョゼフ。この協会の支部長をしている。それで? お前、いくつだ?」
「13歳ですけど……」
「13歳か……まあ、確かに協会に登録することはできるが……13歳に任せられる仕事なんてほとんどないぞ? あったとしてもドブ攫いや掃除くらいだ。それなりに魔法が使えるなら討伐系の仕事もあるが、坊主一人だと流石にな……」
「な、なら、これを買い取ってもらうことは……」
先ほど作り出した石を取り出すと、ジョゼフは苦い顔をする。
「流石にただの石を買い取る訳にはいかないな。せめて、加工してあれば話くらい聞いてやれるんだが……」
「そうですか……それなら!」
リュートはスキルの力で石の人形を作り出す。
イメージはジョゼフのデフォルメフィギュアだ。
さっき石を作り出した時、頭の中で想像していた石とまったく同じ石を作り出すことができたので、なんとなく行ける気がしていた。
まあスキルに任せて作ったから、どんな鉱石で作られているかは知らないけど……
スキル任せにデフォルメフィギュアを作り出すと、ジョゼフは驚き目を瞬かせる。
「たまげたな……まさか、こいつは俺か?」
「はい。支部長をモチーフにしたデフォルメフィギュアです」
「デ、デフォルメフィギュア? なんだそれは?」
デフォルメフィギュアが分からなかったのだろう。
ジョゼフは首を傾げる。
「キャラクターの魅力をそのままに、頭を大きくデフォルメした可愛らしいフォルムの人形です。売り物になりそうですか?」
そう尋ねると、ジョゼフは眉間に皺を寄せ唸り出す。
「……確かに、売り物になるだろうが、これなら商業協会に行った方がいいだろう。流石に冒険者協会では買い取れない」
当然の反応だ。ここは冒険者協会。
素材ならまだしも、冒険者協会がデフォルメフィギュアの買取をしてくれるはずがない。
「そうですか……」
理解を示しつつ、しょんぼりした顔を見せると、ジョゼフは「……仕方がねーな」と頭を掻く。
「その形で仕事が欲しいってことは金がないんだろ? 正直、相場はわからねーが、折角、俺のためにデフォルメフィギュアを作ってくれたんだ。10万ゴールドで買ってやるよ。ただし、相場より安くても文句は言うなよ」
「え? いいんですか? こんな押し売りに近い形なのに買ってくれて……」
ジョゼフは頭を掻きながら言う。
「ああ、今日の俺がそうしたい気分だったんだから仕方がねー。それに、商業協会の登録には5万ゴールド必要だ。生活するにもある程度の金は必要だろ?」
ジョゼフは財布から金を取り出し、リュートに渡す。
10万ゴールドを受け取ったリュートは、嬉しさのあまり涙を流した。
「あ、ありがとうございます!」
「……まあ、なんだ。これはアドバイスだが、商業ギルドは清潔感を重んじる。お前、少なくとも10日は風呂に入ってないだろ。俺の息子の服を分けてやるから、今すぐその金で宿に泊まって、風呂に入りな。その上で、5万ゴールド持って商業協会に行けば、登録位はできるはずだ。あのデフォルメフィギュアが売り物になりそうかどうかは、その際、聞いてみるといい」
ジョゼフは、アイテムボックスに手を突っ込むと、服と靴を取り出した。
そして、それをリュートに渡すと、頭をガシガシなでる。
「……まあ、それでも商業協会に登録できないようであれば、俺の所に来な。その時は、冒険者協会の一員として迎え入れてやるよ。仕事はちときついかも知れないがな」
「はい! 重ね重ねありがとうございます!」
「おう。もし宿に泊まるなら『まどろみの宿』がおすすめだ。協会を出て、右に100mほど行った所にある。ちなみに宿の目の前は商業協会だ」
「わかりました! それじゃあ、行ってきます!」
ジョゼフから貰った服を持ち、そう言うと、リュートは『まどろみの宿』に向かって走り出した。
◆
「ここが『まどろみの宿』か……」
フクロウが眠る意匠の看板がトレードマークのジョゼフおすすめの宿屋。
扉を開けると、従業員の女の子がリュートの存在に気付く。
「いらっしゃいませ! 宿泊ですか? お食事のご利用でしょうか?」
リュートは壁にかけられた宿泊料金を確認しながら返事する。
「し、宿泊でお願いします。朝夜食事付きを3泊……あ、できれば、体を拭くものもお借りしたいです。石鹸とかもあれば欲しいのですが……」
そう尋ねると、従業員の女の子は笑顔を浮かべた。
「はい。3泊食事付きで1万5千ゴールド。石鹸付きで2万ゴールドとなります」
石鹸1個5千ゴールド……牛乳石鹸が百円で買えるだけに価格差50倍……
しかし、背に腹は変えられない。
商業協会に登録するには、清潔感が必要なのだ。
「わ、わかりました」
なけなしの2万ゴールドを支払い、宿泊名簿に名前を記入すると、女の子がタオルと石鹸、桶を手渡してくる。
「私はルーチェ。まどろみの宿の看板娘をやっています。風呂場はそこの角を右に行った所です。今の時間だと、一番風呂ですね」
「え? 湯船に浸かれるんですか?」
てっきり水で体を拭くだけだと思ってた。
リュートの疑問にルーチェは明るく答える。
「ええ、商人を相手に商売しているので、先日から風呂を導入したんです。態々、増築して作ったから広くて気持ちいいですよ〜」
それは幸いだ。
「ありがとうございます! それじゃあ、行ってきます!」
そう言うと、リュートは浴場へ向かった。
◆
「ふぅ……気持ち良かった」
何せ、久々の風呂だ。
記憶を辿れば、風呂に入るのは前世以来かもしれない。
ジョゼフさんからもらった服も新品だ。
これで商業協会に行く準備は整った。
ルーチェから受け取った鍵で部屋の中に入ると、リュートはベッドに腰掛け考える。
ジョゼフさんから貰ったお金があるため、商業協会に登録するまでは問題ない。
問題があるとすれば、その後だ。
宿泊料と協会登録料を除くと、現状、手元にある資金は3万ゴールド。
日本のように文化的で最低限度の生活を送るためにはどうしても金が必要になる。
そして、現状、金を稼ぐ手段は魔力を消費せず使うことのできるスキル『石』と『アイテムストレージ』だけ……
それならばまず、商業協会に登録し、こっちの人に売れるか分からない『デフォルメフィギュア』を売るより、スキルでできることを模索した方が良いかもしれない。
「……よし。決めた」
その日、リュートは部屋に篭り、スキル『石』でできることを片っ端から試すことにした。
◆
「……もう朝か」
スキル『石』の可能性を模索していたら朝になっていた。
宿に泊まれる貴重な一日を費やしての模索。
その甲斐あって、ある程度、スキルのことがわかってきた。
まず、スキル『石』は単なる石を作り出すスキルではない。
作り出す場所(座標)と、作り出す物(石)、そして、作り出す形状の指定が可能……つまり、攻撃に転用可能ということがわかった。
そして、一番の収穫は、作り出せる物が『石』単体ではないということ。
石とはいわば、鉱物の塊。
つまり、天然石や金鉱石などといった鉱物も作れることが判明した。
この世界において、金や銀に価値があるかどうかは不明だが、これは大きな発見だ。
そして、それら鉱物の特徴を活かし、作成したのがこのデフォルメフィギュアだ。
『まどろみの宿』の看板娘、ルーチェ。
その価格、20万ゴールド!
髪には金鉱石、まつ毛には黒鉱、目にエメラルド、唇にルージュを使った贅沢なデフォルメフィギュア。
もちろん、ルーチェさんからの許可も取得済。これを10体作成した。
全部売れれば200万ゴールド。
当分の間、働かなくても生きていける。
「そうと決まれば!」
リュートは早速、商業協会に向かうことにした。
商業協会の扉を叩き、中に入ると、職員の目がこちらを向く。
「いらっしゃいませ。本日はどの様なご用件でしょうか?」
「え、えっと、商業協会に登録したいんですけど……」
そう告げると、職員は笑みを浮かべる。
「当協会への登録ですね。それでは、こちらにどうぞ」
個室に案内されたリュートは、職員に促されるまま奥の椅子に腰掛ける。
「私は当協会の職員をしておりますマネージャと申します。本日はご来店頂きありがとうございます」
「い、いえ、こちらこそ」
「それではまず、当協会について、簡単に説明させて頂きます。当協会は……」
マネージャの話を聞くこと20分。
覚えることが多過ぎて脳がパンクしそうになっていると、その様子に気付いたマネージャが話を切り上げる。
「……詳しくは、こちらの手引書に書かれておりますので、時間がある時にゆっくり一読ください。説明は以上になりますが質問はございますか?」
「いえ、大丈夫です」
というより、話が難し過ぎて質問が出てこない。
そんな空気を察したのか、マネージャは優しく微笑んだ。
「そうですか。それでは、何か分からないことがあれば、都度、お尋ねください。次に、登録料についてですが、5万ゴールドの用意はございますか?」
「はい。持っています」
そう言って5万ゴールドを机に出すと、マネージャは複写式の書類を取り出した。
「確かに、頂戴いたしました。それでは、こちらの書類に必要事項の記入をお願いします」
「はい」
書類に目を通し、必要事項の記入を終えると、マネージャがブロンズ色のカードを渡してくる。
「手続きは以上となります。こちらが当協会の会員証となります。紛失すると、再発行に10万ゴールド必要となりますのでご注意ください」
再発行に10万ゴールドか……
超高いな。
しかし、無くさなければいいたけのこと。
リュートはポケットにしまう振りをしてアイテムストレージに会員証をしまう。
「最後に当協会で売りに出したい品物はございますか? 加盟から1ヶ月の期間限定となりますが、商業協会で商いを代行させて頂いております」
「え? そんなことまでしてくれるんですか?」
商業協会が商いを代行してくれるなんて初耳だ。
「はい。加盟したばかりの協会員の方の中には、開業前の方も多く、当協会ではそういった方のお手伝いを兼ねております」
なんて素晴らしい制度なんだ。
「それでは、お願いします」
そう言うと、リュートは『まどろみの宿』の看板娘、ルーチェのデフォルメフィギュアを取り出した。