Epilogue…うたについて

つくるうたこひうたばかり

うたううたこひうたばかり

泣き出すほどにせつなくて

潰れるほどに口惜くちおしく

哀れでやくざでやすっぽい

未練未練みれんみれんのやぶれうた


もうぇってんなと

とっつぁんは様式を勘当かんどう

なんてまずい食い物だいと

かみさんは思想を吐き出した

てめえほどの不見転みずてんも珍しいと

あんちゃん文法を売っとばしゃ

あちきゃおまえに飽いちゃったと

旦那だんなは理論を離縁りえんする

シュールも七五もソネットも

五言絶句ごごんぜっくも象徴も

みんな焚書ふんしょき目にわせ

瞽女ごぜサのかな艶歌つやうた

あいつのうたう子守歌だけ

この世に残りゃいいんだと

ふとどきなことを、ふと考える

人間、うたうために生まれたんで

お勉強しに生まれたんじゃねえやなどと

ふきんしんなことを、ふと考える

うたなんか女釣おんなつる道具だとモノの本には書いてはあるが

べらぼうめ

銭にならねえガラクタに惚れる女なんざ居やしねえ


おらぁ冬のうたコシャわんだがね

おらぁ北のうたコシャわんだがね

越後のザイゴの人間だすけに

雪のうたしか出て来ねやんだ


おまえのうたはせているといわれたはらいせに

ブランドもの羽織はおった横書きの「言葉」をとっ捕まえて

蒲田あたりの屋台の椅子に縛り付け

なあ、おめぇ、肥えたうたなぞあっちゃいけねぇ

本物のうたに成りたきゃ貧乏しなよと説教ばかりするせいか

うたは、ますます貧相になる


つくるうたこひうたばかり

うたううたこひうたばかり

黙り込むほどつれなくて

呆れるほどに無愛想ぶあいそ

そんなうたしかつくれない

そんなうたしかうたえない

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詩集「冬のかたち」抄 Mondyon Nohant 紋屋ノアン @mtake

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