第2話 ずるいよ

 そんなある日、金曜ロードショーの女が珍しく土曜日にやってきた。


 休みだったのかいつものスーツ姿ではなくTシャツに細身のジーパンというラフな格好だった。


 髪も束ねずに下ろしている。胸元にかかった髪が歩みに合わせて軽やかに踊っている。


(あぁ、実際はこんな長さだったのか)なんて思いながら、いつもと違うその姿に僕の胸は躍っていた。



 いつものようにDVDを二本、レジに持ってきた彼女は、僕の顔を一瞥することもなく会員カードを差し出してくる。


 会員カードを返す時に、ふと彼女の首元に赤い小さなアザがあるのに気づいた。


 ――虫刺され?


 白い肌に映えるそれがなぜか妙に気になり僕はそのアザを凝視してしまう。


 その時、彼女が僕の目線に気付きどこか焦ったように下ろした髪の毛を撫でてそのアザを隠した。


 (あぁ、気まずい思いをさせちゃったかな)と思った僕は目を伏せ、機械的に料金を受け取った。


 どこか足早に去っていく彼女の後姿を見送っていると、三好が声を掛けてきた。



「おい、見たかよ」


 ひどく下卑げびた笑顔を浮かべている。


「なにを?」


 意図が分からず僕は聞き返す。


「首元。キスマーク付いてただろ?」


「あっ、えっ?」




 ――キスマーク?



 その言葉を聞いた瞬間、鼓動が早くなりじわりと汗が滲んできた。


「いいよなぁ。珍しく土曜日に来たのは、昨晩お楽しみだったからかねぇ」


 三好の声がどこか遠くで聞こえている。



 キスマーク?

 あれが?


 キスマークってことは、そういうことで――。



 つまりは昨日、もしくは最近、彼女はどこかの誰かとセックスしたということだ。


 もしくは今借りていったDVDはその男と観るためのものなのかもしれない。



 そんなことを考えているとどんどん胸が苦しくなってくる。




 客と店員の間柄ではあるが、どこか彼女からは性的なそんな匂いはしなかった。


 僕も、今まで一度だって彼女をオカズにしたことは無かった。


 どこかそんなものとは無縁で、でも美しくて、儚い。


 僕の中での彼女はそんな存在だった。




 それが今壊された。




 キスマークだって?


 ふざけるなよ。


 誰かに抱かれたのかよ。



 彼女の後姿を思い出す。


 綺麗に輝くネイルを思い出す。


 ふわりと香る化粧品の匂いを思い出す。



 

 ふざけるなよ。


 誰かに抱かれたの?


 キスマークまで付けて?


 ふざけるなよ。誰にだよ。


 そんなことってないよ。



 

 そんなの、
























 ずるいよ。

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