子どもの頃、裏の白い広告が大好きだった。
せっせと集めては鉛筆を握り、気ままに絵を描く。
そんな思い出がよみがえる作品だった。
主人公の男性は、ネットカフェに寝泊まりをしている日雇い労働者。
備え付けの紙ナプキンに安物のボールペンで絵を描き続けている。
ある日、ネットカフェのスタッフの女性から絵を褒められた主人公は、創作意欲があふれ出してさらに絵を量産してゆく。
主人公の生活と心情が丁寧に描写されている作品である。
ままならない日雇い労働の生活のなかで、心躍ることがあったり、失意のどん底に落とされたり。
それでも、彼は絵を描き続ける。
創作とは本来、心の底から湧き上がる強い感情のようなもので、誰にも止められないものなのかもしれない。それこそ作者本人にさえも。
この作品のもっとも興味深いところは、主人公がほぼ0に近い元手で絵を描いているところ。あるときは備え付けの紙ナプキンに、あるときはもらいもののボールペンで。『弘法筆を選ばず』という言葉があるが、創作をするのに環境や道具は関係ないのかもしれない。
なんならピカソやダリといった巨匠たちが紙ナプキンに絵を描いたという逸話さえ彷彿とさせるのだから、そういうところもまた面白い。
さて、気になるのは主人公の行く先。
彼の人生はひょんなことから変わってゆく。ラストには思わずニヤリとさせられた。
きっとこれからも、主人公は軽率にいろんなものを手に入れたり、失ったりしながら、それでも絵を描き続けるのだろう。
読む人によってどこをポイントに見るかが変わってきそうな面白い作品である。
このレビューを読んでいるあなたも、ぜひこの作品を味わってみて。