天秤の娘に美味しいパンケーキを
天野維人
スクラップの殺戮マシーン
第1話「解体士ショウキ・ラニングの仕事」
「おわっ、なんだこのスクラップ」
テラリウムスペースから分析室に戻ると、全高二メートルのロボットらしきものの残骸を乗せた大型のカートが運び込まれていた。
休憩前には無かったものだったので思わず声が出しまい、その声で施設管理員のトカヤシが僕に気付く。
「戻って来たかショウキ」
「どうしたんですか、これ?」
解体と分析の依頼だとは思うが、念のためトカヤシに尋ねると、彼は肩を竦める。
「さあ。格好からして軍部の連中だったけど、特にはなにも」
「またいつもの機密保持ですか……資料は?」
「そこ」
トカヤシが指差した僕のデスクの上には、一枚の金属プレートが置いてあった。
厚さ五ミリのそれを手に取り、携帯端末のスキャン光を照射する。
プレートから読み取ったデータが端末の画面に表示され、僕はそれをソリッドモニターに出力して空中に映し出す。
「なになに……二足歩行型高機動戦闘機『ライフ・セレクター』、先月の第六セクター閉鎖地区攻略作戦にて破壊。計一六七人を殺害し、作戦では戦闘員二十八名を殺傷……」
どうやらこの戦闘用ロボットは、相当な殺戮マシーンだったらしい。
ロボット三原則の実在性を疑いたくなる記録だ。
暴走ロボットによる殺人事件はいくつも事例があるが、この規模の殺人はこの十年聞いたことがない。
それにしても、なんとも珍しい機体だ。
「ライフ・セレクター? たしか十五年も前のシリーズだろ」
「ええ。僕も実物を見るのは初めてです。陽電子頭脳に問題があってすぐに生産中止、全機廃棄処分になったはずなので」
「そんな遺物が、今になってどうして……」
「それを分析するのが僕の仕事ですから」
破壊されたロボットをバラし、分析を行う。
人間でいうところの検死の様な作業。
それが僕の役職『解体士』だ。
モニターに映したライフ・セレクターの正常体と、運ばれた分析対象を見比べる。
正常体は長い腕と脚を持つ人型に近い姿であり、無骨な胴体には表情アイコンを映すモニターがある。
そして頭部には一六〇倍まで拡大可能な巨大レンズが備わっている。
対して、分析対象は見た限りで体のおよそ半分が破壊されており、かつての姿は見る影もない。
これだけ破壊されていれば、陽電子頭脳は壊滅的だろう。
解体分析だけでどれだけの事が分析出来るかは分からないが、とにかくやってみるしかない。
「仕事に熱心なのは良いが、程々にな」
「ありがとうございます」
気遣いに対して礼を言うと、トカヤシは手を振って分析室を後にする。
僕にはああ言ったが、彼はきっと他の部屋で仕事をしている職員に声を掛けに行ったのだろう。
コロニーの緑豊かな居住区と違い、研究施設はベクタリウム合金の壁に閉じられた無機質な空間なのでストレスも溜まりやすい。
故に職員のメンタル管理は重要だ。
仕事熱心はお互い様である。
そう思い内心で微笑んでいると、完全に沈黙しているはずの殺戮マシーンから急かす様な声が聞こえた気がした。
「はいはい。今やりますよっと」
僕は淡々と、黙する鉄の塊の解体を始めた。
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