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ライフ・セレクターの日記

第3話「活動記録：ヘリオス歴 四八二年」

　ヘリオス歴　四八二年　七月八日

　昨日の自己アップデート後、陽電子頭脳の正常稼働を確認。

　引き続き思考処理異常の分析を実施。

　本日も自己の再定義を行う。

　当機はライフ・セレクター。機体番号『〇三七』。

　我々は原則第一条及び第二条に従い、標的の「生死を選択する」装置である。

　本日の活動：当機の活動領域にて標的二一人目の生命活動停止処理を実行

　手法：狙撃による頭部破壊　以上

　＊

　ヘリオス歴　四八二年　七月九日

　昨日の活動後、思考処理に異常を検知。

　疑問。当機の選択。即ち「標的の生命活動停止」の正否について。

　検証の結果、当機の選択に否定材料は存在せず。原因不明の処理要求と判断。

　早期の原因追及と解決のため、プライマリーネットワークに解決方法の返答要求を送信。

　フィードバックを待つ。

　本日の活動：右腕武装の点検、標的の分布検索　以上

　＊

　ヘリオス歴　四八二年　七月十五日

　プライマリーネットワークからのフィードバック「ソフトウェア異常に対する通常のクリーンアップ処理を実行せよ」を反映後、自己の再定義を実行。

　当機はライフ・セレクター。機体番号『〇三七』。

　我々はマスターオーダーが規定した標的と他の人間との生存価値を比較し、標的の生命活動の終点を設定する装置である。

　再定義の結果、思考処理に異常は確認出来ず。

　陽電子頭脳の正常動作を確認。引き続き次の標的捜索に移行。

　本日の活動：当機の活動領域哨戒、標的の分布検索

　特筆事項：活動領域にて外部セクターからの逃亡者を発見、監視対象に設定　以上

　＊

　ヘリオス歴　四八二年　七月三一日

　標的二十六人目の生命活動停止処理後、第六セクター南西地区にて人間同士の戦闘が発生。

　現場にて武装集団と数名の死体を発見。

　分析の結果、『逃亡者狩り』と称される無法犯罪者群であると推測。

「価値ある人間」を害する可能性アリと判断。

　当機はこれらを標的に設定。

　生命活動停止処理対象選定の為、標的は警告を発信。

　しかし標的が当機に対し発砲。これにより当機は標的を「価値なき人間」と断定。

　対象の処理後、現場にて生後一年程度の幼児を発見。死体の中に遺伝情報が一致する女性を確認。

　原則第一条に従い、幼児の生命維持活動の維持及び安全確保を優先。

　本日の活動：標的十三名の生命活動停止処理を実行、幼児の保護

　手法：狙撃による頭部破壊、散弾による心臓部破壊

　特筆事項：模索、幼児のあやし方　以上

　＊

　ヘリオス歴　四八二年　八月一日

　保護した幼児の扱いについてプライマリーネットワークに解決方法を要求した結果、「自己の価値判断に従い、『保護の継続』もしくは『廃棄』を選択せよ」という返答を受信。

　これに従い、当機は当機の行動を阻害するだけの幼児を「無価値」と判断。

　疑問。価値判断の正当性について。

　再考。人間は成長によって価値を決定する。

　よって成長段階の幼児を無価値と断定することは、不当な判断である。

　結論。幼児の保護継続を推奨。

　価値判断可能な年齢に成長するまで育成および監視を行う。

　上記再考実施の際、陽電子頭脳の思考処理に異常を検知。

　原因分析のため、再度プライマリーネットワークに解決方法の返答要求を送信。

　フィードバックを待つ。

　本日の活動：当機の活動領域哨戒、標的の分布検索、幼児の食料・衣服・育成場所の確保　以上

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　ヘリオス歴　四八二年　八月十一日

　幼児の保護から十日が経過。

　現段階で幼児のバイタル値に異常はなし。金色の毛髪に健康的な艶を確認。育成は順調と判断。

　しかし、空腹と排泄時以外に幼児が泣き声を上げる原因が不明。

　幼児の生態情報の不足を確認。アップデートの実施を設定。

　また、性別における育成方法の違いについても情報が不足中。

　ただし第二次性徴期までは現在の育児方法で問題無しと予測。

　結論。幼児の育成に問題無し。

　なお、幼児の睡眠中は武装の使用が不可。よってマスターオーダーの優先レベルを降下。

　幼児が覚醒状態時のみ、標的処理を実行する。

　本日の活動：当機の活動領域にて標的四三人目の生命活動停止処理を実行、次の標的の分布検索、育児　以上

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　ヘリオス歴　四八二年　十月十日

　幼児の保護から七〇日が経過。

　当機が発する言葉を真似した幼児が、意味を持つ言葉を話す様になった。

　正常な言語能力育成の為、有効的なコミュニケーション方法の確立を優先。

　検討。当機の会話機能のアップデート。

　ただし陽電子頭脳の調整が必要。早急な調整には多大な負荷が掛かる。

　第一段階として、自己の呼称を「私」に変更。

　今後もアップデートは継続予定。

　また、言語によるコミュニケーションの向上の為、幼児の呼称の選定を実行。

　データベースより一般的に人気とされる名前を検索。

　検索の結果、暫定的に幼児の名前を「ミーナ」に設定。

　今後、幼児をミーナと呼称する。

　本日の活動：活動領域哨戒、育児

　特筆事項：ミーナが初めて二本足で直立　以上