次の週の土曜日、七森さんと仲の良いクラスメイト数名と私と幸は、遠くの街に行く七森さんを見送った。彼女は晴れやかな表情で電車に乗り込み、手を振っていた。

 私は、先日の七森さんの勇気ある行動から自分の行動を省みる必要があるんじゃないかと思った。七森さんに比べれば、私は今の状況に甘んじた小心者なんじゃないかって。

 かといって、告白だとかそんな大それたことはしたことがないから、いつどのタイミングでどう切り出していけばいいかわからないよなぁ。でも、七森さんはやり遂げたんだ。私と境遇は違うけど、やり遂げたという事実は本当にすごいと思う。七森さんみたいに告白なんてできるのかな、私に。

 そんなことを思いながら、見送りの後七森さんと逆方向の電車のに乗る私と幸。私たちの間はいつもより静かだった。相変わらずボックス席に向かい合っていたけど、静かだった。

 幸は窓枠に肘を置き、車窓からの景色を眺めながら、言った。

「しっかし、美幸が七森さんの見送り行こうなんて言うとは思ってなかったから、意外だったわ」

「あー、見送りは賑やかな方がいいじゃん? 七森さんに良かったら来てねって言われてたし」

「そんなに仲良かったっけ? 美幸と七森さん」

 幸は少し機嫌が悪そう。なんでだろう、私が何かマズいことをやらかしてしまったんだろうか。

「こないだ居残りした時、仲良くはなったかな」

 頬を掻きながらそう言ってみたが、ぎこちなくなっていないだろうか。あのことは流石に幸には話せない。私は空気感を変えようと声のトーンを上げた。

「なにーさっちんひょっとして妬いてるの? 美幸ちゃんはいつだってさっちん一筋だぞー」

 幸は頬を膨らませながら、こちらを睨んだ。

「妬いてないーてか、そんなん知ってるしー!」

 その少し拗ねた顔が可愛くて、私は……

「もー、さっちん、大好き!」

 やっと、屈託ない気持ちでその言葉を口にした。

 幸は拗ねた顔を和らげて、

「いいこと教えてあげようか?」

 と何か企んでいる顔で言った。私は頷く。

「私も、美幸が大好きだよ」

 そう言った幸は笑顔だった。意味なんかわからないけど、そう言ってくれたことがただ嬉しかった。

 私たちの、思いの通じてるような、通じてないような、よくわからないちぐはぐな関係はもう少し続くんだろうな。でもそれを自分の不幸だと思うのはもうやめようって思う。大好きな人が私の目の前で笑う。これ以上の幸せってきっと無いはずだから。七森さんを見て、そう思った。

「さっちんさー、大好きって、どういう意味なん?」

「意味も何も、大好きはー、大好きだよ?」

「えへへっ」

「何その笑い」

「ふふふ、んーてかさ、さっちん。この後どうするよ」

「カラオケでも行こうかー」

「いいねー」

 電車のボックス席。他愛ない会話を幸に投げる。

 くだらない話をして、幸が笑う。

 君がいれば、大体楽しい。

 これが、私の尊い日常。


(2019年1月15日 百合文芸小説大賞出品作品 再録)

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