届いていた手紙
「宗獏がこの村を訪れている、だと? あの男が、ここにいるのか!?」
「落ち着け、栞桜! 馬鹿な事考えんじゃねえぞ?」
「わかっている! わかってはいる、だが……っ!!」
仮拠点に戻った燈の口から、先の宗獏と顔合わせをしたの際の出来事を報告された栞桜がやり切れない感情を必死に押し殺した様子で喉の奥から声を絞り出して答える。
直情的な彼女は怒りや哀しみといった感情を判り易いくらいに表情や動きに表しており、その姿を目の当たりにした燈は、やはり宗獏という男は栞桜ややよいにとって相当な因縁を持っている相手なのだろうと改めて思った。
「……取り合えず、あの爺が死ぬほど性格の悪い奴だってことはわかったよ。それと、お前らが過去に受けた実験に関わってることもなんとなくだが理解出来た」
「関わっているなんてもんじゃない! あいつは、宗獏は、非合法な人体実験の発案者であり、あの実験を主導した張本人だ! つまりあいつは、多くの子供たちの命を実験と称して奪い続けた殺人者なんだよ!!」
「そんな男が幕府お抱えの七星刀匠としてだけでなく、領地を治める主として登用されているだなんて、世も末ね……」
「仕方がないよ。宗獏は性格はクズだけど、研究者としても刀匠としても間違いなく天才なんだから。幕府が多少の問題に目を瞑ってでも手元に起きたいと思う人材なのは間違いないもの」
栞桜とやよいの心と体に大きな傷を残した人体実験の責任者であり、多くの子供たちの命を奪った張本人である宗獏は、その悪行に反した高い地位と誉れを幕府から与えられているようだ。
そういった悪行が世に知られていないこともあるのだろうが、その地位と名誉に見合った才能を有していることを悔しそうな表情を浮かべながら認めたやよいの言葉に続いて、こころが口を開く。
「あの……実は、燈くんたちが出掛けてちょっとしてから、桔梗さんたちからの手紙が届いたの。帰ってきたら伝えようと思ってたんだけど、もしかしたら――」
「師匠たちがこの永戸の領主が宗獏だってことに気が付いて、俺たちに忠告をしようと手紙を寄越してくれたのかもな。けど、本当にちょっとだけ遅かったか」
こころから手渡された手紙を見ながら、燈が呟く。
おそらくはここに自分が知りたかった情報が書かれているのだろうと考えた彼は、一旦それを畳の上に置くと、仲間たちの顔を見回してからこう言った。
「こいつを読むのは、蒼天武士団が全員揃ってからの方がいい。蒼を探してくるから、ちょっと待っててくれ」
「それなら、あたしが――」
「いや、俺が行く。今、あいつはお前と二人きりにはなりたくないと思ってるだろうからな」
「………」
普段通り、蒼の女房役を担っているやよいが彼を探しに行くと言おうとしたが、その言葉を遮った燈は彼女の意見を却下し、自分が行くときっぱり言い切った。
いつもならば蒼のことを自分に任せてくれる燈からの意見に口を閉ざしたやよいは、黙って目を伏せると小さく頷き、了解の意を示す。
「……椿、涼音、俺が戻るまでの間、二人のことを頼んだ。栞桜もそうだが、やよいの奴も冷静じゃあねえ。少しでもいいから、落ち着かせてやってくれ」
「うん、わかった」
「了解」
唐突に仇敵と顔を合わせ、己の過去と対面することになってしまった動揺を抱えているであろう二人を心配した燈が、後のことをこころと涼音に託す。
そうした後、自分が話をすべき相手である親友の顔を思い浮かべた彼は、ほんのりと漂う気力を辿ってその姿を探しに夜の街を駆けていった。
和風ファンタジー世界にて、最強の武士団の一員になる! 烏丸英 @karasuma-ei
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