コンテストに100回落ち続けたワナビ、復活の序章・・・実際は序章ではなく落ちたところで書かずにはいられないから書いてるんだけどねファッキンが!

naka-motoo

◯◯ヨムコン5

Tてい :カク◯◯コン5に落ちた

A子えーこ:T!ドンマイ!

B子びーこ:ネバマイ!


 ネバマイ・・・なんか、響きが汚いなあ・・・


 小説コンテストに落ち続けてその度に場末の居酒屋で慰労会を三人して開いていたけど疫病の自粛の折とてオンライン飲み会なるものをやってみた。


 画面に向かって愚痴を言ってたらアパートの大家から苦情が来た。


「ブツブツうるさい!パソコン持参で居酒屋へお行き!」


 意味が分からない。


 自部屋にすらわたしの居場所はないんだと寂しい気分にひたりつつネットで騙されて買った喋ると顎が完全に露出し、下唇も見えそうで見えなくて人々に不快感を与え続ける布面積の狭いマスクを装着してドブ川の横を歩いてみた。


「おねえさん、おねえさん」

「うん?わたし?」

「そうですよ死んだ魚の目をした

 おねえさん」


 なんだこの子供ガキは。


「アンタ、なんなの?小学生?」

「学校へ行きたくても行けない5粘性男子です」

「5年生の漢字が間違ってるけどまあいいや。まあ疫病で休校中だもんね」

「いいえ。その前から不登校でしたが」


 咄嗟にわたしのお腹の中のアラートが鳴り出す。いや、そもそもファーストコンタクトで警戒すべきだったけどほろ酔いが判断を鈍らせた。


 この小学生男子は危険だ。


「じゃあ、達者で」

「待ってくださいおねえさん。今から僕と小説対決しませんか?」


 ・・・・・・・・本気でマズい。


 眼鏡で一見文学少年に見えないこともない風貌だけど、わたしに向かって死んだ魚の目とほざいたその本人の目が、1000回ぐらい遊んで傷だらけになってなんの輝きも持たなくなったビー玉みたいだ。


 しかも、グレーの。


「じゃあ」

T-婦情てい ふじょうさん!」

「・・・なんでわたしの名前を」

「ふふふ・・・プロを目指す小説書きでアナタを知らない人間はモグリですよ。みんなアナタを指標としてますから」

「指標?」

「コンテストを通るためにはつまりあなたとは反対のことをやり続ければいいのだと」

「・・・・・・」


 返す言葉もないわ。

 まあ、疲れるからさっさと負けてさっさと帰ろう。


「分かったよ。で?ジャンルは?恋愛?ホラー?青春小説?」

「異世界転生」

「・・・ごめん、無理だ。わたしには書けないよ」

「いいえ!書けるはずです。書かないだけで」

「・・・そうだよ。100回以上コンテストに落ち続けといてポリシーなんて言えた義理じゃないけど、異世界を書くのだけはわたしのプライドが許さない」

「ふ。僕も同じ意見です。あれは小説ではない。でも売れてる。そこを無視して小説家になろうなんて甘いですよ」

「ぐう・・・」


 ぐうの音だけは意地でも出した上で不本意ではあるけれどもわたしは異世界を書いた。


 5分で。


 このクソガキなどは4分で書いた。


「では、講評しましょう」

「ちょ、ちょっと待ってよ。アンタが講評すんの?」

「そうですけど」

「そ、そんなんわたしに不利に決まってるじゃない!」

「いいえ。コンテストの審査は『高い見識を持った人間』が行っていますので」

「なんだそりゃ」


 面倒なのでいう通りにした。

 わたしの小説を読む前にクソガキの小説を読ませてくれた。


「?筋トレしてレベルが10000上がった・・・?」

「そうです。この異世界へ行く勇者はそういう特異体質なんです」

「まあまあだね」


 わたしは玄人っぽいコメントを敢えてした。でもそもそもまあまあなのかすごくいいのかダメダメなのか全くわからないのだ。


 筋トレしただけで中空から武器が湧き出る。

 ツンなセリフを吐いとくだけで女神が寄ってくる。

 深刻そうな技(?)の名称を唱えるだけで超常現象が起こって敵が駆逐される。


 なんだこれ。


「では、Tさん、アナタの作品を」


 そもそも『作品』だなんて呼べるのかわかんないけど、わたしは安物を大量に買い出しして忍者の巻物みたいに長くなったスーパーのレシートの裏にわたしが勤める広告代理店の社長(地方新聞の折り込みチラシを印刷する会社の社長)が町内会のゴルフコンペに行った時にネコババしてきたスコアをつけるための芯が先っぽだけについてる鉛筆もどきを使って殴り書きした異世界小説をクソガキは眼鏡の位置を直しながら読んだ。


「すば、らしい・・・!」

「な、なんだよ・・・」

「自分の書いた小説しか存在しない異世界!そこに転生したアナタは自分の小説を読まない人間に片端から捜査令状を出してまずは留置所で冷凍もせずに一週間台所の小皿の上に放置してあった本当に臭いメシを容疑者に食わせ、その上裁判が始まれば裁判長を買収して極刑を言い渡させようとした

 ところを裁判員制度の裁判員たちが理不尽すぎると必死で抵抗するものだから無期懲役で我慢し、またさらにアナタの小説がSNSでディスられたりスルーされたりした場合には個人情報保護法を逆に最高レベルに引き上げて運転免許の更新手続きから果てはスーパーマーケットのポイントカードを作るに至るまでのあらゆる場面で個人の特定をできないようにすることによって本来ならばポイントカードで買えるはずだったひと缶45円の絶望的安さのコーヒーすらそのままの価格で飲まざるをえず」


 長いな。

 あ。まだ続くんだ。


「つまりは自作の小説しか存在しない世界では結局そのオンリーワンの小説自体がつまらないので小説という文化そのものが消え去ろうとした自己責任にすら腹を立てて八つ当たりの限りを尽くす!完全に自分に都合のよい設定のみを整える、異世界小説の王道だ!あ、ただ、アナタの小説がつまらないという点だけは現実世界と同様リアルですね」

「ほっとけ!」


 いよいよこの世界じゅうの誰もがやらなかったふたりきりのコンテストの最終結果発表だ。


「勝者!ボク!」

「お前を異世界に転生させてやるわっ!」


 わたしはクソガキのお尻を蹴ってドブに墜とした。

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