DEAL

 <エイトボール>が90年式のリンカーン・タウンカーを停めたのは、スー・フォールズ という街の元地ビール工場跡。

 完全な廃墟だ。 

 中西部にちゃんと産業で栄えている街はない。

 ここで、出来たビールを飲んだ親父が嫁と娘を殴るそれも中西部の基礎教養だ。

 そこに六人の負け犬が到着した。

 一路北上しネブラスカ州から到着したサウスダコタ州も例外ではない。

 ノースダコタ州には寒さと雪しかなく。

 サウスダコタには牛と国立公園しかない。

 アメリカっぽい景色を娼婦のように身売りし観光でしか養えない少数の人間を州にへばりつかせている。

 牛かコヨーテに生まれたほうがプライドが傷つかなくて済むそんな州だ。


 「さみぃー」


 <クイック・フッター早足>が車から降りた途端、白い息を吐きながら小さな声をもらした。

 十一月を南北ダコタ州では秋とは呼ばない。

 みんな外に出たら顔をしかめるだけ。

 秋はほぼない。

 時刻は夜中の一時ちょい過ぎ。

 余計に寒い。


 廃墟の地ビール工場あとに、もう<ジェリー・マウス>一味は到着しているらしい。

 GMの18年式キャデラックCT6が一台に これまたGMの07年式ハマーH3が二台に 04年式シボレー・エクスプレスが一台。

 キャデラックCT6だけはエンジンがかかったまま。

 排気管からは白い煙が弱く上がっている。


頭数あたまかずじゃ、負けてんじゃねえのか」


 <クイック・フッター>が言った。


「おい、<アニマル・ダディ>、後ろのトランクだって」


 <エイト・ボール>がうながす。

 大きな<アニマル・ダディ>はゆっくりと、トランクからジュラルミンケースを取り出す。

 中身は所持しているだけで逮捕される白い粉。

 これを、スロベニア系マフィアの<スラヴィー・マウス>一味に換金してもらう。

 <アニマル・ダディ>は軽々とジュラルミンケースをビジネスマンのように持ち運ぶ。

 ベルリンの壁が崩壊し東欧が資本主義と言う名のギャンブルに参加しだしてから、中西部の最下層にもなんとかスキーとか、なんとかビッチとかいう名の人間がどんどん送り込まれてくる。

 もともと居る負け犬たちは、その全員を打ち負かすか、タッグを組むか、ひざまずくか、しないといけない。

 そもそも、連中はエアバスに乗ってわんさか大西洋を越えてやってくる。全員を打ち負かすなんて到底無理な話しだ。

 中西部は人より牛のほうが多いわけだし。牛は牛乳を絞られるより肉になるわけだし。


 <エイトボール>が気弱なワル<イーク泣き屋>に言った。


「おまえだけ、車に残ってても良いんだぜ」

「一人で残るのは怖いから、付いていくよ」

「誰かが、車の番をしないといけないかなと思ったんだよ。好きにしろよ」


 廃墟の工場に近づくとヴィーンと嫌な音が聞こえる。

 そして鈍い灯り。

 <スラヴィー・マウス>一味は発電機を持ち込んでいるらしい。


 

 

 


 

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そんなことには、ならねぇよ 美作為朝 @qww

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