第6話 今日を生きる

 ミコは、もうすぐ57歳になります。


 そして、相変わらず『カクヨム』での活動を細々ですが続けています。

 月さんとの交流も続いていて、ミコは月さんの影響もあって、詩とは別にカクヨムで日記も書き始めました。

 今度は短くてもいいから、一つの物語を書き上げてみたい。

 そんな目標(野望?)も持つようになりました。


 こんな風に自分の引き出しの数が、ほんの少しずつでも増えていくのは楽しいものです。


 カクヨムの中では月さんの他にも女性の友達や、それから男性の友達もできました。

 共通の趣味を通じて、色々な年代、性別の人と話ができるのは新鮮でした。

 今までの自分の世界が、いかに狭かったかを感じたりして、それにしても少し前までの自分が嘘のようだとミコは思うのです。


 ほんのちょっとのきっかけで自分の中の何かが動き出す。

 だから人生は面白いのかもしれません。


 *


 今日もカクヨムをやめて消えていってしまう人はいます。

 ネットの世界は気軽に参加できて自由です。でも、いなくなる人を引き止める術を周りは持ちません。


 ミコだって、そして月さんもまた、いつか此処からいなくなる時は来るでしょう。


 ネットに限らず、どんなことでも、現実の世界でも、終わりのないものは無いのですから。


 それでも、この長い人生の旅路で、言葉を交わし、共に過ごした時間を、想いを、忘れがたく、宝物のように胸に仕舞いたくなる時があるのだということ。


 そのことに気づけたことが嬉しい、とミコは思うのです。


 今までのミコは、無意識に過去を封じ込めようとしながらも過去に囚われ、それでいて自分の感情まで閉じ込めるようにして、未来の扉を自分で開けることを恐れていたのですから。


 *


 ある日のカクヨムで


 ” 過去を置き去っていかなくてもいい

 ただ其処に囚われてしまわないで

 持っていきたい想い出だけを

 しっかり胸に抱いて歩いていけばいい ”


 月さんの詩にこんな言葉があって、ミコは思わずコメントしました。

『とても勇気づけられました。まるで自分自身の心に語りかけていただいたようでした。月さんの言葉はいつも、まるでわたしの心を代わりに綴って下さっているようです』


 月さんからの返信には

『この詩、ずっと囚われている自分に言い聞かせている言葉なんです。だから、そんな風に共感していただけるとすごく嬉しいです。こちらこそ、ありがとうございます』

 と、ありました。


 ああ、月さんもやっぱり、悩んで時にはうずくまって動けなくなりながらも自分を励ましながら、踏ん張って生きているんだ。弱音も吐くし強く生きてきたばかりじゃないんだ。

 そんな当たり前のことを今更に思います。


 *


 カクヨムでは、月さんの意外にお茶目な一面も発見したり、ミコ自身も自分のヘタレっぷりを再認識したり。

 文章を通じてだから、顔も本名もわからないからこそ、素直にポロッと出てくる気持ちの欠片かけら

 それは心が開放される気がして、何だかちょっと笑ってしまうような喜びなのでした。


 *


 カクヨムのお仲間も、みんなそれぞれに穏やかで優しい人達でした。


 趣味の話をしたり、オススメの本や音楽を教えて貰ったり……。

 知らなかった世界を教えてもらうことの楽しさに心踊ります。


 それにしても、心を揺さぶる作品を書く人達がこんなにいるんだと知ったことは驚きだったし、そんな人達と親しくやり取りできるのもミコにとって嬉しいことでした。


 *


 ネット社会では、匿名性が良くない方向に働いて時々、悲しい出来事が起こります。

 それもやり切れないことだけれど、確かに一つの事実です。

 でも現実リアルの顔も名前もわかっている世界でも思い遣る心を失えば、それは同じように起こります。

 場所や状況もあるけど、結局は”人の心”の問題じゃないだろうか。


 最近のミコは、そんなことを考えたりするのです。

 言葉を綴るということを通して、ミコは色々なことを教わっている気がしています。


 *


 現実リアルのミコは相変わらずといえば相変わらずの生活を送っています。

 新型肺炎の影響はまだまだあるし、それでなくてもインドア派のミコは、そのせいで毎日の職場への往復と持病の病院に定期的に通うのとスーパーへの買い出しが精一杯。


 でも職場の同僚とも以前より親しくなって、オンラインお茶会をしたりするようにもなったし(でも、カクヨムで詩を書いているのは、恥ずかしいから秘密です)何より笑顔が多くなったと言われます。


 今日という日を、その一つ一つを愛おしんで、弱い自分を認めてやりながらでいい、大切に生きていこう。


 そう思えるように、ミコはなっていたのでした。

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