第5話 縁
初めて、その人のプロフィールを読んだ時の驚きは忘れられません。
そこには
『一年ほど前まで「月の
の一文がありました。
そして、前には細々とブログで詩と日記を書いていたけれど、そのサービスが無くなってしまったこと。
色々あったけれどその後、この『カクヨム』を友人から教えて貰って、此処で作品を公開していこうと思ったということが簡潔に書かれていました。
『あの ”月さん” だ!』
サイトの名前、ペンネーム、そして何よりも『カクヨム』で少しずつ公開されているのは、あの時ミコが読んでいた詩だったのです。
それは思いがけない再会でした。
ネットの世界、それも一方的に知っていて、まさに夜空の月を見上げるように憧れていたその人の名前を、此処で見つけることができたなんて……。
胸が震えるような感動を覚えて、縁というものの不思議をミコは感じました。
*
「月の
今は新しい詩が一日一篇、朝に更新されていくのを楽しみにしています。
コメントで交流させてもらうようにもなって、それは思いがけなくも嬉しいことでした。
交流をしていって少しずつわかってきたことがあります。
月さんは多分ミコと同世代の女性らしいということ。
学生時代から詩を書き続けていて、やっぱり本が大好きなこと。
もう随分前に、ご主人を亡くされて、遺された息子さんを一人で育ててきたこと。
ミコに子供はいなかったけど、共通点の多さは、ああ、それで月さんの書く詩にあんなにも惹き付けられていったのだと納得させられるものでした。
何処かでミコは月さんの詩に自分を重ねていたのでしょう。
まるで、もう一人の自分が代わって気持ちを綴ってくれているような、そんな気がして……。
「月の
その後も「月に吠える」の詩だけはカクヨムで再掲されることはなかったのです。
「月の
でもそれ以上に……それは月さん自身が話してくれるならまだしも、何も知らない人間が不用意に踏み込んではいけない大切な部分の様に思えたのでした。
*
当たり前のことですが、ネットに書かれたものだけが、その人の全てではありません。
むしろ、ほんの一部分だろうとミコは思っています。
ただ、その一部分は、現実にその人に接しているだけでは、なかなか知ることができないことでもあります。
心の奥底の扉を開こうとすると、時に年齢や性別、現実の”顔”は
その
*
カクヨムの自主企画の中で『百の質問に答えてください』というものが時々あります。
答えを読んでいると、それぞれの作家さんの知らなかった部分などが垣間見れて、とても面白い企画です。
ミコも参加したことがありますが、質問に頭をひねりながらも考えながら答えていくのは楽しいものでした。
ある日ミコは、そんな企画の一つに、月さんが答えているのを見つけました。
*
沢山のある中ほどにあったその質問は
<あなたは、生命をかけてもいいと思うほどの激しい恋をした事がありますか?>
というものでした。
ドキン、としました。
その問はミコ自身が自分に問いかけたことがあるものだったからです。
『もう恋なんてすることも無いと思っていたのですけど、本当に”恋はするものでなく落ちるもの”なのですね(笑) また失くしてはしまいましたけれど……』
月さんの答えは穏やかで、そして少し寂しげでした。
『失くしたのは、やっぱりそのひとを亡くしたということなんだろうか……』
あの時サイトで「月に吠える」の詩を読んでいたミコは、そんなことを考えたりしてしまいます。
今でも覚えている
>全てをずっと抱きしめて往く
という一節に、ただ恋を失っただけではない覚悟のようなものを感じたからです。
『そして……この詩を最後に月さんは、あのサイトを閉じたのだった……』
でも全てはそれこそ、ミコが心に秘めている憶測にすぎないことなのですけれど。
*
ミコと月さんの交流は続いています。
月さんはミコとは離れた地方に住んでいるようでした。そんなことも少しずつわかってきました。
知れば知るほど、お互いに『わかる!わかる!』と言いたくなることが多くて、ミコはコメントのやり取りをしながら楽しくなってクスッと笑ってしまいます。
この
それは、とてもとても嬉しくて幸せなことでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます