第1話

精神医学を職業としていた専門分野の2人がいた。その内の1人は、臨床心理士で、いわゆる「心理カウンセラー」。

 もう1人は、サイコセラピストで、

 いわゆる「精神療法士」。だ。

 2人とも頭脳も人脈にも優れていたため、信頼を買っていた。

 臨床心理士は、「ニーナ・ユイナー」。と、名乗るモデルさながらの美貌に、スレンダースタイルも兼ね備えた超絶的な美女だ。

 精神療法士は、「カナエラン・ユイナー」。

 と、名乗るこちらの女性は、妹に当たる存在だ。

 美女である事には違いはないが、姉とは違って、少しぽっちゃり系のかわいい女の子って感じだ。

 2人は、「訪問カウンセラー」。として、またある時には、「在宅療法士」。としても業務をこなしていたのだった。

 持ち得ている知識は異なるも、業種は一緒であるため、一心同体の関係で、仕事に専念していた。

 ある時、向かうべき目的の場所へと一緒に車で向かっていた。

 この時、使用している車は、妹のカナエラン・ユイナーが所有しているツーシータータイプのオープンモデルの「ミニクーパー」だ。

 徐々に速度を増していくなかで、風を切りながら、さっそうと道路を駆け抜けた。

 仕事やプライベートを両立させた充実感のある日常を、送らせる事ができているが、ここまでの環境へと結実させるまでには、ある人物の存在の後押しに加え、苦悩と波乱をくぐり抜けてきた努力が実ったからこそ、手にできた局面だった。

 その目的の場所に向かう最中の車内で交わす会話に加え、車を降りて今度は、徒歩での移動にて交わす内容のほとんどが、仕事に直結するものだった。

 2人共20代後半と、30代半ばの若い女性ではあるが、話している会話だけをふまえて、人物像を想像するなら、どちらも人生経験の豊富さをイメージさせるほど、大人びている印象だ。

 それからほどなくして、目的の場所に到着した。

 色とりどりの花が、両サイドに咲き誇りながら、玄関まで続くアプローチを通る2人。やわらかい風が吹けば、その風に身を任せて揺らぐそれらの花は、2人の通る足下を、まるでダンスで歓迎しているかのような感覚で、癒やしの効果をもたらさせる。

 2人は以前、患者自身が来訪していた時に、出会ったのが最初のきっかけではあったが、後に送迎を頼める身内も亡くなってしまい、それ以後は、在宅という手段で治療を継続している。

 その患者が抱えてる問題は、生死を分ける境目において、命を落としても不思議ではない状況下で、自らが生存し、周囲にいる人が命を落とす事に起因する罪悪感であったり、自責の念に囚われる事を示唆する、いわば、心的外傷として区分している「サバイバーズギルト」。という症状で苦しんでいた。

 こちらの民家にはインターフォンがないため、

 「こんにちは」。

 と、言って、いつも通り挨拶すると同時に、ドアを数回ノックした。

 聞き覚えのあるその呼び掛けに対して答える家の住民。

 「どうぞ」。

 と、中から来客者を迎える女性の声を耳にした2人は、家の中へと足を踏み入れる。

 それからほどなくして、グレイ交じりのショートボブに、デニムのロングスカートを履いた小柄の家主である年配の女性が姿を現すも、先程の「どうぞ」

 と、来客者を迎える声とは裏腹に表情は、何処か精気を失っているようにも見て取れる。

 その女性は、「ミッチェル・ジョーンズ・ワート」。という名の方で、彼女が40代後半の若さの時、ご主人を不意に襲い掛かってきた事故に巻き込まれ、亡くしてしまった過去を持つ未亡人だ。

 それでも彼女は、花や芸術をこよなく愛する方であるため、その事を知っている2人は、気分転換という理由を含め、「”野外での治療を試みよう“」。と、行動に出た。

 彼女からしてみれば、単なるレクリエーション気分として、時を共に過ごす感覚で雰囲気に慕ってはいたのが、実際には、癒しの効果という面に期待を招かせる事で、知らず知らずの中で、自ずと精神を安定させるよう導かせるのが狙いだった。

 この状況をきっかけに2人は、この家の方と時折、四季折々の花の開花が始まった頃には、距離を関係なくして、車で出掛けるまで花を求め、天然に生み出される癒しの力を吸収し、それに皆、酔いしれる中へと発展させる事ができるまで、へだてがないほどのしんぼくが生まれた事で、以前に増してさらに、距離がせまった。

 心理カウンセラー、精神療法士は、人の感情を読み取る仕事をする2人の立場からしては、自身達の教訓にもなり、それに何より、患者が意識せずとも自然に直視できている事によって、感じられる喜びでもあった。

 そのような持ちつ持たれつの関係で繰り返し訪れる日々を3人は過ごした。

 そしてある日再び、ミッチェル・ジョーンズ・ワート家へと、ニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナーは出向いた。

 以前と同様に、「こんにちは」。

 と、言って、いつも通り挨拶すると同時に、ドアを数回ノックした。

 すると、ミッチェル・ジョーンズ・ワートの返答する声が、中から外へと響き渡った。

 その返答した声から、少しの沈黙が流れ去った後、彼女が姿を現した。

 以前は、精気を失っているようにも見て取れていたのが、明るく笑顔で振る舞う彼女の姿がそこにはあった。

 その瞬間をニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナーの2人は、目の当たりにした時、彼女自身の力で、これから先の人生もご主人を想い、今まで蓄積してきた思い出を胸にして、共に生きていく覚悟が、こちらへと伝わってくるほど、一途で、しんの強さも兼ね備えられた魅力的な印象で引き込ませるオーラを、その空間に漂わせていた事実から、達成感に慕った。

 こうして実際に、これまで狙いとして導かせていた局面が功を奏する事となった。

 その同じ頃、万が一、肉体を亡きものと化す状況がたとえ訪れてしまったり、また、精神疾患をわずらっている者には、人為的のみならず、物理的な面からも、どちらにおいて、科学の技術により、治療を行える事を想定し、「知性」や、「知識」を生かさせる研究に着手し始めた1人の人物がいた。

 その人物の名は、「アドレン・クラウディアス」。という中年の男性だ。

 まず最初に、彼が行った作業は、

 │「ソフトウェア」または、「ハードウェア」を動作させるために必要な「メモリの容量」、「ハードウェア容量」、さらに、「中央処理装置」で、「メモリー」や、「ハードディスク」と並んでコンピューターを構成するいわ

 ゆる『シーピーユー』の処理速度、「プログラミングにおける資源」、特殊なメモリ領域内に、「ウィンドウ表示」などを行う目的としての働きを持つ『ユーザーリソース』に加え、画面表示に使う「フォント」や、「ビットマップ画像」、「アイコン」など、グラフィックス関係に紐付く表示の情報を保存する『ジーディーアイリソース』の2つに加え、

 多彩な機能を持ったアプリケーションをユーザー側の端末を通して、対話的に同様な感じの操作を可能とする機能といったこれらの多種多様な要素を、ひとくくりにして呼称する『システムリソース』の開発│ 。

 失敗や誤作動を繰り返す中で、この開発をようやく成功させた。

 そして次に行った作業は、

 │ネットワーク上に保存領域を設け、いつでもデーターを保存したり、取り出したり、それが必要となるタイミング時にて利用できる「クラウドストレージ」というサーバーに対して、あらかじめ作成しておいた「システムリソース」を埋め込ませによる構築│。

 この開発も、以前作成した『システムリソース』同様、艱難辛苦の状況の最中で、ようやく成功へと結び付けた。

 さらに今度は、

 │「機械」と、「知性」と、「知識」の3つをリンクさせる先駆けの段階として、実験対象にあたるネズミの確保│ 。

 そのためこれらの目的を遂行するうえで、実験対象にあたる適正なネズミを求める旅に出た。

 そして、交通の手段として、は、ナロウボートを作り始めた。

 頭脳明晰に加え、手先も器用な彼はわずか、2週間足らずでそのナロウボートを1人で作り上げた。

 その同じ頃、陶磁、木工、繊維、紙を用いた工芸品を専門に扱うイベントが開かれている事を知り得たニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナーの2人は、ミッチェル・ジョーンズ・ワートを誘いに連れ出すため、車に乗り込んだ。

 この時に利用した車は、ガラスルーフ付きで、通常ヒンジドアを福祉車両として、「スライディングドアユニット」を導入し、スライドドア化にした特別なミニクーパーだ。

 姉のニーナ・ユイナーと、妹のカナエラン・ユイナーの2人が生まれて、両親の記憶がほとんどない幼い頃に一瞬にして、同時に親を失ってしまい、その後は祖父母に育てられ、成長に成長を重ね、姉妹そろって猛勉強をし続けた結果、姉のニーナ・ユイナーは、心理カウンセラーとして、妹のカナエラン・ユイナーは、精神療法士として、努力の甲斐が実って無事なり、自分たちがそうなれたのは、「”祖父母のおかげ“」。であると、謙虚にそう想った姉妹が、努力した自身たちのごほうびも含んで、車が好きだった祖父母たちと、小旅行へ行く計画をしていた最中、突如として襲い掛かってきた交通事故に巻き込まれ即死してしまい、生きていれば実現していた思い出を姉妹で、祖父母の分まで「”記憶に残す旅を作る“」。と、いう意味が込められた目的から、購入した車だった。

 だがしかし、そのような想いをのせて購入した車もろとも皆、最悪な結果が待ち受けているとは当然、現状では知るよしもなく、車のガラスルーフから青空や、太陽の光を差し込むその車の車内で、日光浴を浴びながら、目的の場所へと車を向かわせた。

 その一方で、自作のナロウボートに乗って、「肉体がなきものとなってしまう可能性、精神疾患をわずらっている者、その双方において、人為的かつ、物理的な面からでも、「知性」、「知識」を心理学、そして科学の両面により、それらを結び合わせる事による治療。そして、機械と脳をつなぎ合わせ、あらかじめクラウドストレージへと、物理的に心理療法の情報を記憶させて保存しておいたその物体を電脳空間という環境下で知性を、根底から刺激させる研究の目的を果たすために、必要となる研究材料を探す旅」。

 そのように独り言をつぶやかしつつも手当たり次第、くまなく探し求めていたアドレン・クラウディアスは、突如として胸さわぎを感じ取った。

 感じ取ったその突然の胸さわぎは、遠く離れた場所にいる人物たちの身に、迫ってそれが現実に起こってしまう局面であるとは、まだ、この現段階では当然の事ながら、把握できるわけもないが、違和感を覚えた要因となる対象が、当の本人と後に、直結する出来事として時を迎えるのだった。

 そのような状況の中、そよ風に揺れ、葉と葉がこすり合う事で発生する「アルファ波」に近い音が耳に入ってきたため、癒やしの感覚を肌で感じ取り、身をゆだね全身を研ぎ澄ませ始めた。

 しばらくそうしている最中、おもむろに目を見開かせた。

 音のしている方向に目をこらして、周辺を見渡しているその時、瞬間的に目に飛び込んできたのは、河川から突き出た塩ビパイプの周辺で、何らかの物体がうごめいている光景だった。

 しかし、すぐに判明する事だが、大きい物体として見えたのは、複数のピンポン玉サイズの大きさの存在が、1つにまとまっていたがために、そのように見えたのだった。

 その直後、あどけない表情をかもし出して、こちらの様子をうかがう手の平に乗せても、余るほどの小柄で、可愛いネズミがようやく姿を現した。

 その光景をしばらく見続けていると、複数のネズミがエサらしき物を見付けたらしく、最初、姿を見せた1匹のネズミも、そのエサとおぼしき所へ、早々とした足取りで向かって行った。

 すると、体をいっせいに上下左右に、また、複数いるうちのあるネズミは、頭を上下にバウンドさせているのも幾つか目に止まった。

 これらの動きを目の当たりにするまで、求めに向かったのが、エサかどうかは、さだかではなかったが、ネズミたちが取る動作からして、それが、エサに食らい付いている姿である事だと把握できた。

 その最中、それまで分けへだてなく行動を共にしてきたのが、エサの量が減少しつつあると、力の持つネズミが、立場の弱い複数のネズミを排除して、その排除されてしまったネズミたちが、再度エサを求めに行こうとすると、さっきと同様に、邪魔者扱いにされてしまい次第には、そのエサに食らい付いているネズミたちの姿を、じっと見つめているという展開へと、可愛い印象から、弱者に対して情け心を、第三者の目にかもし出させる状況へと一変した。

 その時、彼の脳裏にある理論が過ぎった。

 │”外因性による圧力における自己敗北性パーソナリティ障害“│ネズミが取った行動から察して、彼が実験の対象物として、求めていた理想に近い存在であった事から、乗っていたボートから降りて、忍び足で距離を徐々につめて行ったところで数匹のネズミを捕獲した。

 一方その頃、ニーナ・ユイナーとカナエラン・ユイナー、そしてミッチェル・ジョンズワートの3人は、到着した目的地で、多種多様な工作物を見て回ったり、その中において関心をそそったものがあれば、実際に体験したりとで、四季折々の花の開花が始まった頃に、天然に生み出される癒しの力を、吸収しに行った時以来、久々に普段とは異なる育みを堪能していた。

 さらにその頃、アドレン・クラウディアスは目的を成し遂げるうえで、タイミング良くその局面に見合った対象物と出会えた事に加え、その存在を捕獲できた事によって、込み上がる満足感覚や、達成感から生み出される笑みを浮かべながら、ナロウボートの舵を取り、家路へと向かっていた。

 その道中、小腹が好き始めた彼は、軒を連ねて立つ商店街がある方向へと進んで行った。

 数ある店が存在し、選び抜いている最中に、

 ある興味深い掲示板が目に止まった。

 │”「モンスターと人間のハイブリッド主と触れ合ってみませんか」“│

 そう記載されている掲示板のすぐ横の奥に、ダークグリーンの壁と柱、そして構造を支える「はり」。と、呼ばれる丸太といった壁はもちろんの事、全てがむき出しになって、こじんまりと、ひっそり建っている一方で、そうごんさを感じさせる店に興味を引かれたため、関心を抱いた彼は、その店に入る事にした。

 こうして舵を取っていたボートの手を休め、店へと進んで行った。

 店に入った瞬間、彼の目に飛び込んできた光景は、店内のカウンターキッチンには大型のアンティークのダイヤミルが設置されてあり、さらにその周辺にはカップやソーサーをはじめとする多種多様なカトラリーがスタンドに下げられて収納されているものや、椅子、テーブルなどの家具が明るいライトブラウン色で統一され、店内と見事に一体となって高級感を演出しているものだった。

 そしてその店内では、それらのインテリアに囲まれて、テーブルいっぱいに教材道具を並べて勉強に励む数人の学生の客、コーヒーを片手に経済新聞を読んでいるサラリーマン風の客、専門書とパソコンを開き、その両方に目を配りながら、ケーキをほおばると同時に、資料をまとめる若い数人のOLといった年齢や、客層問う事なく、喫茶店という安らぐ空間で、自分の時間を思い思い有意義に用いるその客たちの姿に目を奪われている最中に、店の奥の方から、2股に分かれた尾部を、人間でいうなら足として使い、ベージュ色の「長袖のワイシャツ」の下に、「紺色のウェイターエプロン」、「プレーントゥブーツ」を履いたボーイッシュなウェイターと、可愛いらしいフリルがあしらわれた「半袖のブラウス」に加え、その下には、オレンジ色でミニ丈の「ジャンパーキュロット」、「黒のタイツ」、ミニ丈で「黒のカフェエプロン」を身に纏い、黄色い「ハイカットスニーカー」を履いた見る者を一瞬で虜にしてしまうほどの美貌を持ったウェイトレスが、先ほど出迎えたウェイター同様、2股に分かれた尾部を足にし、双方おしゃれに決めると共に、笑顔を振りまきながら、こちらへと歩み寄って来て同時に声を掛けてきた。

 「いらっしゃいませ」。その元気で明るい声は店内を轟かせた。

 未知の存在に遭遇してしまった事になり、「がんか」。と、呼ばれる目を囲んでいる骨から、こぼれ落ちてきてしまいそうなほどの瞳を見開かせて驚愕した。

 さらにそれとは裏腹に、店内にいる客たちが平然として、くつろいでいるその光景によっても2重の影響から、驚愕させられた。

 あっけに取られてしまっている中ではあるものの、ウェイトレスから席へと案内された

 アドレン・クラウディアスは、平然を装う軽やかな足取りで、彼女の後を追っていった。

 そして席に着き、テーブルに置かれているメニューに一通り目を配った後、注文しようと店員がいる方向へと視線を送った。

 視線を送った先の奥で作業をしているウェイターと目が合ったため、行っていた作業を中断し、こちらへと進んできた。

 「ご注文お決まりですか」。

 ウェイターのその問い掛けに対し、アドレン・クラウディアスが返答したのは、注文するべきはずの品ではなく、自身の目の前にいる特殊性を持つ人種に対して、関心を覚えたため、その点について、失礼を承知のうえ、こう言った。

 「ぶしつけな事を言って申し訳ないですが、あなた方お2人は、こちらのお店の横の看板にあったように、人間とモンスターの掛け合わせですよね。ただでさえ誰に対されても目を疑われると思いますが、なぜあえて接客業をなされているんですか」。

 すると、怪訝そうな顔する事もなく、こう主張してきた。

 「我々のような種族は、モンスターの血を引いている事で、このような容姿となっているのではなく、命を落としてもおかしくはない場面に遭遇した中で、自分だけが生き残ってしまう感情にさいなまれる背景からの突然変異で、化してしまったんです。ですが、僕自身、自分で言うのもおかしいと思いますが、今のこの姿より、以前の姿の方がみにくいものでした。僕の同僚の彼女も、僕と同様で前はとても素直な気持ちでみ直視できたものではなく、情け心を持ってようやく見られるほどでした。その当時、僕は周囲の人たちから、嫌がらせや、迫害を受け、そして彼女はスタイルは、今も以前も変わらず良いので、興味本位だけの体目的で、もてあそばれていた過去もある方なんです。でも今は共に、このよ

 うな場で充実感のある環境としていれるのは、そのような状況に直面したがゆえに、それが逆に原動力となって突き動かされ、どんな展開にも屈しないという心構えからの強い精神

 により、今があるんです。だからこの店にこられておられる方々は、僕たちを理解し、受け入れてくださった。万人受けされる人種になれるよう努力する事も必要ですが、たとえごく少数だとしても、しんしに向き合えられる相手こそが、『”真の友“』であるとつねづね僕は感じています。そのため徐々にではありますが、自信という意味では、一般の多くの方と比較するなら歯が立ちませんが、個性という意味では、負け知らずですね」。

 そうウェイターが主張し終えると、アドレン・クラウディアスは、感心した面持ちをかもし出しながら、こう言った。

 「お辛かったでしょうが、良く自制心を持って歩んでこられました。あなた方のような心が綺麗なのは、いついかなる時にでも、必要で、そうあるべき点に日頃から心掛けるなら、あなた方のようにおのずと言動により、示せるのが対人関係を上手に育む秘訣なんです。先ほど、自信がないような事をおっしゃられていましたが、私は、誇りを持って良いのではないかと心底そう感じます。それに見た目ではなく、魅力というものは内面だとも感じます」。

 そう言い終えると、再びメニューを眺めてから、ドリアとサラダに加え、ドリンクが付いたセットをオーダーした。満面の笑みで注文を受けたウェイターが、その客を背にして厨房へと向かって行くその背中がには誇らしく思えていた。

 ほどなくした後、今度は、ウェイトレスの彼女が、客がオーダーした品を持ってきて、それらを綺麗にたいらげてから、会計を済ませ、店を出ようとドアノブに手をかけた。

 するとその直後、「ありがとうございました」。

 と、はちらつとした声で、ウェイトレスに礼を言われた客は、振り返って、「とてもおいしかった。いつまでもお元気で、ごちそうさまでした」 。

 と、だけ言って店を後にした。

 そして空腹で満たされた彼は、ナロウボートに乗り込んで、再び出発する矢先の事だった。

 彼が客として今までいた店のウェイトレスが、慌てた様子でこちらへと向かってくる姿が、目に止まったため声をかけた。

 「どうされましたか」。

 その問いかけに対して、彼女はこう返答した。

 「先ほど同僚から、お話うかがって、とても嬉しかったです」。

 そう、りゅうちょうに言葉を発した彼女だったが、突如、目に涙を浮かばせてしまい、今の現段階においては、思いを言葉として表現しようにも震えでどうにもならないほどに陥ってしまいながらも、気持ちを落ち着かせようと、深く息を吸っては吐いての繰り返しで必死になって呼吸を整え始めた。

 彼女の取るその行為を、それまではナロウボートの上から、しばらく直視していたアドレン・クラウディアスだったが、陸地へと足をおろすと、同情心を示すかのように、彼女の両肩に手を軽くかけ、自身の側へと、そっと引き寄せた後、互いの鼓動を感じあった。 それから、ほどなくしてから、落ち着きを取り戻した彼女は、おもむろに口を開きこう言った。

 「私たちと同じような外見で、境遇に立つ存在が、トランデールリウムルピナー大平原という場所にいて、そこで、人目をはばかりながら、暮らしている者がいるんです。無理を承知のうえで言わせていただきます。あなたのその深い優しさで助けてあげてください。どうかお願いします」 。

 そのように懇願されたアドレン・クラウディアスは、こう返答した。 

 「承知致しました。さまよっておられている闇の中から、無事、現実に身を寄せるよう救い出す事ができたそのあかつきには、必ずこのお店で再開を果たさせます。待っていてください」。

 そしてウェイトレスの彼女と、別れたを告げたアドレン・クラウディアスは、再びナロウボートへと乗り込んで旅立った。

 旅立つその姿を、見えなくなるまで手をいつまでもウェイトレスの彼女は、振りつづけている最中、店の中で今まで作業していたウェイターの男性が、外へと出てくるなり、手を振っているウェイトレスの彼女の姿に目を奪われ、そっと近寄り、頬をつたって流れでる涙を優しくぬぐい去ってから、互いを笑顔で見合わせた。

 その同じ頃、久々の触れ合いを満喫していたニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナー、そしてミッチェル・ジョンズワートの3人は、十分満足できた事で、彼女達がいた場所から去り、家路へと向かおうと、車を駐車した場所へと進んで行った。

 車を走らせている帰りの道中の事、突如として、「温泉のあるホテルに泊まるのはどうか」。という提案が発展し、それが意気投合したあげく、車を停車させ、「カーナビゲーションシステム」を利用し、かいわいにある温泉施設の検索を始めた。

 検索結果がディスプレイに表示されると、その中から、3人の好みに適したお気に入りの施設を探し当てると、再び目的地へと車を走らせた。

 再び始まったドライブに楽しみを分かち合うその3人を乗せた車は、しばらく走行してから到着した。

 そして、着いた先の湯に浸かった3人は、

 日頃、活動させている体を湯質により、それぞれ異なる効能を持つ事で、区分されている湯に入り比べて、それを肌で感じ取り、いたらわせた。

 そして湯からあがった3人は、場所を変えてのレクリエーションとして、ゲームコーなナーへと、辺りを見回しながら向かって行った。 

 そこで目にしたのは、MRIのような診断機が、それ以外の要素に限り、引き付けまいとするこんたんの現れからか、そのコーナーの中央付近に、堂々と設置してあった。

 見た事がないその機械に、関心を示し始めた3人は案の定、食らい付いた。

 ところが、「”ゲーム“」。と、解釈すべきか、それとも「”最先端のマッサージ機器”」。なのか、想像も付かないでいる最中において、突然1人でに話し出した機械。

 「こちらはディメンションメモリーです」。

 その機械は、操縦桿が存在しないコックピットのような席があるもので、その席に腰かけながら、機械から流れてくる音声ガイダンスの手順に沿って、利用する事となる当事者の視線の動きで操作する「ディメンションメモリー」と、呼称するその機械の定員は、偶然にも3人であるため、、興味を抱いた事で体験する事となった。

 興味本位から、何気なく取った彼女たちのこの体験が後に、ありとあらゆる要因に直結し、多大な意味を持つ事に結実させる運命の先駆けだった。

 その機械の正面はもちろんの事、端から端まで、ゆるやかなカーブが施された曲面ディスプレイの画面上に、メッセージが浮かびあがってきた。

 「ヘッドマウントディスプレイの使用、OK/ NO」。

 その端末を使用するか、否かの判断を求める選択で、全員OKを選んだ彼女たちは、座っている席の上部から、自動で、「ヘッドマウントディスプレイ」が3つ出てきた。

 それらを装着すると、その画面には、架空現実にて、自分自身の分身として、掲示板などで、キャラクターを投影させ、自身を示唆するために活用したり、ゲーム内において、投影する事ができ、その世界の中で活躍させる「アバターの作成」。という項目画面が映し出された。

 そこで、3人は動物に統一して選択し、ニーナ・ユイナーは、「イルカ」、カナエラン・ユイナーは、「ジュゴン」、ミッチェル・ジョンズワートは、「ボーダーコリー」という犬をそれぞれセレクトした。

 それからすぐに、「森」、「海」、「大空」で、目の前を覆い尽くす広大な場所が表示されたのと同時に、彼女たちが作成したそれぞれのアバターも飛び込んできた。

 この瞬間にしてようやく、「”ゲーム“」だ。と、把握できた3人だった。

 一方、その同じ場所で、年齢にかかわりない4人の男女が、「”ディメンションメモリー“」と、呼称するそのゲーム機を謎めいたまなざしで凝視する姿がそこにはあった。

 その謎の4人の男女と、いずれ深いかかわりを持つ運命になろうとは、当然誰も予期などできるはずもない。

 そして、ニーナ・ユイナーのアバターである「イルカ」、カナエラン・ユイナーのアバターである「ジュゴン」そして、ミッチェル・ジョンズワートのアバターである「ボーダーコリー」は、一通り辺りを見渡してから、初期段階で入手している地図を読み、どこへ向かうという当てもなく適当に探って行った。

 すると顔は、「猫」、「亀のような硬い甲羅」、「ワニのように太くゴツゴツとした脚」

 という外見の魔物に出くわした。

 その時、魔物はこう主張した。

「俺の名は、『タラスク』だ。そして俺は、気性が荒い性質だ。ゆえに、同種の中の頭と同じ位置関係で、その者に代行して、事態に介入する立場に君臨し、おのれの役割を果たしている。きさまらは見るからに、俺の忌み嫌う性質を持っているかのような印象を俺に与えさせるな。生意気だ。これでも食らえ」。

 その瞬間、彼女たちの分身であるアバターたちに目がけて、排泄物を吐き散らした。

 が起こしたその動作と同時に、アバターたちが持ち得ている俊敏な身のこなしで、まともに当たる事は免れたものの、拡散したせいで、多少の汚れは食らってしまったのだった。

 排泄物を2度と食らうまいとして、再び俊敏な動きを繰り出し、タラスクがいるその場から、瞬間的に距離を置いた。

 しかしながら、どんなに汚されようとも、現実世界に身を置く彼女たちには、全く影響される事はないが、清潔性からひっきりなしに、自然界の力により生成される「葉」や、「木の枝」を手にすると、それらを道具として駆使し、本能的に汚れをぬぐい去る行為をし始めた。

 タラスクはその行為を見ている最中、にやける表情をかもし出すのと同時に、おもむろに口を開かせた。

 そしてその口からは、こう言い放たれた。

「美味そうな獲物は俺がちょうだいする」。

 そして、地響きをとどろかせるほどの猛烈な勢いで、彼女たちがいる所へと颯爽と、距離をつめて行った。

 こちらへと迫ってくるその存在に対して、あっけに取られているアバター達だったが、

 その仲間のうちのミッチェル・ジョンズワートのアバターであるボーダーコリーが、相手に対して、体格差が比べものにならないとしてでも、意表付くかのように、真っ向から向かって行った。

 そしてお互いが激突する寸前に、ボーダーコリーは一瞬立ち止まり、飛びかかってくる際に生じるわずかなスキを定めれて、身を伏せた。

 攻撃を交わされたタラスクの勢いは収まらず、草木で生い茂る森の入り口へと突っ込んで行った。

 その場から脱出しようとして、もがくが、もがけばもがくほど、頭や脚、胴体に草木がからまったり、まとわり付いたりで、悪循環と化してしまった。

 その様子をしばらく遠目から凝視していた

 ニーナ・ユイナーのアバターのイルカと、カナエラン・ユイナーのアバターのジュゴンは、

 ボーダーコリーが、タラスクの顔がある方向へとまたもや、危険をかえりみず、動き出した。

 それに不安を覚えたイルカと、ジュゴンは、仲間であるボーダーコリーがいる所まで駆け寄って行った。

 向かって行ったその場では、ボーダーコリーが、タラスクに対して話しかけている姿を目にした。

 そこでイルカと、ジュゴンは、口をそろえてこう言った。

 「お取り込み中悪いが、この存在に関わると、墓穴を掘る羽目になるぞ」。

 その言葉に対して、ボーダーコリーはこう主張した。

「見て見ぬ振りをして助けない選択の方が、反対に墓穴を掘ってしまうのではないのか」。

 すると、アバター達のやり取りを聞いていたは、こう主張してきた。

「俺は誰の手も借りん、さっさと失せろ」。

 すると今度は、現実世界の常識においては、心優しく、温厚なはずのイルカと、ジュゴンは、皮肉を込めたかのような口ぶりでこう言った。

「だったら何もしない」。

 そう言うやいなや、そのイルカと、ジュゴンは、タラスクをバカにした眼差しをかもし出し、見続け始めた。

 この行為が後に、より良い相互関係へと引き寄せる事に発展するのだった。

 その頃、自宅へと戻っていたアドレン・クラウディアスは、ウェイトレスの彼女と、交わした約束を果たすための調査に加え、切磋琢磨と実験にいそしんでいた。

 その成果の甲斐あり、コンピューターのシミュレーションによる妥当性においての理論ではあるものの、さらなる確信を持つ事ができたのだった。

 そして、精神を安定させる効能を期待できる物質を持つ薬品の投薬の実験を、捕獲してきた弱い立場のネズミには、摂取量を多くし、強い立場のネズミには、摂取量を少なくするという強弱の差を付けて、実際におこなった。

 すると、│”外因性による圧力における自己敗北性パーソナリティ障害“│という彼が、以前に抱いたその心因性の局面による課題も、エサに食い付いているネズミに対して、食べる事ができていないネズミは、恨めしそうにその食べている存在の姿を見ていただけだったのが、投薬した成分の誘発効果により、自らがエサを求めに行くという行動と同時に、エサを求めに行ったそのネズミに対して、最初にエサを食べていたネズミが、エサを譲るという行動も示した事で、わずか3日たらずで克服させたのだった。

 自らが成し遂げた成果に、自画自賛に慕っている最中、突然、どこからともなく物音が鳴り始め、それが次第に大きくなったと思いきや、今度は上下左右に大きく揺れ動き出した。

 そしてその状況と同時に、以前、彼が抱いた時の胸さわぎを、地震に直面しているこの段階でも、再度感じ取った。

 そして暴風や地震といったこれらの状況は、温泉施設であるその建屋内に併設されているゲームコーナーにおいて、ニーナ・ユイナー、カナエラン・ユイナー、ミッチェル・ジョンズワートの3人が、「ディメンションメモリー」という架空世界に分身として身を置いて、遊ぶ事ができるゲームの世界で、タラスクという一体の魔物に遭遇し、襲われそうになるも、その存在の心の闇から、どうにか抜け出させようと、自分達が持ち得ている知識を最大限に生かして、コミュニケーションを取っていた最中において、システムの誤作動が招いた影響により、深刻な被害を及ぼしてしまった。

 そのため、タラスクの持つ歪んだ性格と、ニーナ・ユイナー、カナエラン・ユイナー、ミッチェル・ジョンズワートの3人が、本来持ち得ている愛情に富むありのままの性格の両面が、架空世界に存在する分身のアバターを介して、混合してしまったこの影響を受け、現実世界に、変貌したその性格を反映させ、身を置く運命へと、直面してしまったのだった。

 そして彼女たちは、頭に装着している装備を外すと、最初、自動で出現してきたのとは反対に今度は、自動で格納する動作を行った。

 彼女たちは、自分たちの手で、自身の顔、体、足といった部位を挙動不審な様子で、一心不乱に触る行為をしてから、手を交差させて、肩を抱え込む自己親密行動を取り、身を案ずるかのように、大きく息を吸っては吐いての深呼吸を数回繰り返し行い始めた。

 それからしばらくしてから、皆、それぞれの顔を見合せた。

 そしてミッチェル・ジョーンズ・ワートは、おもむろにこう質問を投げかけた。

 「私たちが今まで体験していたのは、ゲームよね。今、大きな地震があったのは、当然、現実よね。さっきのゲームといい、地震といい大丈夫?気分悪くない?」。

 その問いかけに対して、最初に反応したは、姉のニーナ・ユイナーだった。

 そして彼女はこう返答した。

「私は平気よ。地震はさておき、何よこのゲームなんか不気味だったと思わない」。

 その主張に対して今度は、カナエラン・ユイナーが残念そうにこう主張した。

 「私は楽しかったな。地震が起こっちゃったから遊べなくなっちゃったけれど、地震が起こらなければ、もう少し遊びたかったな」。

 彼女達はあらゆる影響を受けた事で、感情を害されてしまっているとは今の時点では知らずとも、日常の行いである”車の運転“とい状況の中で、皮肉にも帰りの道すがらにおいて知る事に結実する事が待ち受ける運命へと向かって、再び車を走らせた。

 この時、ハンドルを握りしめていたのは、ミッチェル・ジョーンズ・ワートが、ニーナ・ユイナーとカナエラン・ユイナーの2人が、所有する車に乗せて、家路へと向かっていた。

 その矢先の事、天災により被害を被った民家の住民と思しき人たちが、呆然としたまなざしを浮かべて、立ち尽くしていたり、直面してしまったこの状況に対して、身近なものに助けとしてすがり付き、おがむ行動を取るといった心に傷を負う人たちが、存在しているにもかかわらず、情け心を抱くどころか、そのような人たちにわき見も振らずに、不謹慎極まりない言動に及んだ。

 「どんどんかっ飛ばせ。こんな走りなんかじゃ、性能を持て余しているよ。本領発揮させな」。

 そう突然言いだしたのは、人の感情を相手にして、それをくみ取る仕事を手にしているニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナー、その2人が口を揃えて、相手をいたわる同情心のかけらもなく、ドライバーであるミッチェル・ジョーンズ・ワートをあおったのだった。

 そのような立場の2人の口から、到底放たれたとは、想像すら困難な発言に、にわかに困惑するミッチェル・ジョーンズ・ワートではあったが、そんな彼女自身も、悪感情に脅かされてしまっている身であるため、「”本来の自分の感情とは、別の感情が働いている“」。と、にわかに察するも、言われるままに速度を上げ、等間隔に走行する車を交わしながら走る「スラローム走法」という車を、たくみにコントロールするテクニックを見せ付けた。

 そうした最中、今度は、ニーナ・ユイナーとカナエラン・ユイナーの2人が放った自身らの言葉に対する違和感を覚え始めたのだった。

 それでも、ドライバーを含め、同乗者らの身からしてみれば、速度を増せば増すほど、それがかえって爽快感を生み出させてしまい、「道交法」という壁さえも、乗り越えてしまうほど、意識できずにいた。

 そのような状況の最中、F1カーが鳴り響かせるような、甲高いサウンドが突如、後方

 から聞こえてきた。

 その音を耳にした瞬間、バックミラーで確認すると、未だかつて、この瞬間を迎えるまでは、車種の把握までできないながらも、誰も見た事がない、お目にかけられるのが、奇跡といっても過言ではないほど、希少価値が非常に高い車のシルエットが目に止まった。

 その車から、似つかわしくないまでに轟かされる音とは異なり、地面を張って優雅な走りで、こちらへと迫ってくるに連れて、ようやく、パガーニ社が誇る究極一台、「ウアイラビーシー」という名のハイパーカーである事を悟った彼女たち。

 車の性能を極限にまで、発揮させようとしてエンジンに負荷をかけて走行している彼女たちの傍らにおいて、性能を持て余している走りで、あれよあれよという間に、一定の間隔を保った距離にまで、追い付かれてしまった。

 ウアイラビーシーほどのモンスター級なエンジンスペックがあるならば、彼女たちを追い越すだけではとどまらず、瞬間的に遙か先に向かう走りをする事でようやく、本来持ち得ている性能を、引き出す事ができるであろうが、そうする事もなく相変わらず、許容値の中で、安全に走らせる事を堪能しているような感じの印象を常に与えさせていた。

 その時、あろう事か、品格など一切存在しない発言を口にしたニーナ・ユイナーとカナエラン・ユイナーは、ミッチェル・ジョーンズ・ワートを再びけしかけたのだった。

 「どんどんかっ飛ばせ。穴取られているよ。こんな走りなんかじゃ、先超されるよ。もっともっと本領発揮させな」。

 悪を美化する発言に自覚ある彼女たちは、繰り返すたびに、違和感を覚えるも、発言する前に気付くのではなく、発言し終わってから必ず気付くため、撤回が必要とするべき場面だが、どうにも後に引けないでいた。

 そのけしかけられたミッチェル・ジョーンズ・ワート、彼女も彼女で再度、不振に感じつつも、そのように抱く感情と、行動とが比例して、ニーナ・ユイナーとカナエラン・ユイナー同様、後に引けないでいた。

 そのような複雑な感情が入り交じっている状況下において、悪を美徳とする誤った感情が、善の感情よりも勝り、それが全面的な表れからの行為として、あろう事か、アクセルを全開に踏みこみ、『ハイパーカー』という名高い称号を持つウアイラビーシーに対して、距離を引き離すという相手を罵倒する行為も愚か、さらなる暴走と化してしまった。

 その時、突然、サイドブレーキを引いた後、後輪をロックさせ、意図的にスリップ状態へと導き、ハンドルを全開まで切った。

 すると、路面との摩擦によって発生する加熱現象で生成されたタイヤスモークを、辺り一面、真っ白に染めながら、180度に車体が回転した。

 この現象は、「スピンターン」という名のテクニックだ。

 そしてギアをバックに切り替えてから、そのまま進行方向へと走行し始めた。

 ドライバーであるミッチェル・ジョーンズ・ワートのみならず、同乗者であるニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナー、そして他の多くの人たちにも、被害をこうむらせる行為を行っている事は、通常の精神状態であるならば、当然の事ながら理解しているはずなのが、精神的にダメージを受けている現状では、どうにもこうにも、どっち付かずの行動を取ってしまうのだった。

 そして彼女が走らせる車の正面と、相手のドライバーが運転する車のウアイラビーシーの正面とで、距離を相変わらず離している状況を保ちつつ、対面するかたちで、今度は走行し始めた。

 一方、その彼女たちの背後から、車線をはみ出したり、時には反対車線へと侵入して、周囲のドライバーから、クラクションを鳴らされつつも、こちらへと迫ってくるタンクローリーの存在があった。

 だがしかし3人の彼女、誰1人として、その存在の気配に気付く者はいなかった。

 すると不快な予感を察したのか、これまで速度を合わせて走行していたウアイラビーシーを操るドライバーが、均衡を破ったかのように、本領発揮をさせ、進行方向に対して猛スピードで、攻め込んできた。

 それと同時に、そのウアイラビーシーを操るドライバーが、クラクションを鳴らしたり、横並びで速度を合わせ走行したりとで、ミニクーパーのドライバーに注意喚起を促すも、

 その合図を把握する事もなく、ひたすらバック走行をし続けた。

 そのような最中、さらに速度を増したウアイラビーシーが、行く手を阻むかのように瞬間的に、ミニクーパーの先頭に出た。

 そして、ブレーキペダルを踏む間隔を空け、繰り返し行うブレーキングである「ポンピングブレーキ」。を駆使して、相手のドライバーに徐行するよう促した。

 その行為を繰り返し行う中、タンクローリーのドライバー自身、蛇行してしまっている事で招いてしまうかもしれない事故であったり、もらい事故だけではなく、全ての状況においても、「”炎上“」という最悪の局面だけは、何としてでも避けなければならないため、青ざめた面持ちで、ハンドルを握っていた時、我に返ったドライバーは、この瞬間をもって本来、走行すべき車線へと定めたのだった。

 危機が刻々と目前にまで迫っていた状況にあった事で、発生しても何ら不思議ではない事故を回避できた最中の一方、ようやく、ミニクーパーを運転するミッチェル・ジョーンズ・ワートは、本来の体制へと整えた。

 ウアイラビーシーを操るドライバーが安堵する事を迎えられたその瞬間もつかの間、抱くべき必要性のない神経をすり減らした事から、脱力感を覚え、ハンドルを握る手に狂いが生じてしまい、大きく車線をはみ出しながら、走行してしまった。

 そしてミニクーパーを運転していたミッチェル・ジョーンズ・ワートは、その影響を受け、正面からスピードを緩める事もままならないほど、周囲の音を掻き消してしまう衝撃音を発生させるのと同時に、ウアイラビーシーの後ろに激突していった。

 一難去ってまた一難の繰り返しの状況が重なって発生したため、不運にも結局は、二の舞という状況下に皆、置かれてしまった。

 ウアイラビーシーのドライバーの身となれば、バック走行を行うそのような相手の身を案じたゆえに起こした行動が反対に、自身の身に「”災厄が振りかかってしまう”」。というミニクーパーのドライバーがたとえ錯乱状態に陥っていようとも、まともに運転していたのであれば、発生など起こり得ない事故を相手に引き起こさせてしまった複雑な環境の中、ウアイラビーシーのドライバーは、放心しきっていながらも、車を道路端に寄せ停車させた。

 しかしながら、事故を引き起こした諸悪の元凶であるミニクーパーは停車する事はおろか、徐行しながら、被害を与えた車には目を向けず、相手が中年の太った男性という事に加え、その相手が無事がどうかだけを確認しただけで、その場から走り去ってしまった。

 当然の事ながら、いきどおりを覚えた彼は、再び車に乗り込み、ミニクーパーを追いかけた。

 良いか悪いか別として、彼が放心状態だった事を知らないまでも、ミッチェル・ジョーンズ・ワートは、その彼に対して、興奮のあまり、放心状態だった事を忘れさせるまで、ミッチェル・ジョーンズ・ワートが犯した過ちは、その局面へと至らすまで誘発させたのだった。

 そして彼が追いかけていた対象となるミニクーパーを追い詰め、そこで車から降り、再び顔を見合わせたところで、互いの主張をぶつけ合った。

 そんな中、怒りの鼓動が徐々に高鳴り、ウアイラビーシーのドライバーの男性にけんまくを立て始めた3人の女性。

 彼女らには弁明できる立場に加え、要素など全く存在しないが、ようしゃなしに豹変しきった形相で追いつめ、相手の精神をむしばませていった。

 限界へと達してしまった男性は、そびえ立っている崖から身を乗り出し、ついには飛び降りた。

 勾配が激しい急な斜面に、全身を叩きつけられるその衝撃を受けながら、転がり落ちていった。

 そして、巨大な岩に激突してしまった先で、止まり、その場で意識を失った。

 彼が気付いたのは、病院のベッドで寝転んでいる時だった。

 おぼろげであるが、突如として襲い掛かってきた何らかの恐れによって、崖から飛び降りた時の場面は覚えていた。

 「死期が迫っている」。と、確信した彼は、残った最後の力を指先へとみなぎらせ、ズボンのポケットから一冊のメモ帳を取り出すと、あらかじめ、書きつづってあった「マゴットセラピー」。という短い文章と同じページにこう書き留めた。

 「かわいそうな3人の女性」。

 その短い文章をつづり終えた直後、男性は生死の境を彷徨い続けながらであったが、医師や看護師達の賢明な処置もむなしく、運ばれた先の病院のベッドの上でこうした挙げ句に、息絶えた。

 その事故が発生した翌日、報道番組で大々的に取り上げられ、│”不可解な事故“│として世間に知り渡った。

 そのニュースを自宅のテレビで知り得たアドレン・クラウディアスの身に、せんりつが走り、手にしていた注ぎたてのコーヒーが入ったコーヒーカップを落としてしまい、呆然としたまなざしで、番組を凝視した。

 過去に2度も感じた胸さわぎが、このような局面であった事実について、何とも言いしれぬあらゆる感情が、その瞬間にして襲いかかった。

 彼は無意識の中で、家を飛び出した事に加え、愛車であるホンダの「ゴールドウイング」をトライクに改造したオートバイのエンジンをかけたそれらの状況の記憶はなく、そんな彼が気づいた時には、すでにテレビで報じられた事故現場へと、何かに引き寄せられるかのような感覚を抱きながら、走らせていた最中にて、我に立ち返ったのだった。

 そして休む事も忘れ、目的の場所へと向かって走らせているそのバイクは、次第に距離を縮めていった。

 それから目的地へとさらに近づいて行く中、報道陣で殺到している光景が目に飛び込んできた。

 報道陣側もバイクで近づいてくる男性の存在がある事を把握したとたん、その場にいた1人の年若い女性の報道員がその存在に気がかりとなり、足早にこちらへと寄ってきた。

 そして、その彼女を含め、数多く存在している報道陣が事件か事故かの関係性のある人物かに対しての、似たか寄ったかの質問を問いたずねられると、バイクの彼は、「3人いた女性の中のうち2人は、顔見知りである」。という事を供述した。

 何の気なしに返答したその発言に対して、その直後から、質問をひっきりなしに報道陣からされてしまったアドレン・クラウディアス。

 彼から、詳しい返答を得たいがため、こちらへと攻め寄せてくる報道陣を、彼はかき分けて、自身のバイクのある場所へと進んで行き、運転してその場を後にしたところで、彼女たちの無事を祈り、どこに行方をくらましたのか、その行き先も把握できないながらも、少し走行しては、乗っていたバイクから降りて、徒歩で探し求め、また少し走行しては、バイクから降りて、徒歩で探し求めるという一定の行いを繰り返した。

 その頃、彼女たちはうち1人が、盗難したという罪の意識すらないとはいえ、本来の所有者が、この世を去った事を理由に、ミッチェル・ジョーンズ・ワートは、ウアイラビーシーのハンドルを握り、勝手に乗り去るという行為に及んでいたその彼女と、今まで行動を共にしていたニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナーの2人も同様、ミッチェル・ジョーンズ・ワートが盗難に至った車を運転しているという罪の意識もないがゆえに、皮肉にも優雅な気分で、ある1人の中年の男性が彼女たちを探し求めているとは知らずに、それぞれつらなって家路へと向かって行った。

 さらにその頃、彼女たちの行く先において、的を射たかのような感覚を感じ取ったアドレン・クラウディアスは、何の迷いや動揺もせず、確信を持つかのように速度を増して走り続けた。

 その最中において、遺体から発見された所持品として、短い文章で、「マゴットセラピー、かわいそうな3人の女性」。と、書き留められたメモ帳が、メディアを通して流されたのだった。 

 その情報をバイクの走行中にて、ラジオで知り得た彼は、聞き覚えのないマゴットセラピーというその言葉に、興味が湧いてきた反面「”何らかの面で女性たちは関与していた“」。と、知ったため、戸惑いを隠せずに、ただひたすら、自身の感覚によって、導かれる進むべき方向へと、わき目も振らずに走り続ける事でしかできない自身に対する不甲斐なさを身に浸みながら、これまで以上にアクセルを開け疾走させた。

 そのような最中、ハンバーガーの自販機があるのと同時に、そのすぐ横に、ミニクーパーと、ウアイラビーシーの2台の車がある事を悟ったアドレン・クラウディアス。

 だが、車はあるとしても、肝心の彼女たちの存在がない事に違和感を抱き、乗っていたバイクから降りて、ハンバーガーの自販機の横に、その2台の車が止まっている方向へと、進んで行った。

 彼女たちは、自販機の裏に身を寄せあいながら、人目を避けていたため、当然、正面から来たアドレン・クラウディアスには、彼女たちの存在に知るよしもない。

 そんな彼女たちの耳に、こちらへと足音が徐々に近づいてきている事を察した瞬間にして、意識しなければ、出そうになるすすり泣く声を必死にこらえながら、皆で抱き合って、不安を共有するかのように、その場をしのごうとしていた。

 その最中において、犯した過ちに起因する負の感情のアベレージが上昇し、それが一定のラインを越えると、”乱れる“というこれまで起きなかった逆転現象が起こる実態を、負い目が押し寄せてくる感覚に自覚があったため、この時を持って知り得た。

 彼女たちの感情に、変化のきざしが訪れいるとは、知るはずもないアドレン・クラウディアスは、そんな彼女たちがいるハンバーガーの自販機の裏へと回り込んだ。

 こうして顔なじみのあるニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナーの2人との再会に加え、初対面の女性との新たな出会いも果たした。

 彼は、大人として彼女たちが犯した行為の情けなさであったり、心を相手にする職を持つ者としてのあるまじき行為から、込み上げてくる幾つものあらゆる要素が、入り交じった言葉では言い表せぬほどの心理的要因で、頭の神経回路が狂ってしまいそうな状況下に置かれているその中でも、彼が一番心を痛めているのは、人を死に追いやったという事の事実を心の底から憎んでいた。

 それでも罵声を飛ばす事なく、1人の男性の人を、死に追いやった過失のあるその彼女たち1人1人に、今は亡きその男性の思いをないがしろにしてしまう事を覚悟のうえで、同情するにあたいしない諸悪の元凶の彼女たちに対して、感情を重視させ、ほうようし始めた。

 こうして刻々と、時が過ぎ行く最中において、涙声でありながらも、りゅうちょうに言葉を発したニーナ・ユイナー。

「私と、妹は、こちらにいる方の心のケアの手助けをしていたんです。最初のきっかけは、こちらの方が来訪していた時に、出会った時でした。その後は在宅で治療をしていました。彼女は、花や芸術がお好きで、野外での治療を気分転換も込めて、実践したんです。

 そして自然を求め、共に外出するようになり、

 お互い隔てのない関係へと、お会いする回数を重ねていく中でなっていき、その証拠に先日から、温泉旅行に来ていたんです。

 すると、さっきまでりゅうちょうに話していた彼女だったが、この先の話しをしようとすると、口ごもらせ、挙げ句には、口を閉ざしてしまった。その彼女の異変にきづいた妹のカナエラン・ユイナーが機転を利かせ、こう話し出した。

 「そのゲームは仮想空間で、私たちの分身となるアバターを投影して、それぞれが作ったキャラクターを動かして、自由自在に自分の意のままに過ごすものだった。ジャンルとしては、ロールプレイングゲームでした。そして、私たちは、ゲームの最初から、取得していた地図を読んではいたものの、気まぐれにフィールドを散策していたんです。その最中に、アバターの目の前に、恐ろしい外見を

 した魔物が立ちはだかったの。今、振り替えって考えると、魔物に出くわしたのは、暴風や地震の影響を受けたのか、もしくは、たとえもし仮に、仮想空間にその魔物が潜んでいたとしても、程度はそれほど悪くなく、その暴風や地震から、そのような存在が生成されたのかは見当は難しいですが、でもいずれにせよ、あの時発生した暴風や地震は、ゲームに及ぼした何かしらの因果関係があるに違いないと、言い逃れするつもりは当然ありませんが、そのように実感しています」。

 彼女がそう主張し終えると今度は、アドレン・クラウディアスがこう切り出した。

 「話しの概要はおおよそ理解できた。しかし、何を根拠に天災がゲームに影響させたというんだ」。

 その問いかけに対して、今度はミッチェル・ジョーンズ・ワートがこう話し始めた。

 「その点については、本来の私たちの性格とは別の性格となる顔が表れて、混合してしまい、悪感情は、モヤモヤしたなかですが、何となくそれは”悪に近いものである”と、感じていました。おそらく彼女たちも私と同様、自分で発言した言葉に、心なしか違和感を覚えていたという精神状態にあったのではないかと推測します。全ての物事にそう考察する以外にはつじつまが合わないんです」。

 その主張対してアドレン・クラウディアスは、こう質問した。

 「では車で暴走に至った経緯も、その要因の一つだと言うのか」。

 その質問に対して、一言だけ、「はい」。と、返答したミッチェル・ジョーンズ・ワート。

 そして、アドレン・クラウディアスが彼女たちの表情を伺うなかでの判断ではあるが、それでも偽りを語っているのではない事は、心理学者である彼の目には映って見えたのだった。

 なぜなら、人に悟られてはいけないような状況に直面する時などは、事の正確さを正そうとするあまり、本来あるべきでない事をあったかのように瞬時に仕立て上げ作りだす際、大抵は交感神経が働いて、表情筋と呼ばれる顔の筋肉が緊張し、瞳孔が小さくなる傾向があるのだが、彼女たちの場合はいずれもそのような傾向を見る事ができなかった。

 つまり、偽りを語っていないという証拠だからだ。

 そして、温泉施設で稼働していたゲーム機、及び、そのゲーム機が天災を受けた事によって、及ぼしたとされる原因を持つシステムの異常を確かめるべく、アドレン・クラウディアスは、「”1人で向かう“」。という感情が働いた。

 そして同時に、警察に電話で3人の彼女たちと共にいる事を伝えるも、その彼女たちを保護するよう説得した。

 それから程なくしてから、無線にて連絡を取り合ったパトロール中の警察官へと情報が回り、駆け付けた警察官から約束通り、彼女たちは無事保護されたのと同時に、盗難に至ったウアイラビーシーに加え、ニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナーの2人が所有するミニクーパーも無事回収されたのだった。

 そして、アドレン・クラウディアスは、問題を引き起こしたとされる温泉施設のゲームについて、彼女たちから聞かされた話しを警察官に説明している最中、警察官らも不可解に感じ取ったため、その温泉施設の場所を知っている彼女たちに問いたずね、その場所を特定できると、現場へと向かう事となった。

 時間の流れと共に、行き着いた先で、中継車や報道陣で溢れている現場に突如、パトカーを運転していた警察官の1人が、地に足を下ろした。

 それと同時に、1人の年若い女性の報道員と再会したアドレン・クラウディアス。

 そしてその彼女から、3人の女性が置かれている局面から、抜け出せるための救いの手を差し伸べるよう願い出された事で無論、自らの責任を果たす事であったり、人の命の重さを知らしめなければならない事、犯してしまった罪を償わさせなければならないというあらゆる事柄における務めを果たすと誓ったのだった。

 そして、ウェイトレスと過去に交わした約束と、今回発生したこの出来事の双方が結び付く事の運命に向かう事となるのだった。

 1人の年若い女性の報道員は、顔見知りというだけで、事件か事故かも把握できていないこの問題に対し、関係性もなさそうなこの男性が、「”自らの責任を果たす“」。と、まで断言するその言葉に対して、疑問を覚えたその彼女はこう問いかけた。

 「3人いた彼女の中のうちの2人は、心理学を専攻していて、その時代、私の教え子だったんです。ですから、今回起こったこの件において、監督不行き届きだった私の責任でもあるのです。そのため今、我々がこの場にいるのは、ゲーム機の調査に向かう道中からなのです」。

 アドレン・クラウディアスが打ち明けた事により、2人の彼女との接点があった事の事実を、報道員の彼女が知ると突然、「同行したい」。と、言い出した。

 そのやり取りを聞いていた他の報道員も、報道という位置付けを度外視にして、個人的興味から、現場に向かう事の許可を警察に揃いも揃って願い出ると、その要望に警察は答え応じた。

 それから交通手段があるのか、警察官の1人から聞かれると、皆で顔を見合せた後、ほぼ同時に中継車を指差した。

 ところが、個人的興味という面からして、中継車で向かう行為は矛盾しているとされ、自らの車を足代わりに使用しても良いと、そう言った人物の自宅が今、皆がいる現在地近くにある事から、車の手配をするため、そこへまずは案内された。

 そして、木製のガレージのシャッターを開け放つと、そこには、ウアイラビーシー同様に、稀少価値の高い、『エムテック使用』の「シビックタイプアールユーロ」。に、開閉式のサンルーフが取り付けられているのと、なだらかな曲線を描く加工が施された専用エアロをフロント部、サイド部、リア部に身にまといつつ、どこか落ち着いた印象を抱かせる無類の車好きにはたまらない最高のコンプリートカーが、きらびやかな白に対して、タイプアールの代名詞の証である赤いエンブレムを放ち、見掛けでは分からない内なる性能を秘めさせるかのようなたたずまいで保管してあった。

 そして、興奮を隠しきれない報道陣の中の1人は、すぐさま、その車がある場所まで駆け寄って行き、車のキーを手渡された瞬間、エンジンスタートスイッチを押した。

 すると、その瞬間、低音のエンジン音が響き渡った。

 そして性能を持て余しているほどのゆったりとした速度で、元いた場所まで進んで行き、合流したところで、標準的な速度で走行し始めた。

 エンジンの回転数に連動して、速度を増せば増すほどに、ダウンフォース効果が表れ、ステアリングを握る手、アクセル、ブレーキングのフットワーク、そしてクラッチを踏み込む事によって可能となるシフトチェンジをする手の平から、全身を貫き通すほどにまでダイレクトに伝わってくる、「過給機エンジン」。とは異なる「自然吸気エンジン」なら

 ではの加速力を感じる度に、開閉式のサンルーフが取り付けられたその開口部から、爽快感ある風を肌で感じ取る清々しさを体感している反面、高鳴る鼓動といった双方の要素を同時に、堪能できている事で、病み上がる事などない興奮は、ついに最高潮に達した。

 その高揚感を察してなのか、パトカーを運転している警察官も速度を上げ、目的地へと向かって疾走した。

 こうして、バイクに乗ったアドレン・クラウディアスはパトカーに先導されながら、来た道を再びたどって温泉施設へと向かった。

 その目的地へと進み行くなか、天災の被害を受けた道路や、民家がその場にいた皆の目に飛び込んできた。

 最初、この道を走ったニーナ・ユイナー、カナエラン・ユイナー、ミッチェル・ジョーンズ・ワートの3人の彼女は、そのような光景を直視していたが、心理学を職にしているニーナ・ユイナーとカナエラン・ユイナーの身であれば、なおの事、心理学を学ばずとも、そのようないんさんな情景を目の当たりにしたなら、哀れみの精神はおのずと生み出されるが、彼女たちにはその感情すら存在していなかった。

 そのため、初めて見る光景として、その陰惨さを物語る記憶を脳裏に植え付けた。

 それからして、目的地に到着するやいなや、

 警察がゲーム機を調べている一方で、報道の若い女性が意味深な言葉をつぶやかせた。

 「慎重に気付かれないように」。

 そう一言だけ言った後、ゲーム機の回りを一周してから、少しの間見つめ終えると、そのゲーム機に付いてあるボタンを何のためらいもなしに押したのだった。

 何気なしに起こした彼女のその仕草をアドレンは見過ごしておらず、そうとは知らないそんな彼女は、何事もなかったかのように、おもむろに出現してきたヘッドマウントディスプレイを装着した。

 すると、残った人物たちも次々に、ヘッドマウントディスプレイを装着し始めた。

 その機器の画面上に映像が写し出されたのは、 フクロウの頭を持ち、腕から足先まで掛けて、グラビアアイドルや、レースクイーン顔負けのスレンダーとそのうえ、背中にはハシビロコウが持つような翼があり、さらにはAV女優に対しても勝るとも劣らないふくよかに育成した乳房が露わとなる一糸纏わぬ姿をした魔物である存在だった。

 それに続いて、前頭を残し、頭頂部から側頭部そして、後頭部にまで至って髭と、一体化するまで覆われた剛毛なうえに、腕と引き締まる肉体の双方共、筋肉で施された肉付きの良い上半身体をしているのとは裏腹に足は、標準的にほっそりとしているものの、長さは短足であり、なおかつ、その足の指に生えている爪の形状は長くて、ひらがなとカタカナのどちらにおいても、共通語となるナイフ状で殺傷脳力に長けていそうな、「へ」。という言葉に酷似している不自然なほどのアンバランスをした特徴ある持ち主の映像が、同じような出現の仕方で投影されてきた。

 さらにこれに順じて、背丈は小柄で毛が生えておらず、頭から足先まで掛けての全身の肌の色は、緑に加えて、水分を多く含んでいるかのようなヘアースタイルは、頭皮に密着している形状を保ち、かつセンター分けで、耳は側頭部の付け根から頭上に掛けて徐々に細くなっているという特徴的な形状を持つ存在も、投影されてきた。

 通常この段階で、ニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナーや、ミッチェル・ジョーンズ・ワートの3人の彼女のように、自身の分身となるアバターを作成する項目に切り替わるが、ゲームに対して個人的興味と称して、今回、共に行動をしていた4人の男女に関しては、自身の分身となるアバターを作成するというその項目を飛び越して、ヘッドマウントディスプレイを装着した直後に投影してきた事を踏まえて考察すると、過去に作成し、ログインしていた事から、通常の段取りよりも、次に進むのが早かったのだった。

 つまり、このゲームの存在をこれまで隠していたものの、実際は経験者という事だ。

 そして報道の彼女のアバターに、「アンドラス」。という名の表記が時間差で起こった。 さらにその存在は、空高く羽ばたいたり、木の枝に止まったりと、その行動に共通するのは、何かを探し求めているのか、はたまた、何かに警戒しているような素振りだ。

 そしてその魔物は、突如として、畑で作物を作るために、細長く直線上に土を盛り上げられている箇所を示す畝と、その畝の間にできた細いくぼみに着地した。

 すると大小かつ、多種多様な昆虫が、潜んでいた土を掘り上げ、その中から、姿を見せたのと同時に胴体や、足へとまとわり付き始めた。

 架空で起こっているその状況と、現実世界の双方とが連動している事から、突如として直面した出来事に驚いたため、ヘッドマウントディスプレイを現実世界で装着している彼女は突然、悲鳴を上げ始めた。

 そのような状況下において、アバターに対する名が、次々と時間差で表示されてきた。

 さらにそのような最中、最後に残ったアバターもようやく姿を現した。

 ただしその容姿は、これまで登場してきた魔物とは異なり、これら3体に関して言うなら、「ギリシャ神話」や、「空想物語」に登場してきて、主要キャラクターの引立て役に近そうな、「ポジション」。という位置付けでありそうな風格をかもし出しているのに対して、当のこの4体目の印象は、太く長い胴体に対して、長くもなく短くもない、やせ細った手足があり、鼻、耳の生体器官を除いた目と口の顔だけが、空高くまで舞い上がりながら、「業火」と言う名の炎を吐き出し、火の粉を辺り一面に撒き散らしている「アクションゲーム」であったり、「ロールプレイングゲーム」に登場してきそうなイメージを漂わせているその存在だ。

 それはつまり、「龍」だ。

 皆、自身のアバターが出そろうも、彼女が悲鳴を発した瞬間にして、一斉にログアウトするやいなや、現実世界に意識を移した彼らは、装着していたヘッドマウントディスプレイを外し、彼女の様子を伺い始めた。

 すると、目を大きく見開かせ、瞳から今にもこぼれ落ちそうになるほどの涙を浮かべていたり、今まで前兆を示さなかった手足を痙攣させるといった変化であり、容態からして、陥ってしまった事に直結されるあらゆる可能性に付随できる局面を、心理学者であるアドレン・クラウディアスは、瞬時に考察しながらも、すぐさま駆け寄って行き、症状の緩和をうながした。

 数多く存在する治療法のなか、彼が下した判断が功を奏し、彼女は無事、我に返える事ができた。

 結果としてはプラスではあるもの、とはいえ、このような面は表面上だけで、根底からのアプローチがあるなかでの治療ではないため、当然の事ながら、油断などできない事は重々承知していたアドレン・クラウディアス。

 そのような最中であるも、ラジオで知り得たマゴットセラピーという単語に、「セラピー」という表現が結びついている心理学者ゆえの興味と、直面しているこの状況に打開に利用できるかの半信半疑から、スマートフォンを使って調べ始めた。

 すると、正常な組織はそのままに、壊死した傷口に殺菌作用を持つ分泌物で、消毒を施しながら、その箇所のみの腐敗した細胞を食べる特殊な生き物である事に加え、実際に医療の分野において、活用されている治療法だという事も知り得た。

 そのため、いっこくを争う危機を彼女達の身に降りかかっている事における緊急感から、再び考察し始めた。

 「”仮想空間という環境に取って代わるものとして、意図的に、「ノンレム睡眠」へとアプローチして、夢と現実世界との境の環境下を模擬的に再現する事と並行して、その層のなかで、今度は心理療法を行う事の先駆けで、以前に作成していた『システムリソース』を使用して、その精神疾患のカテゴリー別の傷病名に加えて、その症状に伴う適切なセラピーのプログラミングコードの配列を構成する事“」。

 「”さらにそれと同時に、それが実現できた際の過程の暁には、以前に作成していたクラウドストレージというサーバーにつなぐ事“」。

 「”それから壊死した細胞を食べる蛆虫の生態を、心理的分野にも応用する目的として、その蛆虫が、配列を構成した傷病名となるプログラミングコードを入力して、それを解読させ、治療としても必要な心理療法の手順となるプログラミングコードも入力し、同様に解読させるといった記憶の植え付けを行う事“」。

 「”さらにその植え付けさせたその情報を持った姿を保存し、実際に治療という段階にこぎ付けられたなら今度は、リンクさせるとして、機械、生身の人であったり、肉体がなきものであっても、その存在たちの知性に、心理療法の知識を蓄えた蛆虫を電脳空間という環境内に転送“」。

 これから実践する全ての段取りをわずかな時間でこのように思い巡らしたアドレン・クラウディアス。 

 そしてすぐさまその場で入手する方法を調べ始めた。

 専門外ではあるも、自信の協力に対して、「”好意的な警察“」という思いは独りよがりなのか、妥当なのかは別として、組織が身近である事を口伝てに、入手できないかと考えた。

 そこで、自身が考察した治療法を実現させるうえで、「”どうしても必要“」。という事の経緯を警察に持ちかけると、警察の特権を利用する事により、手配できると結論つけた。

 その確信が込められた言葉を耳にできたアドレン・クラウディアスは、報道の彼女に優しくこう声をかけた。

 「もう大丈夫。絶対に良くなるよ。だから安心して」。

 その確信の込められた言葉を身にした彼女は一言だけ、「ありがとう」。と、言ったのち、少しの沈黙に陥るも、それを破るかのようにして、再び話し出した。「さっき、泣いたり、手足を痙攣した私の身に起こった理由は当然、私自身の身に直面した事柄だから、全て原因は分かっているんです。お話しするので聞いてくれますか?」。 彼女のその主張に対して、快くアドレン・クラウディアスは応じると、彼女は一度深く深呼吸してから、おもむろに口を開き話し始めた。

 「かつて私には妹がいたの。その妹と私は、トランデールリウムルピナー大平原という仮想現実の環境において、女性の肉体を持ったその容姿で、畑の作物を狙う天敵から、それを守るため、見回りする事で、人に使役動物としての活動の分野で、役割を果たす事で役立たされる関係から、その人類と共存してきた身だったの。しかしある時、いつものごとく、見回りしていた時、どこからか、視線を浴びせられているような不気味さを感じ取ったの。それが気がかりとなって周囲を見渡すけど、その場には、物影などなかった。その状況と同時に、見回りしている妹にもその不快感を訴えたの。地上より、視野が広い上空から見ても、怪しい存在は見当たらないのだから、気のせいだという事で、仕事をこなす事により、気をまぎらわし始めたの。その最中において、私たちのご主人様が持ってき忘れた道具を取りに、少しの間だけ畑から離れたの。その瞬間、畑で作物を作るために、細長く直線上に土を盛り上げられている箇所を示すうねと、そのうねの間にできた細いくぼみの中から、複数のサソリが私たちのご主人様が不在のそのわずかなスキを狙って、作物に食らい付こうと、潜んでチャンスを待ち構えていたの。サソリたちが取ったその行動に真っ先に気付いた私は、それを追い払おうと、目がけて飛んで行った。そして着地したその場の土の中に潜んでいたため、当然、目で確認する事ができないサソリが他にもいたの。そこに私を誘導して、誘き寄せた事の結果で待ち構えているそのサソリに襲いかかられる仕掛けられたその手口に、まんまと引っかかってしまい、私は着ていた服を切られてしまったの。だけど、不幸中の幸いと言うべきなのか、部分的に肌に見られたものの、触れられる事はなかった。その間に私をかばおうと、妹が助けにきてくれたの。そして矛先は、私から妹へと移したの。そして襲われそうになった妹を前にしたそのタイミングで、道具を取りに向かっていたご主人様が私たちの元へ、戻ってきたおかげから、私たちは難を逃れる事ができた。だけど、私と妹が傷を負った心は恐怖心の塊となって、自覚した時にはすでに遅く、一番最初ゲームをやり始めたきっかけは、興味本意から、ログインしていたのが、今は異次元にすがる事しかできなくなってしまい、現実逃避してしまっていたの。その証拠に、仮想現実へと依存して、その環境に身をゆだね、さらけ出す事で、現実世界では味わう事ができない解放感にしたっているのと同時に、襲われたその日、私たちに被害を被らせた相手との関係を断ち切る事が、妹にとっても善ある行為だと、みなして、相手をおとしめるための落とし穴を、妹と一緒に掘り起こすという殺害の仕方を、私は経過した末、妹に持ちかけた。そして相手の気を引かせるため、少し肌を露出した状態で、その場所までおびき寄せる事までは、一連の計画とおりだった。ところが、その誘導している最中、私が足をつまずかせてしまって転倒したの。そして妹はそんな私をかばって、力ずくでほうりとばしたの。妹の助けで私が助かった代わりに、その妹が、私を守ろうとして取った行動の反動で、2人で作った落とし穴へ、サソリもろとも妹も落ちてしまい、その直後、激しい衝撃音が鳴り響いた。内心、考えたくはなかったんだけれど、何が起きたかは、すぐにわかった。落下と同時に、妹の分身のアバターの一部である羽にサソリに傷付けられている光景を、瞬間的ではあるも、はっきり見たのを覚えているの。だから、計画とは異なる局面に対して言うなら、本来であればあの時、落ちるべきだったのは、妹ではなく私だったから、現実世界では今、私が妹にしてあげられなかった事に、助けを求めている存在を妹に重なり合わせ、記者という相手の身になって考えられる仕事をする事で、寄り添えられる一方で、正しいと、解釈しての感情から湧き起こる理不尽な正義感と同時に、悪の道の入り口から足を前進させる事ができないよう、私自身を制御させる役割として仮想現実に頼っているのと、妹に償いの意を込めて、おそらくそうなっていたであろう上半身裸という姿を想定して、その姿と化す事で意識を同化できている気になれるから、妹が落ちて行ってしまった穴の前で、罪滅ぼしのために回想して今に至っているの」。

 過去に起こった記憶を事細かに主張した報道の彼女にアドレン・クラウディアスは、希望を確信へとみなぎらせる言葉を投げかけた。

「思い出したくもない、つらく悲しい過去を丁寧に話せたのだから、大丈夫、もう1人で抱え込む必要はない。現実逃避などしないありのままのあなたの姿へと私は変える。妹さんのためにも変わらなくては、お姉さん、あなたのために身を犠牲にした愛情深い妹さんに対して示しがつかないからね」。

 そう言い終えたとたん、報道の彼女は、満面の笑みを浮かべて大きくうなずいた。

 そして今まで2人のやり取りを見ていた残る3人の男性たちも、我が先へと、架想現実に依存して現実逃避へと至った過去の経緯における理由を主張し始めた。

「一斉に声をあげたため、相手同士の声をかぶせてしまっているため、聞くにも聞けない現実に、この瞬間にしてある考えがアドレン・クラウディアスの脳裏を過ぎったため、彼はその場から離れ、何やら警察官と話し始めた」。

 それから数日が経過したある日、保護されていたニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナー、ミッチェル・ジョーンズ・ワートの3人は雑居房にいた。

 彼女たちがとどまる施設内において、一本の電話の呼び出し音が鳴り響いた。

 その電話の相手はアドレン・クラウディアスだった。

 彼は足並みを揃えて相手の主張を聞く事で、そこで発生するゲームに対して、捉え方の認識をまとめて収集しようという目的から、実際にログインした事がある彼女たちの手を借りて、同時に行なおうと考えたための行動だった。

 程なくした後、1人の職員が電話に出た。 アドレン・クラウディアスは、その相手にニーナ・ユイナーに電話口に出させるよう願い求めた。

 そしてあいさつもほどほどにし、彼が思い描く計画を伝えると、今度は返答を待つ電話のアドレン・クラウディアスの向こうでは、ニーナ・ユイナーが、カナエラン・ユイナー、ミッチェル・ジョーンズ・ワートの2人に同様の質問をしていた。

 それに対して2つ返事で承諾した彼女たち。

 こうして明くる日、アドレン・クラウディアスの自宅にて計画は実行へと移された。

 3人の男性と、3人の女性が存在しているため、それぞれが1対1のペアとなって合同のカウンセリングが始まった。

 しかし例外なのは、精神科患者ではあるも、心理学の知識を持ち得ていないミッチェル・ジョーンズ・ワート、その彼女だった。

 彼女に関しては、自らの経験を文面でつづり、同様に相手にも、自らの経験を自伝という方法により、それを文面で書きつづってもらう独特のカウンセリングのスタイルを、アドレン・クラウディアスは、ミッチェル・ジョーンズ・ワートのペアとなっている男性の1人に、提示したのだった。

 すると、その提案に同意してもらう事ができたミッチェル・ジョーンズ・ワートは、手にしていた1冊のノートとペンを彼に手渡した。

 すると、途端に素早いうえに華麗な文字の文章をつづる手のスピードを緩める事なく、刻々と流れる時間の中で、文体を考察しながら自分の世界観へと入り込んでいった。

 そして同時に、ミッチェル・ジョーンズ・ワートも自身の身に起こった過去の経験を文書で表していった。

 さらにその横では、ニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナーのそれぞれのペアが、交代交代で相手の主張を聞いていた。

 そして話し始めから、1人の男性は自身の分身として、「ゴブリンをアバターにしている」。という言葉を口にする一方で、もう1人の男性は、「アザゼルを自身の分身にしている」。という言葉をそれぞれが口にした。

 そしてそのアザゼルを自身の分身として使用していると述べる男性の主張はこうだ。

 「縁もゆかりも無い、自身とは全く関係性が結び付かない存在の身代わりとなって、罪を負わされる事に加え、不安や憎悪のはけ口であったり、迫害の標的として自ら進んで請け負う行為の繰り返しの中において、人と接してきた。それは過去に勉強していた自己啓発書の理論に基づいて、相手を気遣う事に直結する同情心による自己犠牲の精神を反映させるためだった。その言葉の意味に取りつかれてしまっていたため、自己愛も強いあまりに、相手が生み出した成果となる手柄を横取りしてしまうという行き過ぎたかたちの2面性もある。それが欠点となる局面だと感じている。それを克服したいというのがきっかけだった。その時、画面上に映し出されたのは、大自然だった。その場所の名は、トランデールリウムルピナー大平原という名だった。たとへその環境が仮想現実という作られた自然であろうとも、そこで慣れ親しむ事を継続するならば、克服できる余地もあるかと期待している。映し出されたのは思いがするため」。

 さらにその一方で、ミッチェルのペアとなっている男性も筆談で、「ドラゴン」という文字をつづった。

 さらに、そのドラゴンをアバターにしている存在の名を『レッドワイバーン』と、つづった。

 それから、ゲームにログインし始めた事の経緯についての理由もつづっている最中、ゴブリンをアバターにしていると主張した男性が再度こう主張し出した。

「自分は、人の面倒を見るのが好きで、それに講じて、人の話しに耳を傾ける事で、寄り添えられるのが警察官だと思い志願し、今の立場になりました。ですがその一方で、周囲をうろつき周り、自身にできる事は無いかを探っては、自ら進んで行動したり、相手側から引き受けるという繰り返しの行いの事から、決して感謝される事を生きがいとしての思いがあっての行いではなく、見返り目当てを常に目的としているこその行為なんです。 そのような中にあったとして、本心を悟られる事がないまま、交番勤務をしていたある時、ディメンションメモリー、今現在問題の対象に持ち上がっているこのゲームに関してのトラブルの通報を受けた時、それが設置されて、そこが現場となっていた温泉施設へと向かったんです。そこで目の当たりにしたのは、空想の世界だけに登場してくるような存在が持つ容姿と、人間の両方が掛け合わされた外見の者が、ゲーム機の横で2人、うずくまっている光景でした。未知なる存在に出くわした事から、その状況に直面した瞬間にして、現実感が消え失せてしまい、ただ呆然としていました。その時、自分を立ち返らせてくれたのが、何を隠そうここに座っている彼女だったのです。間もなくしてから自分は、ゲーム機の席に腰かけたんです。すると、画面にヘッドマウントディスプレイを使用するかどうかの選択肢を答えるメッセージが現れ、使用する方を選ぶと、上部からヘッドマウントディスプレイが出てきました。それを頭に装着すると、ご存じかと思いますが、この時点でアバターを作成する画面が表示されました。そこで分身となるゴブリンを選択したんです。

 そう主張し終えた時、突如、どこからともなく強烈なアルコールの臭いに、当人はもちろんの事、翻弄されてしまったその場にいた一同。

 その状況に皆、堪え忍びながら、やっとな思いで、警察官の彼を横たわらせながら、その彼に代わって話し出した報道の彼女。

 一方、その彼女の払う努力に答え応じるかのように、アドレン・クラウディアスも聞き耳を立てる事で、正常心を取り戻そうと懸命に行っていた。

「彼は、腸発酵症候群という症状の持ち主で、別名、ビール自動醸造症候群なんです。彼がその症状に至ったのは、やはり例のゲームです。トランデールリウムルピナー大平原という空想の世界だけに存在するその場所に、彼のアバターのゴブリンが、世界観を散策していた最中、タラスクという名の魔物に出くわしたらしく、この魔物は、遺糞症という精神疾患をわずらっていた傾向があると推測されます」。

 彼女がさらに続けて話そうとすると、その主張を言い終えた瞬間にして、ニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナー、ミッチェル・ジョーンズ・ワートの3人は、同時に報道の彼女が座る方向へと顔を向かせた。

 今度はその3人の女性が、報道の彼女に代わり、口をそろえてこう言った。

 「私たちその存在に糞を吐かれました」。

 さらに続けざまにこう問いかけた。

「タラスクの抱えている精神疾患と、警察官の男性が抱えている特殊な病との関連性は一体何?」。

 その質問に対して、こう返答した報道の彼女。

「あなたたちサルが、コーヒー豆を口に含ませ、一度食べて噛むも、噛み切れなかった部分のみを吐き出す習性を持つサルが存在するのを知っている?」。

 その質問に対して皆、一致して首を横に振

 った。

 その反応を確認すると、続けてこう主張し始めた彼女。

 「その習性に着目した彼は、タラスクの抱える遺糞症の撒くという面に対して、サルの習性に対する撒くという行為を、念写を用いる事で、後者に置き換えられないかと考えた末、その意向と並行して、心優しい彼は、万が一の事も想定して、自身の分身であるアバターを持ってタラスクの習性を受け入れる事も含めて計画を実行したの。

 それは互いの脳波を計るための電極を付け、精神転送を導かせ、その課程で念写を行うものだった。

 そして計画の途中までは、成功していた。 だけど結果むなしく、彼とタラスク、双方の睡眠の階層のバランスにズレが生じてしまったゆえに、計画のうちの保険としていた考えとして、そこに流れてしまうだけの状況では収まらず、仮想現実を飛び越して、現実世界の肉体に跳ね返ってきて、そこに結実してしまったんです。

 そしてその結果、腸発酵症候群という病、別名、ビール自動醸造症候群を生まれ持ってしまったんです。

 彼が犠牲を払って救おうとした行為だったとしても、タラスクの精神疾患は治る事もなかったから結局は、無にきせられてしまったかと思うと何のために起こした行動なのか収拾が付かないです。

 でも彼は彼で自身の症状を出すまいとして、心と行動に歯止めを効かせていたんです。

 それが今回をきっかけに、さらけ出した事が災いして、その影響が降りかかり、自ら保っていた均衡を崩れ去らせてしまった事によって、再発を招かせたのだと私は感じています。

 ですがそのように感じる反面、過去に彼自身、具体的な事は分かりませんが、彼が警察官になる以前の事、ある警察官から、さげすまれた過去があったらしく、その影響を受け警察官としての理念における忠誠心が低下していましたので、心優しいと最初に言いましたが、彼にとっては、敵視するつもりはありませんが、タイミング的に戒めも含めて、考え方を一新できる事につながる良い機会なのではないかと内心感じています」。

 報道の彼女が、そう長々と主張し終えるその同じタイミングでは、今までミッチェル・ジョーンズ・ワートとペアとなっていた1人の男性は、ノートにつづる方式でカウンセリングに励むなか、3ページ程度にまで達するくらいの文字を、ビッシリとつづり続けていた。

 この時をきっかけとして、ノートに文字を書き込んでは休み、またノートに文字を書き込んでは休むという一定したリズムを保つ中、数日が経過したある日、ついに書き上げる事ができた。

 これまで長文を書きつづっていたそんな彼とは異なり、ミッチェル・ジョーンズ・ワートがつづった文章は、ノート2ページ弱に綺麗に収められていた。

 そこにはこう書き記されてた。

「今は亡き主人とドライブの帰り、それまで何事もなく通常に走行していた時、突如、動物が横切ってきた。その状況に遭遇したのは、高速道路だったから、その動物も行き場を失ってしまい、右往左往として戸惑っていた。

 その様子に哀れに思った主人は、助けるため、車を路側帯に停車して、車から降りた。 それと同じタイミングで、上空から未だかつて聞いた事がない激しい音が鳴り響きながら、迫ってくるのを感じた。

 すると、ジェットコースターのように急降下しだした飛行機の姿が目の前に飛び込んできた。

 その影響により、風圧に耐え切れなくなった飛行機の外装を覆うパーツが空中分解していった。

 その空中分解しいくパーツは私たちがいる場所まで飛ばされてきた。

 主人は命の危険を顧みずに、動物を離れさせようと、安全な場所を探していた。

 すると、そこへ1台の車が、主人と動物がいる方向へと衝突していった。

 そこで顔を合わせた時は、見分けも付かないほど、見るも無惨な姿と化した状態だったのと、命がけで守った動物は、高速道路を走り去って行った。同じ場所にいたのに私だけが助かって、善意ある行動を取ったゆえのせいで、命を落とす事へと陥ってしまった主人に申し訳なく思っていた。

 後になって新聞で読んで知ったのが、バードストライクによるエンジントラブルであったり、突然、衝突してきた車は、飛び交う物体に目を奪われてしまい、ハンドル操作を誤った事の原因だというのも把握できた。

 意図的に起こそうと企てたものではなく、それぞれ置かれた環境であったり、状況も違う中で、偶然、巻き込まれてしまい、不運が襲い掛かってきて、共通点が重なり合っただけの事。

 心優しさを反映して、迎える事の死というのであれば、その主人の死は無駄ではない」。

 それに続いて、ドラゴンという文字に加え、アバターとなるその存在の名を『レッドワイバーン』と、つづられた男性の所有するノートには自伝の形式でこう書かれてあった。

「当時、私は小さな子供達から人気があり、ディメンションメモリーにログインして、トランデールリウムルピナー大平原という空想の世界だけに存在する仮想現実内の自然で、共に遊ぶ事を日課としていた。

 当然の事ながら、その事を熟知している親達からも信頼されている存在であったおかげにより、幼児には、「子守の相手」、児童には、「保護者代わり」、といった役割を果たしていた。互いを結んでいるその育みは特に、春においては、「花見」、夏においては、「フィッシングキャンプ」、秋においては、「読書」、冬は冬眠しているため、姿を現さないものの、それぞれの四季に応じて、行えるならではの風習に加え、普段の日常で楽しむ要素とは違った方向での楽しみ方がある事で大人、子供関わり無く皆が歓喜に慕っていた。

 だがしかし、夏の季節のある日の事だった。

 私に加え、男の子兄弟2人とで、「フィッシングキャンプ」を満喫していた時、男の子兄弟2人が、これまで読み進めて来たお気に入りの本があり、その本を読もうとおもむろに、たすき掛けしているショルダーバッグから、1冊の本を取り出し、魚が竿に食い付いて来るまでの時間、読書に専念し始めた。

 だが、その内の1人にはその本とは別に、関心を抱かせる本が存在したため、今まで読み進めて来た本は、もう1人の兄弟の手へと引き渡してしまった。そして途中からその本は、兄弟2人の内の1人が個人で、読み進める習慣へと状況が変化した。

 そうして行くに連れて、本の世界観の中で、物語の展開を繰り広げる主人公が次第に、上空を飛び交う場面へと差し掛かろうとしている最中の時、突如として、男の子兄弟2人の内1人から、「僕を背中に乗せて空を飛んで欲しい」。というリクエストを、私は受けた。その時、私は、「危険だから」。と、言う理由として、「今は、魚釣りをしているから」。と、オブラートで包み込む相手の良心に配慮した言葉選びをした。

 本来、頭で思い描く説得を隠すも、拒んでしまい、「どうしても」。と、言うばかりの1人の少年の自己主張で、全く聞く耳を持たないでいた。

 空を飛ぶ事はもちろん、歩行するといった事の行為も、ドラゴンを選択した私のアバターであれば、両方可能な能力である事から、空を飛びたがる理由を理解できないでもなかった。 

 そして、同じ兄弟の男の子のうち1人が、 「エアーウェイはここには無いけれど、空中散歩できるエアーウェイの代わりとして、ドラゴンに乗り、空中散歩をしてみたい」。と、言った言葉により、よりいっそうその感情が理解できた。「エアーウェイ」という表現は、少年たちが読んでいる物語の中盤で随所に綴られていた記憶があった事から、その物語に登場してくる主人公になりきりたいのだといういう事がわかった。そして私は、翼を羽ばたかせて離陸する準備を行うそれら一連の出来事を、同じ兄弟のもう1人の男の子が、心配そうな眼差しをかもし出し始めながら見つめてきた。

 その状況をよそにするかのように、私は空へと向かって羽ばたこうとしている瞬間を、私の背に乗っていながらにしても男の子に感じてもらおうと、力強い風を与えた。そして私と、私の背に乗っている少年との感情がシンクロしたかのごとく、今か今かという早る期待を膨らませる胸の鼓動が、力強く高鳴り始めたのが伝わってきた。その傍らにおいては、私たちの存在を相変わらず、不安そうな面持ちで見つめていた男の子だったが、すでに同じ兄弟のもう1人男の子が、私の背に乗っている姿を、見続けている中において、次第にその少年も空を飛びたいという感情が再び芽生え始めたのか、「僕も大空を飛んで、物語の主人公の仲間の1人としての気分にならせてくれるかな?」。と、突如としてそのように主張し出した。

 そしてその同じタイミングでは、後になって把握できた事だが、地球の内部で熱水が温泉のように沸き上がり始めるという現象が発生していたという事を知った。

 それはつまり、海洋の地殻変動に加え、火山活動を誘発させる現象だという事。

 それが我々のいる目前で起こっていた。

 そうとも知る由しも私たちは、兄弟2人を背に乗せた私は、ついに地面を離れ、徐々に上空へと空を舞った。

 上空を飛び交う中で、2人の男の子兄弟は声を揃えて、「僕達、空を飛んでるよ。夢が叶っているよ」。と、歓喜の雄叫びを主張した。

 そして、たすき掛けしているショルダーバッグから、一冊の本を取り出して。本の続きを読み始めた。

 この瞬間にして、兄弟2人が物語の中で活躍する本の中の主人公とが結実させ、その少年2人が抱いていた夢を叶えてあげられる事に協力できた最高の瞬間だった。私もその感動に慕っているその間にもひたすら読書に熱中していた少年2人に私は、「僕も、君達2人に、夢を叶えてあげられる手助けができて嬉しいよ」。と、呟いた。

 それに対して、1人の少年が、「ありがとう。君は情熱的に心優しいドラゴンなんだね。情熱を色で表すと、赤だから今から君の名前は、レッドワイバーンだ」。と、言って名を授けてくれたり、もう1人は、「優しい、優しいかわいいレッドワイバーン」と言って私を歓迎してくれた。

 それに気を良くしてしまった私は、上空を舞う事以外にも、体を横に回転してみたり、前後に回転したりとで、2人の男の子兄弟を背に乗せて飛ぶ行為を今までためらっていた感情に変化が生じてしまっていた。レッドワイバーンの心に変化が訪れた末、そのさらなる変化として、自らも上空を舞う事に酔いしれていた。2人の男の子兄弟の立場からしては、これまで飛ぶ事事態、悲観的にしてきたため、いざ飛んだとなったなら、今までとは異なる正反対の言動により、要望以上に答えてくれた事における歓喜という感情を含め、少年に私の心境の変化を感じてもらっていると勝手に認識し、その思い込みによって優越感にしたっていた。

 そして刻々と時間が過ぎ行く中に連れて、我々の行く手を惑わせるかのようにして、雲が徐々に暗くなり始めた。

 さらに風も出はじめ、今にも雨が降りそうな天候へと移り変わった。

 そのため離陸する体勢を取ったと同時に、突如として襲いかかって来た突風に我々は行動を奪われてしまった。

 そして私と少年の1人は浅瀬へと、もう1人の少年は、かろうじて足は着くものの浅瀬と比較したならば、深みのある海域へとそれぞれが激しく叩き付けられた。

 この時をもって、海水の温度が上昇している事実を知った。

 それと同時に、深みのある海域で、「熱い、熱い」と、叫びながらもがき苦しんでいる少年の姿もあった。

 私は負傷させてしまった事の負い目から、自分自身もやけどを負うもかまう事なく、一心不乱に、少年の元へと向かい、救い出した。

 そして私は少年が全身負傷した箇所に海水を掛け流した。

 調子付いて取った私の浅はかな行動ゆえに、全身を負傷させるという少年の身に起きた局面に対して、そのような事態を招いた私自身が軽傷で済んでしまった事による罪悪感を覚えた。

 その後、それを引きずりながら、ログアウトして現実世界に戻ってきた数日の事だった。

 実際にその環境下においても、お互い和解する事もないまま、再び事故が起こってしまった。

 この時は偶然、水難事故に遭っている光景を目撃したため、私は少年2人を救出するも、全身が凍りつくほど冷たくなってしまっていた。

 そこで私は、薪に少量のガソリンを浸してから火を起こそうと考えた。

 ところがなかなか火が起こりそうもないまま、時間だけが経過していった。

 その時、ゲーム内で使用している自分のアバターのドラゴンが脳裏に浮かんできた。

 さらに、ドラゴン特有の口から火を吐き出す情景となるイメージも脳裏を過ぎった。

 すると、思い浮かんできた2つの面と、現実世界とが同化したかのように、火の粉を辺り一面に撒き散らし空高くまで舞い上がった。

 それに加えて、風も吹き始めた。

 少年2人を助けようとして起こした火は突然吹き出したその風の影響を受け、皮肉にも、その子供たちへと迫っていってしまい、その場所から避けようと、両脇に抱え込みながら

 離れようとしていた。

 その最中、子供たちに意識を奪われていた私の注意不足による落ち度から、残っていたガソリンにも火の粉が移り、その場は瞬間的に火の海と化してしまった。

 やけどを負った我々だったが、なかでも、2人の男の子兄弟の方が重傷だった。

 生死をさまよいながら、あげくには病院のベッドの上で息を引き取った。

 同じ状況に置かれていて、それで尚の事、ゲーム内で起きた事故の教訓を学ばずに、現実世界でも再び、同じ過ちを犯して事故を引き起こした私が軽傷で済む一方、2人の男の子兄弟を死に追いやった事の事実から私は、2重の責任を感じて、他の人を今は亡き子供たちの姿と重ね合わせて見ている事で、罪滅ぼしをしている」。

 そうように自身が書かれた文章を読み返すその当人に加え、初めて目を通すその場にいた皆、それぞれの流れ行く時間の中、男性が読み返し終わった瞬間、彼の外見がドラゴンと人間を組み合わせた獣人へと変貌してしまった。

 この状況は、仮想現実を飛び越えて、現実世界への跳ね返りによって、腸発酵症候群を生まれ持ってしまった際の過程と同様の影響を再び受けてしまっていたのだった。

 彼のそのような異変に誰も気付く事なく、

 刻々と流れる時間の中で、文章を読み終えた皆は、同時に顔を上げ、男性の方へと一斉に視線を送った。 

 だがしかし変貌したその姿を目の当たりにしても、驚きおののいたり、恐怖心を抱くどころか、今まで読んできた彼の長所を引き出す決定付けられる文章背景の助長により、皆、尊敬する眼差しで彼を見つめていた。

 その見つめる一方で、表には出さないまでも、掛け合わせという容姿を目の当たりにした経験があるアドレン・クラウディアスは以前、出向いた先のカフェで知り合ったウェイターと、ウェイトレスの存在に対して脳裏を過ぎらせていた。

 それでも肝心の当の本人は、謙遜にも現実を受け入れ、このままの状態を望んだ。

 それから数日が経過したある日、

 クライアントの4人が抱える問題点となる特徴をそれぞれ、ピックアップしていたアドレン・クラウディアスは、自身が開発へと至らした特殊な装置に、警察という組織の特権の利用を促したそのルートを介させて、入手へと至った蛆虫のセットを行った。

 そうする事に加え、クライアントの4人に対しての治療に先駆け、アドレン・クラウディアスが学生時代において、大学の講義内で作成していた「尾部懸垂」という重力が存在する宇宙空間を模擬的に再現したユニットを取り入れる事によって起こる現象の期待を抱いた。

 そして彼がコンピューターで、「病症コード」を入力し、その病症コードが電極を通じて、電子コード化した「表語文字」へと変換されると同時に、蛆虫が付けられているそこを巡り、負荷を与えないよう彼は配慮しながらも、その蛆虫は、治療における知識となる要素を蓄えていった。

 ありとあらゆる存在している精神療法を入力し、病症コードが電子コード化された時と同様の課程において、その精神療法も電子コード化も行った末、表語文字へと変換されると同時に再度、蛆虫に負荷を与えないよう配慮しながらも、治療における知識となる要素を蓄えていった。

 その存在している精神療法の記憶も蓄えていくその最中に、なかでも重要視していたのが、「書く」という表現の他に、「体現」という面がある表現療法を特に、蛆虫は意識していた。

 この課程の中の要素である病症コードに加え、精神療法もコンピューターで入力し、コード化。

 それから電極を通じて、その双方が持つコードが表語文字へと電子コード化に変換される。

 さらに宇宙空間を模擬的に再現。

 これら1連の流れを例えて言うならば、宇宙に存在する「銀河」に置き換えられると言っても過言ではないだろう。

 なぜなら、幾つもの天体がまとまってできた銀河には、想像絶する計り知れないほどの

 物質が類を成して形成されている。

 同様に、言語も十人十色異なる「思考」、「感情」、「意思」といった要素が混合する事で、善や悪に化したりもする。

 さらにこの言語というツールは、書くという動作だけに囚われず、体現という形式にでも、工夫次第では無限に伝達が可能だ。

 そのためこれらの局面は、多くの場面で必要不可欠となってくるものだからだ。

 つまり、言い換えれば、銀河は言語という名の天体だ。

 それからその状況を蛆虫が解読する段階として、治療を行う対象となる4人に適切な治療法を大まかにアドレン・クラウディアスはした後、アップロードと解読に加えて、転送を果たす役割を持つ「機械」と、「知性」と、「知識」の3つがすでにリンクされているのに対して、そのシステムに、4人の存在とを電極につなぎ合わせた。

 そしてその間において、病症コードと共に、精神療法の記憶も電子コード化された表語文字のデーターを1度、クラウドへの保存も並行して行った。

 こうして電子コード化された病症コードとなる表語文字のデーターの記憶を蓄えに蓄えた蛆虫は、その膨大なデーター量を解読しながらも同時に、猛スピードで植え付けていった。

 それから程なくした後、植え付けに完了へと至った蛆虫は、この現段階ではまだ植え付けられていない精神療法も植え付けられていった。

 まもなくしてから、4人のクライアントの脳内へと、心理学の知識が身につけられた蛆虫と、4人のクライアントが精神疾患をわずらってしまった事における過去の背景の双方が転送され、精神共有によりぶつかり合った。

 そして、4人のクライアントが共通しているのが、「心的外傷後ストレス障害」『PTSD』に区分されているサバイバーズギルト、に加えて、類似した疾患であるサバイバー症候群を発症している事を知り得た蛆虫は、その症状に最適な治療法を選択し、さまざまな精神療法をひとくくりとして、4人同時に精神疾患をむしばませている根底へと刺激を送った。

 すると、精神療法を行っている概要となるコードが次から次へと移り変わり、現実逃避という局面と同時に、これまでトラウマとなっていた種に中和する事で、一瞬で浄化に至ったのだった。

 こうして皆、歓喜の声をあげ喜びを分かち合った。

 それから、ニーナ・ユイナー、カナエラン・ユイナー、ミッチェル・ジョーンズ・ワートらもこれまでと同様の治療を受ける準備に差しかかっていた。

 その中のニーナ・ユイナーと、カナエラン・ユイナーに関しては、心理学を職にしている立場といえど、あまりにも斬新すぎる治療方であるため、興味と違和感とが混合した感情を覚え始めたのだった。

 だが、その一方のミッチェル・ジョーンズ・ワートには、「違和感」という文字など存在せずに、ただただ関心しきっていた。

 それぞれが抱くそのような感情の中で、彼女たちも治療に至った。

 その最中で、学習能力を身につけ始めた蛆

 虫は、カウンセリングの一環で、距離など関係なく、季節ごとに咲く花の開花が起こったタイミングで、自然に親しむ事からもたらされる癒しを吸収したり、陶磁、木工、繊維、紙を扱ったイベントに出向いたりした過去のその時の記憶の映像を読み込んで、自らの意思を持って、植え付けを行った。

 この状況と共に、3人の心も最初診療を受けた4人と同様、病を患っている根底へと刺激が送られたその箇所が中和され、これまで抱えていた元凶となる局面が取り除かれたのだった。

 こうして、3人も歓喜に慕った。

 しかし、この時はまだ学習能力を自らの力で習得したとは知るよしもないアドレン・クラウディアス。

 ある日、ウッドチップが敷かれたケージを蛆虫がよじ登り、そのケージの上部に固定されている網の目が施してあるふたのわずかな隙間から、飼育している作業台へと落ちてしまい、その場を動き回っている最中、配置している物にぶつかった拍子に、アドレン・クラウディアスが仕様しているショルダーバッグのベルトに付着してしまった。

 そうとは知るよしもないアドレンは、当然ケージ内に蛆虫がいるものだと思っている事から、確認する事なく外出するため、家を後にした。

 そしてバイクで向かった先の書店で、一冊の自己啓発書を手にしてから、テーブルと椅子が設置されている場所まで向かい、読み始めていた。

 その間にも最初、付着していたショルダーバッグのベルトからアドレン・クラウディアスの着ている服へと移動していた。

 そしてさらにその箇所から今度は、皮膚へと場所を変え始めた。

 蛆虫が場所を移したその場所は首元であったため、突然、首元がかゆくなってくる感覚を覚え、そっとその首元へと手をやった。

 そして何やら得体の知れないものが指先に触れたためそれを掴み、自身の顔の正面へと持ってきた。

 本来ならば、家にいるべき蛆虫が、今、自身と同じ環境にいる現実に戸惑いと、目の疑いを瞬間的に隠しきれない様子をかもし出している最中、そんな彼をよそにするかのように、蛆虫はアドレン・クラウディアスが読んでいた本のページにつづられている心理学的な供述に相当する文章を見つけてはその文面に沿って移動し、またそれに当てはまる文章を見つけては、その文面に沿って移動するという行動を見せたのだった。

 この段階ではまだアドレン・クラウディアスは、学習能力を蛆虫が身につけた事によって、起こした行動である現実を理解できる事の要素が何1つとして存在しないその一方で、蛆虫は繰り返しの行動をしていたのだった。

 その不可思議な行動を見つめている中において、半信半疑と、期待とが交差する感情を抱くアドレン・クラウディアスであるも、しばらくその様子をうかがっていた。

 それから家に着き、未だ交差する感情を背負う心境のなかで、書店で手にした本の内容を、蛆虫が記憶しているかどうかの確認のため、それをクラウドを利用し検証を行った。

 すると、記憶が保存されている事を悟ったこの瞬間にして、半信半疑から一変、彼の想像を上回る局面へと結実した。

 彼が思い描いた構想が理想以上となって功を奏した事で、心の病を完全に完治へと至らす事ができた7人は、囚われていた過去の時間を取り戻すべきものは取り戻し、それから先に積み上げてきた思い出の記憶と共に、共存しながら、それぞれが豊かな道のりへと向けて開拓していったのだった。

 それから数年の月日が経過した頃の事。

 その期間の間で、さらに文章に対しての理解を増し加えていた蛆虫は、訪問カウンセラーを種まき人に例えた信仰療法における理論や定義をも理解し、植え付けていた。

 訪問カウンセラーを種まき人に置き換えて、その種まき人を訪問カウンセラーにイコールとして定めるなら、与える事になるアドバイスが種にイコールとして定められる。

 自分独自の視点の解釈から、物事を考察するか、相手の立場となって物事を考察する感情移入を示すというその異なる面では、受けとるクライアント側の心理状態によっては、逆効果という局面を向かえてしまう事にもなりかねない。

 つまり、作物の種と同様に、欠陥が生じているならば、その欠陥を持ったまま成長してしまうのと同じように、欠陥のある発言を相手にしてしまうならば、それはアドバイスではなく、現状を故意に悪化させる苦痛を抱かせるものである。

 当然の事だが、精神的な悩みを抱えているクライアントに、適切なアドバイスを与える事で必要となる要素となるのは、道理をわきまえ、かつ尊重する発言だ。

 そうする事で、自ずと親身になって寄り添えられるという結果をもたらす事ができる。

 このような精神世界の知識という面からもアプローする事ができるまでに進化を遂げたその蛆虫。

 以前、カウンセリングを行っている最中、仮想現実内でクライアントである男性自身の分身としているドラゴンが、そこを飛び越えて、現実世界への跳ね返りによって、掛け合わせた肉体を持つよう進化していったその時、1度は受け入れたものの、再度カウンセリングに至った際には、時と場合による2面性が存在していた事に対して、戒めの精神を示し、悔い改めたため、「”元のままの姿を取り戻したい“」という内なる感情をアドレン・クラウディアスに持ちかけたのだった。

 そしてさらに同じ頃、問題が生じた元凶のディメンションメモリーというこのゲームが話題となり、現実逃避のためにログインしたり、その逆で現実逃避していたユーザーが、その環境から抜け出し、現実世界で起こっている状況と、向き合う努力をする意思表示した際には、その状況が良いか悪いか別として、そのゲームにログインしたとしても本来、影響を受けるはずのない仮想の垣根を超えて、その仮想という世界でしか存在しない容姿に現実世界に跳ね返りという現象がたとえ起きようと、心理学の知識を植え付けた蛆虫に手を借りるなら、元の姿に戻れるという噂が風に乗り広がってしまっていた。

 それと同時進行するかのように、ドラゴンと人間を組み合わせた獣人という警察官の男性の容姿も、時間の流れと共に、元の姿へと変わっていった。

 そして、ゲームにログインしている存在の中に、現実に直視できなくなってしまったりして、仮想現実という非現実に身を置いて、そこでの環境でしか存在意義を保てない事の理由から、現実逃避に至った背景を持つ者を、同じ境遇を抱え合っている者であったり、さらにはすでに、現実逃避を克服していたその現実逃避という同じ悩みに共感できる同士が、現実世界においての姿、形を悟られる事なく、フレンドリーに近寄れる事が可能なアバターを利用して、パーティを構成し、サイバーパトロールを実行する中で、そのような環境下にいる存在を探り当てた末、心のケアも行うという活動に専念していた。

 そうした中において、小なるものが大となって増加していくその仲間の中には、かつてアドレン・クラウディアスが、カフェで知り合ったウェイターと、ウェイトレスも加わり、

 トランデールリウムルピナー大平原という仮想の場を開拓していったのだった。《ルビを入力…》

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