069.暴漢


 「すまん」 


 旗を壊したことと、爆風の危険にさらしたことについて頭を下げて謝る。シールド魔法をかけてなかったと思うと我ながらぞっとする。


「何したかはよくわかってないが、そんな裏技があったとはな!」


「後で怒られるときはソウだけ行ってよ」


 幸いにも、特に近くにいたガウスやアタルが笑って許してくれたため険悪な雰囲気になることはなかった。


「自分のチームの旗を無くすなんてね。この方法は思いつかなかった。少なくとも、去年やってるチームはなかったよ」


「…新しい」


 褒めているのか貶しているのか定かではないがハルとフェリィもフォローしてくれた。


「そりゃ、わざわざ最初に与えられてる得点を放棄するチームなんているはずないわよね…」


 カスミも怒っていることもなく、むしろ半笑いだ。笑いを堪えているようにも見える。


「ぷっ、あーはっはっは」


 いや、堪えきれなかったようだ。


 つられてガウスも笑い声を上げる。


 ハルもアタルも笑いだし、感情が薄いフェリィですら声こそあげないものの笑みをこぼした。



 ひとしきり笑ったところで、そろそろ開始の時間が迫ってきていた。と言っても、こちらには守るものがないため時間に焦ることもないのだが、ここの旗を狙う必要がなくなったと知られる前に行動を起こした方がいい。


「現状、残る旗は三つだ。つまり二本確保すれば勝ちが確定する」


「逆に一本もとれなければ最下位の屈辱ね」


 士官学校での成績はそのまま就職に直結するといってもいい。個人的には成績などどうでもいいのだが、メンバー全員をそんな考えに巻き込むわけにもいかない。まぁ、初日の授業がそこまで影響するとも思えないが、良い結果をだすにこしたことはない。


「二手に分かれて同時に旗を奪取でいこう」


 作戦は単純。どちらも攻撃だ。失うものがないって強い。いや、失った強みと言った方が適当か。


「分け方は…そうだな。今回は男女にするか」


 そういって、メンバーを見回すが特に異論はなかった。



 プァーーー!!



 ちょうどそのとき敷地内にブザーが鳴り響いた。開始の合図だろう。


「攻撃を仕掛けるタイミングは任せる。うまく終了時に旗を確保するように動いてくれ。そっちのリーダーは……カスミだ」


 三人が頷く。


「じゃあ行くわ」


 カスミが歩き出し、ハルとフェリィはその後について行った。最後尾のフェリィが無表情でこちらに手を振っていく。


 一本旗を奪えば最下位はない。カスミ、ハル、フェリィ。この三人がいて旗を奪取できないことはないだろう。


「こっちも行くとするか」


 実力的にはまだ未知数のガウスとアタルに声をかけるとカスミたちとは別の方向へと歩み始めた。



「方向からするとこっちはダリアのチームだな」


「ああ、そうだな」


 補足するとカスミたちが向かった方角はクリスのチームの開始位置、さらに対角線の一番遠いところは先輩チームの開始位置である。


 しばらく歩みを進めたところで再びガウスが声を上げる。


「このまま攻め込むつもりか?」


「ああ。ただ、目的は旗を奪うことではなく相手の力量を知ること、可能なら無効化することだ」


 早く奪えたとして守るのはやや面倒だが、時間ギリギリに向かって奪えなければ意味がない。


「…っ!とまれ!」


 そのとき、違和感に気づいてガウスとアタルを止める。


「…なんかあった?」


「なんか、こう直感的なものが」


 そう言って付近にある大きめの石を拾い、今進もうとしていた進路に向かって投げる。


 ドガァァァン!


 途端、大きな音ともに爆発した。地雷か、それに類する魔法の罠かなにかだろう。


「……まぁまぁ洒落になってない威力だね」


「あぁ、運が悪ければ足が吹っ飛んでいたかも…」


 青ざめるガウスとアタル。


「にしても、よく気付いたな。罠察知か何かのスキルか?」


「あぁ、そんなところ…だろう」


「だろう?」


 微妙な言い回しに、首を傾げるアタル。


 自分にも何のスキルが働いたか分かってないのだから仕方ない。


「しかし、罠察知ならアタルも持ってなかったか?」


「……たぶんもう少し近づかないとわからなかった。罠設置のスキルの高い誰かが仕掛けたのかな。どっちかっていうとソウの察知範囲と精度がおかしいだけだから。ユニークスキルレベルじゃん」


「まぁ何もなかったからいいじゃないか」



 ガサッ!



 そのとき、茂みから一人の少女が頭を出し、爆発した箇所の様子を伺った。少し離れた位置にいるこっちには気付いていない。


「あれ……?」


 少女は不思議そうな声を出す。


 とりあえず確保だな。


 音を立てないように忍び寄ると、少女の腕を取り関節をきめる。


「なっ、あいたたたた!」


「このまま腕が使い物にならないようにされたくなければ静かにしてくれ」


 わずかに力をこめると少女は青ざめて首を縦に振る。我ながらなかなかの悪役ぶりだ。


 少し遅れてガウスとアタルが近寄ってくる。


「見事なものだな」


 先ほどの動きを見たガウスが感嘆の声をもらす。


「傍からみれば完全に無差別暴漢者だけどね」


 アタルが感想を口にする。


 自覚はあるがここで甘い行動をとって舐められるわけにもいかない。


「暴漢か…、なるほど服でも奪って行動不能にさせるのはいい手かもしれないな…?」


 できるだけ悪そうな顔をして捕らえた少女の様子を窺う。もちろん本心ではない。


 しかし、男三人に囲まれた状況で止めをさしてしまったらしい。恐怖のためか少女が泣き出してしまった。


「しまった…やり過ぎたか…。もちろん冗談だからな?」


 すぐにとりなすが、機を逸したようだ。少女が泣き止むことはない。

 

「あーあ、泣ーかしたー」


「今のはソウが悪いな」


 ガウスとアタルから責められながら目の前の泣き止まない少女を見てため息をつくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オールマイティを手にした俺が正義の味方ぶってたら、いつのまにか詠われていた 瀬戸星都 @seto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ