壮絶な過去を抱えた主人公と、記憶を失った女神。二人のその先は?

【物語は】
コメディ調の明るい日常から始まっていく。
女神様なのに何故か、記憶を失い役に立たない少女と貧乏な主人公。なぜこんなに貧乏なのか。どんな経緯があって主人公が女神と暮らしているのか。疑問を抱きつつ読み進めていくと、明るい雰囲気は一変し、主人公の回想から過去の出来事へと移る。
緊迫した空気の中、主人公の過去は明かされていく。それは、魔人によって父を殺されるという壮絶な過去であった。

【世界観・舞台・物語の魅力】
意味深な言葉でくくられる過去。そこから一転し、場面は現在と戻ってくる。どうやら、女神の方が主人公に想いを寄せているようだが、当の本人は全く気づかない様子。どうやら胸と道具作りにしか興味がない様子。

このあと、詳しい道具作りの話から魔人と魔物の話へと入っていく。この魔人と魔物がどんな存在であるのか、なぜ存在するのか、どんな生体なのかについて。まずバランスがとても良い。人間は彼らよりも弱い存在であるが、彼らもまたただ強いわけではなく欠点もあるのだ。

その後、戦いのシステムや身分などについても明かされる。身分制度の中には、奴隷という身分も存在する。この中で一番驚いた点。奴隷に関しては、一般的なイメージとは異なるのだ。
そしてこの物語のオリジナル要素でもある、特殊なシステム”休息奴隷”というものが、この作品に独創性を齎している。(詳しくは作中にて)
これは、新しい可能性と予測不能な展開を期待させるのだ。現に主人公を養ってくれているのは、この特殊システムの”休息奴隷”という立場の者。それに対し主人公は”一般国民”。身分逆転といっても過言でない制度のようである。

【登場人物の魅力】
主人公は明るく振舞っているが、心に傷を残しているように感じた。まだ幼かっただろう頃に、父が目の前で殺される姿を目撃したのだ。しかも母は自分を必死に守ろうとしていた。その事件について”主人公自身が原因”だったのだろうか、という憶測が出来てしまう部分がある。これついては、まだ詳しくは明かされていない為、憶測の域を出ないが。

この物語には、詳しく語られている部分と謎を残した部分がある。世界観については、詳細に丁寧に描かれている為とても分かりやすく、想像しやすい。
それに対し、過去の事件については謎が多く残されたままである。母の言葉に隠されたもの(伏線と感じる部分)や主人公が狙われていた理由、神である少女がどうやって主人公を助けたのかや、記憶喪失になった理由など。

恐らくこれらは、何かの伏線だと思われる。これから、少しづつ謎が明かされていくに違いない。つまり、ミステリー要素も含まれていると言う事だ。
謎の部分というのは、どうしても知りたくなるものである、すなわちとても、読者の好奇心を刺激する物語であると言える。

【物語の見どころ】
この物語では、主人公がとても複雑に描かれている。冒頭はコミカルであり、女神とのやり取りも軽快な為、遠慮のない様子が伺える。しかし、一方ではとてもデリケートな部分も持っている。時々主人公がシリアスさを見せるのは、過去の出来事に寄るものだろう。
そして話を読み進めると分かって来るのが、彼の優しさの部分である。自分が貧困であるにも関わらず、貧しい人に手を差し伸べてしまう。その優しさは、自分を養ってくれている人の生活さ、え圧迫している様子。優しさではご飯は食べられない。現に豊かとは言い難い生活を、彼らは強いられているのだ。

それが発端ではないのかも知れないが、彼はイジメにも遭っている。道具を作ることが出来るにも関わらず、”いじめっ子たちに報復する”ために道具を作ることはしないのだ。母の最期の願いを守ろうとし、何処までも不器用に生きる主人公。それを自分のせいだと思う女神。

この物語は父を失い母の最期の願いを守ろうとする、貧乏でありイジメに遭いながらも人としての心である優しさや、思い遣りを失わない主人公と、記憶喪失の為に彼を不幸にしてしまっていると思う女神が、必死に生きている部分にみどころを感じる作品なのではないだろうか。しかもそんな状況にもかかわらず、シリアスだけではなく笑える部分もある。

あなたもお手に取られてみませんか?
こんな二人が、この後どうなっていくのか?
門をくぐり、果たして生きて帰れるのだろうか。
復讐を果たせる日は来るのだろうか?
是非、その目で確かめてみてくださいね。お奨めです。

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