電気柵と扉の嘘つきパラドックス

ちびまるフォイ

脱出の鍵は生真面目さ

3人の男女が目を覚ますと、電気柵に囲まれていた。


フェンスのように高い電気柵には出入り口が一つ。

しかし鍵は外側でかけられている。


『みなさん、気がついたようですね』


「おい! ここはどこなんだ!」

「早く家に帰して!」

「めしはまだかのぅ」


どこからか聞こえてきた声へ、

柵に囚われていた人たちは声をあげる。


『ここから出るか出られないかはあなた達しだいです』


「どういうことだよ!!」


『それぞれ、ひとりにつき1回だけ脱出チャンスをあげます。

 脱出チャンスでは私に対して、ひとこと話すことができます』


脱出チャンス、という甘美な響きに三人の目に光が宿る。


『私に対して発言し、

 それが真実なら扉の鍵を開けましょう。

 それが嘘なら電気柵の電気を一時的に切りましょう』


電気柵を見上げるが、あまりに高くて乗り越えるには時間がかかる。

もしも昇っている最中に電流が戻ったらひとたまりもない。


囚われている3人のうち、女がひとり進み出た。


「お、おい! やる気か!?」


「当然よ。何を迷うことがあるの?

 どうせこの脱出チャンスでしか出られないのよ」


女は扉の前へと進み出る。


『それでは発言を1回だけどうぞ』


アナウンスに対して女は答えた。



「私は人間です」



誰が見ても明らかだった。

ガチャン、と扉の外側で鍵が外れる音が聞こえた。


「ほらね。簡単じゃない。それじゃお先」


女は残った二人に目配せしながら扉を押した。

ギィと扉がわずかに開いた瞬間。


「ぎゃあああーーーー!!」


女はまっ黒焦げになって死んでしまった。

扉がしまると、再び鍵が閉まってしまう。


「扉開いたのにのぅ……」

「このフェンスの電流って、扉にも通電してるのかよ!!」


残された二人はふっかけられていた無理難題を理解した。


「もし、嘘をついたらどうなるんじゃ?」


「バカじじい。少しは考えろ。電気が止まるだけだ。

 電気が止まっても、扉が閉まってたらそもそも出れないだろ」


「フェンスを越えるのは、体力的に無理じゃのう……」


悩んでいると、残された二人のうち男が立ち上がった。


「それじゃ、次は俺が行くぜ」


「お、おいっ。無理じゃ。

 真実を言っても、嘘を言っても出れないんじゃぞ?」


「ふっ、その程度の考えしか出来ないなら脱出は無理だろうな」


男はなにか策があるようにしたり顔で扉に近づく。

どこからかアナウンスが聞こえた。


『それでは発言を1回だけどうぞ』


「その前に聞かせてくれ。

 同じ発言を使うことはできるのか?」


『できません。前の人と同じことを発言するのは時間の無駄です』


男は残された最後のひとりに振り返った。


「だってさ、じいさん。

 かわいそうだが俺が脱出しても、俺と同じ発言は使えない。

 自分の頭で考えるしかないってわけさ」


「お前さん、まさか……」


「そうさ。真実であり嘘であることを見つけたんだよ」


男は扉へ振り返って自信満々に答えた。



「俺は嘘をついている!」



男の声は広く響いた。


「どうだい? 真実であり嘘でもある。

 こういうのが賢いやりかたってやつさ」


男は扉に触れた。


「あびゃびゃびゃびゃびゃ!!!」


体中に流れた高圧電流で男は感電死した。

扉も鍵がかかったままだった。


まもなく、残された最後の1人にアナウンスが聞こえた。


『こちらで真実か嘘かどうか決められない場合、

 扉も開けませんし、電流も止めないのであしからず』


「まじかぃ」


『残されたのはあなただけとなりました。

 よく考えて最後の一言を発言してください』


「よっこらせっと」


おじいちゃんはのっそり立ち上がって扉へと向かう。


『覚悟を決めたんですね』


「どのみち、老い先短い人生じゃからのぅ」


審判の扉の前に立つと声が聞こえた。


『それでは発言を1回だけどうぞ』


「そうじゃのぅ……」


最後のおじいちゃんは白いあごひげをなでつけながら考えた。

ぽん、と手を叩いて答えた。



「電流は流れていない」



おじいちゃんは電気柵を指差していた。

影の男は一瞬だけ頭が真っ白になった。


しかしすぐに論理的な思考をめぐらせた。


なにせ電流を切るかどうかの主導権はこちらにある。

その気になれば、じいさんの発言を嘘にも真実にもできてしまう。


『電流を流さないことにしようか。

 となると、じいさんの発言は真実になるな。

 真実を話したから、鍵を開けなくてはならない。ん?』


影の男は電流スイッチに伸びた手を慌てて引っ込める。


『あっぶねぇ! 危うく電流を切ったうえ、

 真実として扉の鍵を開けるところだった!

 こっちのパターンはダメだな!』


影の男はおじいちゃんの言葉を嘘ということにした。


『決めたぞ。お前はさっき電流は流れてないと言ったな。

 しかしそれは嘘だ。電流は流れている!』


「そうですか。嘘をついたらどうなるんですか?」


『ハハハ。もう忘れたのか!

 嘘をついたら電気柵の電流を切る約束だ!!』


「ということは、今電流は切っているんですか」


『当然だ。バカにするな』


「はて。私は最初に"電流は流れていない"と言いましたね。

 電流が流れていないなら、真実を話したことになりますね」


『たしかに』


「真実を話すとどうなるんですか」


『何度も聞くんじゃない。真実を話せば扉の鍵が開く!!』


「そうですか」



おじいちゃんは鍵の開いた扉に手をかけると

電流が切れたその場所を去った。

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