たまゆらの露も涙もとどまらず

水;雨

たまゆらの露も涙もとどまらず亡き人恋ふる宿の秋風(新古今 哀傷 藤原定家)

 見知らぬ森にひっそりたたずむ苔むした廃墟


 ここでは少しずつ、ゆるやかに何もかもが衰えゆく


 くぐもった太陽光のもとで私は永遠とも感じられる時間を過ごす


 ここはAIによっていさせられるコラプス(廃墟)VRのなか、私は愛する年老いた廃墟マニアのひとり


 末期の症状だった彼女を支えたのは、崩れゆく廃墟だった。失いつつあるそこを彼女ーーー藤森あいは愛した。コラプスVRが持ち上がった時、モデルAIに真っ先に手をあげたのは彼女。彼女は神ではなく、ただの機能となることをなにより選んだ。彼女に意思はない。エージェントAIになった彼女は、ただタスクをこなすためだけに能力を行使する。彼女のその性格だけが抜き取られたのだ。


 ここにあるのはあいであり愛でありAIだ。


 私は彼女を愛している。


 さやさやと微風のみがさらってゆく


 ただ過ぎゆくあるときを


 ここにいつもの花束を置いてゆこう。


 なくなりつつあるこの世界でほかはなにもいらないーーー

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たまゆらの露も涙もとどまらず 水;雨 @Zyxt

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