エピローグ
都内某施設内。
男がノックをして入ってくると、書類に目を通していたその部屋の主がマホガニー材の瀟洒なデスクから視線を上げた。男はデスクの前に立ったまま後ろで手を組み胸を張って話し出した。
「A1の回収及び、警察対応は完了しています。すべてあちら側の責任で行われており、我々の関与は一切露呈していません」
「情報提供の一件、進捗状況は?」
「検体の鑑識報告によると、やはりB2及びモーツアルトの関与が濃厚です。このまま協力者の派遣も滞りなく……」
「裁判もなしに刑務所島送りにしただろ? どこが滞りがないだ!」
「第一に時間が最優先と認識し判断しました。今年中に派遣するにはそうするしかなかったのです。次に、地方裁判所では不確定要素が多すぎます。無罪や家庭裁判所への差し戻しになったら目も当てられません。あちらも了承していますし、あちらの法務省が承認しているのは事実です」
「法律違反なのに?」
「超法規的措置だと言ってますから、それに彼も取引内容に納得してますし」
「彼は良くてもサリエリの協力が取り付けられてないんじゃ無かったのかね? 例の腕なしじゃ役に立たんだろ?」
「ですから、以前から申しているように情報を見せれば……」
「それはダメだ! 情報を渡すくらいなら島自体を跡形もなく爆破してしまった方がマシだ!」
「そんなことをすれば我々の責任問題に……」
「分かってる……冗談だよ。しかし、どうしたものか」
「ある程度、限定された情報だけなら……」
「モーツアルトの事は絶対日本側には知られてはダメだ!」
「もちろんです! ですから、彼らの言う実験体の生き残りということにすれば……どうでしょう? 資料を限定すれば信じ込ませることは可能かと。付随して最小限の事実を含ませれば」
「それで上手くいくかね?」
「あちらもなんとかせざる負えないでしょう。何といっても、これは向こうの国内問題なんですから」
「そうだったな。最終的に困るのは我々じゃない。彼らだ! ……しかし、モーツアルトの事は」
「わかっています。モーツアルトに繋がる情報は一切省いて」
部屋の主は椅子に深々と腰を落ち着け、うなずいた。向かいの男は破顔一笑、踵を返しすぐさま足早に建物から出ていった。
マグネティックマン 改訂版 めがねびより @meganebiyori
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