八、エピローグ

 長内が帰国したら直之に会わせてやろう。直之の顔を初めて見た時の自分のように、長内も絶句するに違いない。本木直之は二十年前の杉靖夫と瓜二つだ。直之を目の前にした長内の表情を想像し良介は声をあげて笑った。

 その独り笑いを通行人に見られなかったかと、良介は窓に目をやった。

 道路の向こう側にある洛堂の駐車場に、今、黄色いクーペが停まった。

 運転席と助手席のドアが同時に開き、髯を蓄えた中年の男と彼の妻らしき女が、共に降り立った。女は、鮮やかな彩りの布を見慣れないスタイルで頭に巻いている。

 男は辺りを感慨深かんがいぶかげに見回みまわしていたが、やがて洛堂の窓辺に立つ良介に気付き、「親爺さん」と大声をあげ、手を振った。女は頭の布をとると、はやしあやに似た顔に笑みを浮かべた。

「突然の帰国か。杉さんらしい」

 田良介は驚きと懐かしさを表情に留めたまま窓辺を離れ、二人を迎えるために洛堂の入り口へと急いだ。

                                 了

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まつりび Mondyon Nohant 紋屋ノアン @mtake

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