多ジャンルの共存。多世界への橋渡し。

 設定や世界観が所謂ぶっ飛んでいるSFを私は個人的にぶっ飛びSFと呼んでいる。大抵そういった作品はコメディやギャグと言った路線を走ることが多いがこの青春ディストピアJAPANはその垣根を大きく超えてくる。

 男女が東日本と西日本で隔離された世界。
 もうこの設定だけで、「なんだよこれwww」と笑いがこみあげてくるような設定であるが、この世界観の作り込みが素晴らしい。
 トイレの標識や、女性がいない故に性同一性障害に気付けない少年。まるで本当に筆者が、今の日本からこの作品の日本へ転移して戻ってきてから、書いた小説なのではと思うほどに、世界観が作り込まれている。
 もちろんSF過激派からすれば否定的な意見が出るかもしれないが、そういう者たちはネット小説のSFほとんどに苦言を呈するだろう。
 しかし娯楽小説としてネット小説を楽しんでいる身とすれば、この作品は十分に面白いSF作品だ。

 またコメディ世界の脱出ではなく、しっかりとSFの理論に基づき、そこにファンタジーを絡め合わせることで脱出を模索する描写はとても好意的で読みやすい。

 SF、青春、恋愛、ディストピア、パラレルワールド。
 これはこの作品につけられているタグであるが、これほどまでにタグ通りの世界観を展開する作品は寧ろ少数派かもしれない。
 タグ詐欺なんて言葉が存在する現在、SFとしても、青春としても、恋愛としても、ディストピアとしても、パラレルワールドとしても読むことの出来る、この作品はこれらジャンルの橋渡しになる作品かもしれない。

 全てがメインジャンルとなってもおかしくないタグの中で、器用貧乏になっていないのが素晴らしい。

 このタグどれかに興味がある人は是非、この作品を読んでみてほしい。
 今迄に興味がなかった作品に、手を出してみようと思う切っ掛けになるかもしれない。

 完結おめでとうございます。

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