予想外な答え

『レイス鍛冶屋』を見つけた私は、そのドアをゆっくりと開け、

「すいません。誰かいらっしゃいますか?」

と声をかけた。



中は、多くの剣や刃物が丁寧に置かれていた。

すると、奥の方から

「いらっしゃい。」

と、酷く無愛想な声が聞こえてきた。多分、レイスさん本人だろう。

ここからが勝負。声が聞こえた瞬間、緊張感が生まれ、私は自分の中のスイッチを入れた。

「何が欲しい?」

またもや、無愛想に聞いてきたレイスさんに

「申し訳ないんですが、客じゃありません。」

そう言葉を投げかけた。

レイスさんは不機嫌そうに顔を顰めると、

「じゃあ、何のようだ。」

刺すような視線で私を見た。

「私は貴方に剣術を請うためにここに来ました。」

ここで諦めるわけにはいかない。

私はその視線に怯まず答えた。

レイスさんは全く表情を変えずに、

「何を言っているか分からないな。ここは鍛冶屋だ。」

鋭く答えた。警戒心が垣間見える。

これじゃラチがあかない。このままじゃ、レイスさんは首を縦にふってくれないだろう。そう思った私は



「でも、貴方の剣術は素晴らしいはずです。

元第一騎士団団長、レイス・フォードさん。」

にっこり微笑みながらそう言った。

これは賭けだ。私がこの情報を知っている事にどう反応するかによって結果が違ってくる。

出ていけと言われるかもしれない。

でも、可能性があるなら私はそれにすがるしかない。

レイスさんは驚いた様子でこちらを見ていたが、

「わしの居場所を知る者はほぼいない。何故、お前が知っている?」

すぐに質問を返してきた。

「それは秘密です。情報源を伝えるつもりはありません。ですが、私は本気で騎士になりたいと思っています。強い人から習おうと思うのは当然だと思いますが。」

私はしれっとそう言った。

まあ、情報源が前世の記憶です!なんて言えないしね。

「無理に聞こうとは思わん。それにお前の考えは妥当だ。だが、何故お前は騎士になりたい?その理由は何だ?」

レイスさんはさらに質問をしてきた。

予想外の質問に少し狼狽えてしまった。

でも、自然と言葉は出てきた。

「私は、自由に生きたい。決められた人生なんて歩きたくないし生きたくもない。だから、強くなって自分で決める。私の人生は私のものだから。」

言葉に出して私は初めて自分の気持ちに気づいた。

勿論、乙女ゲーム通りに動きたくもないっていう気持ちもある。

でも、こんなふうに思うのは前世が関係しているのかもしれない。

初めから決められた道を歩いて、唯一乙女ゲームだけが心の安らぐ場所だった時を不意に思い出してしまった。



レイスさんはしばらく黙っていたけど、

「お前の気持ちは分かった。だが、最後に質問させてくれ。答えようによってはお前に剣術を教えてやる。」

唐突にそう言った。

私はハッと顔を上げ、

「本当ですか!?」

と聞いた。

「まだ、教えるとは言ってない。」

渋い顔でレイスさんは私の言葉を遮った。

そして、

「お前はこの店で一番良い剣はどれだと思う?」

と聞かれた。

私はハッとした。なぜなら、この質問はゲーム内でヒロインがされていた質問だからだ。つまり、私は正解を知っている。

でも、それでいいのかな。私は迷った。ヒロインの答えは私の答えじゃない。同じ事を言ったら、それこそ決まった事を言う事になってしまう。

私は考えた結果、

「分からない。」

そう答えた。

ヒロインはレイスさんが現役時代に使っていた剣を答えていたけど、私はそうは思わない。

私の答えに

「そうか。」

レイスさんは少し落胆したように目を逸らした。

期待していた答えがあったんだろう。それこそゲーム内のヒロインが言った事を。

それでも私は言葉を続けた。

「だって、一番良い剣なんて人それぞれだもの。」

そう言うと、レイスさんは目を見開いた。

「人によって扱いやすい剣が違うのにどうして良い剣なんて決められるの?私には絶対分からない。」

そう言い切った。もし、これで違うと言われても後悔はない気がした。

これが私の答えなんだから。

そんな私に、レイスさんは少しだけ笑みを浮かべて

「やられた。そう来るとは思わなかった。」

と呟いた。

そして、

「毎朝、午前7時。この時間を守るなら教えてやろう。」

と言った。

私は嬉しさのあまり笑みが止まらなかった。

「ありがとうございます!!」

大きな声でそう言いながら頭を下げた。

これによって、確かに未来を変えれる気がする。

最初は容姿を変えただけ。でも、今はもっと大きな一歩を踏み出せた気がするのだ。

「ところでお前、名前は?」

レイスさんは思い出したようにそう聞いた。

私は少しどう答えるか躊躇して、

「…セリス。私の名前はセリスです!」

はっきりと答えた。

セリスティアではなく、セリスと名乗った。

師匠となる、レイスさんには本名を名乗るべきなんだろう。

でも、私はセリスティアを名乗る気はなかった。



セリスとして生きてく事を決めたから。侯爵令嬢ではなく、ただのセリスとして生きる事を。

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