怒りと焦り

私が侯爵家に来てから2年が経った。

ホントに時の流れは速いわー。

いや、そんな悠長な事は言ってられない。だって、私はまだ容姿しか変えられていないのだ。2年も経ってそれかよ!って感じだけど、変えようがない。

だって、まだヒロインいないから話は展開しないし、結構退屈な日々を過ごしていた。



そんなある日、侯爵から本館まで来るようにと呼び出された。今まで音沙汰無しだったのに何の風の吹き回しなのか。

そう思いながらも、本館へと入った。

さっさと用事を済ませようと急ぎめに執務室へと向かっていると、

「セリスティア!!」

急に威圧的な声で呼ばれた。

振り向くと、マリアンヌが腰に手を当て偉そうな態度でこちらに近づいて来た。

ここ2年の間にもマリアンヌは直々、別館に足を運んでは私に嫌味を言ったり、嫌がらせをしてきていた。

私はうんざりしながらも、

「ど、どうかされましたか?」

と聞いた。すると、

「あんたみたいな小汚いのがここにいると、私の品格まで下がってしまうじゃない。身の程知らずにも程があるわ!」

低レベルな嫌味を言ってきた。

いや、お前の品格なんて元々ないだろうと思いながらも、

「も、申し訳ありません。侯爵様に呼ばれたもので…。」

と、答えた。

一応、マリアンヌも可哀想な子ではある。マリアンヌの母親は贅沢三昧で子を構わないし、侯爵は愛人の元へ頻繁に通っているため、愛されたことがないのだ。

それを言うと、セリスティアもだけど私は前世の記憶があるから全く問題無い。

「まあ!私に口答えをするの!?本当に忌々しい。

流石、娼婦の子ね。」

前言撤回。こいつの性格の悪さは筋金入りだ。

「申し訳ありません!」

私は面倒臭くなって、マリアンヌに一礼してからそそくさとその場を立ち去った。



執務室の前まで来た。私はノックをして返事を待っていると、

「入れ。」

淡々とした口調の声が聞こえてきたので、

「失礼します…。」

私は緊張した様子で執務室へと足を踏み入れた。

侯爵は私の方を見向きもせず書類を見ていた。

まあ、ゲームでもセリスティアには全く興味なさげだったから、驚かないけど。

侯爵は書類を見ながら、

「2年間様子を見ていたが、お前に使用人をつける意味を感じない。よって、今日からお前は自分のことは自分でしろ。以上だ。」

と、感情の感じられない声で淡々と言った。

私は一瞬、固まったけれど、次の瞬間怒りが込み上げてきた。

いやいやいや!!様子なんて見てなかったでしょ!

全く興味なかったくせに何を言ってるの!!

どうせ、侯爵の正妻さんがお金使いまくったから、

人件費削減のためでしょ!?

まだ、本当の事言った方が信じるわ!!

心の中ですごい悪態をつきながらも、

「わ、分かりました。」

私は物分かりがいいような返事をした。

侯爵はその返事を当たり前と思ったようで、私が返事をすると、

「出て行け。」

そう呟いた。

怒りを必死に隠して私は執務室を出た。

そんなにお金使われてるなら、牽制すればいいのに。自分は浮気してるからそれができないんだろう。

その分が私に回ってくるなんて本当に納得できない。自分の不始末は自分で責任を取るべきでしょ。

私はイライラしながらも別館へと戻った。



私が机にずっと突っ伏していると、

「あの、お嬢様。」

ユラが心配そうに声をかけてきた。

その様子に私は頭が冷やされ、

「どうしたの?」

と尋ねた。

「今日付で私は調理場の方へ移動になったので…。

お嬢様は大丈夫かと…。」

ユラは本気で私の事を心配してくれていた。

「だ、大丈夫よ。だから、ユラは安心して調理場へ行って欲しいの。」

私が穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、

ユラは幾分か安心したような表情になった。

「ありがとうございます。これからはお食事を届けに行けませんが…。取りに来ていただければお時間は取らせないと約束いたします。それに、特盛りにしますから!!」

ユラは気遣うような言葉を残しながら、一礼をして別館を出て行った。

そして、私は本格的に1人となったのだ。

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