閃きからの行動

私はあれから自分で食事を取りに行くようになった。でも、まさか本当に特盛りとは…。

ユラが意気揚々と私に渡してきた時はもう少しで吹き出すところだった。

こんな量、騎士でもやっていないと食べきれるわけないのに。



そこまで考えたところで私はん?と思った。

何か一瞬いい案を思いついた気がしたからだ。

騎士。

何やら、そのワードに引っかかった。

そして、閃いた。

そうよ。そうよ!騎士になればいいのよ!

騎士なら、身分を隠したままでもなれるし、実力制だから貴族に命令されることもない!一石二鳥じゃない!!

私ってば天才!?

いい案を思いついたと思い、私が調子に乗っていると、ふと気づいた。

私に騎士になれる実力があるわけないじゃんと。

膨れ上がっていた期待は見事に萎んでいった。

別にやる気がなくなったわけじゃない。むしろ、教えてくれる人がいれば全力で学びたい。

でも!!いない。教えてくれる人などいるわけがない。

そもそも、セリスティアは大人しくて引っ込み思案という設定なのだ。

そんな私に剣術を教えてくれる知り合いなどいるはずもない。

ただ、ここで諦めるなど前世の私が廃る!!

そう思った私は本館にある使用人が住む用の場所へと向かった。



確か、今日は休みのはずだ。つまり、部屋で寝ている可能性が高い。私はある人の部屋を訪ねた。

コンコン

部屋の前で大きめのノックをした。

しばらく、なんの音もしなかったけど

ガチャッ

急にドアが開いた。

そして、その部屋の主が顔を出して

「何か用ですか。セリスティアお嬢様。」

少し面倒臭そうに言った。

「勿論。用があるから来たに決まってるじゃない。

という事で、お邪魔するわよ。フィン。」

私はにっこり笑顔で答えながら強引に中へと入った。

フィンは私の素を知る唯一の人だ。なんで知られたかというと、部屋から庭に出てぶつぶつと独り言を言っているのを聞かれてしまったから。

最初は焦ったけど、利用しない手はないと思い、今回訪ねてきたのだ。

「それで、何の用です?」

フィンは寝起きの髪をくしゃっと撫でながら聞いてきた。

「単刀直入に聞くんだけど、剣術教えてくれる人に心当たりない?」

私は本当に直球に聞いた。

フィンは一瞬ポカンとしていたけど、

「何するつもりですか。嫌な予感しかしないんですけど。」

すぐに呆れた表情で聞き返してきた。

「だーかーらー、騎士になりたいから剣術教えてくれる人紹介してって言ってるんじゃない。」

私が言うと、

「いや、絶対言ってませんでしたよ。今ので何をしたいのかは理解しましたけど。」

フィンは本当に人の言葉尻を掴んでくる。

「別に理解しなくていいから、返答を求めるわ。」

私はほぼ無視して問いかけると、

「知り合いではないですけど、俺の生まれ育った村に凄い腕利きの元騎士がいましたよ。」

思い出したようにフィンは言った。

「その村はどこ!?」

私はすぐ様聞き返した。

「王都抜けてすぐのモリアっていう村です。」

それを聞いて、私は確信した。フィンはレイスさんのことを言っているのだと。

レイスさんは元第一騎士団団長で今は鍛冶屋をやっている。本当ならもっと上の位についてるべきなんだけど、貴族嫌いのレイスさんは団長引退後にすぐ、姿を消したのだ。

何で私がそんな事を知っているのかというと、王太子ルートのヒロインがレイスさんに護身術を習っていたからだ。

私は王太子ルートのヒロインが護身術を習っているところまでやっていた。

何でもっとはやく思い出さなかったんだろう。

私が一人で表情を目まぐるしく変えていると、

「お嬢様、じっくりと考えに浸るのはいいんですけど、自分の部屋でやってくれません?」

フィンは迷惑そうな顔を隠す事なくそう言った。

私はそれに対して全く反応せず、

「ええ!ごめん。ありがとう!助かったわ!!」

そう言ってフィンの部屋を飛び出した。



だから、フィンが面白そうに笑っているのに私は気づかなかった。



私は部屋に戻ると早速村へ行く支度をした。

街とかに一人で出るためにリメイクしておいた平服を着て、髪をポニーテールに。

ものの数分で支度を終え、私は別館から外へ出た。

そういえば、私は侯爵邸に来てから一度も外に出ていない。つまり、記憶が戻ってからは街を歩いた事がない。

そんな私が興奮しないはずがなかった。

別館の中庭の奥に壊れかかった柵がある。

そこから、私は外へ出た。

王都は活気に溢れていた。どこもかしこも豪華に装飾された店がズラリと並んでいた。

まあ高級店ばかりだからか、貴族らしき姿しか見えない。

私の今の服装は完全に平民だから、逆に目立ってしまっていたようで、チラチラとこちらを見る視線が妙に気持ち悪かった。

それでも、私は目的を果たすために少し急ぎながら王都を歩き続けた。



歩き続け、かなり疲れてきたところで王都の終わりが見えてきた。

っていうか、広すぎでしょ!!一般的な12歳ならとっくの昔にへばってるわ!

そう思いながら、私は王都を抜けた。



豪華な街から一転、平素な村が現れた。でも、結構賑わっていて人が沢山いた。

市場では笑いながら買い物をしている人が沢山いて、何だか少し和んでしまった。



賑わっていた市場を通り抜けていくと、前世で言う住宅街のような場所まで来た。

確か、ここらへんにあったはずだ。

そう思いながら進んで行くと、家々の一番奥にひっそりと建物が建っていた。

見つけた。

ここが『レイス鍛冶屋』だ。

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