第2話 色々あった新生活初日
「ところで、進藤さんはおいくつなんですか?」
「僕は、15歳。来月から高校1年生」
「えっ。そうなんですね! 私と同じです!!」
「そうなんだ……。それなら同じ学年なら敬語はやめるね」
彼女──夏目は「はい。じゃあ私も進藤君っていいます」と同意した。
笑顔になってくれてからすこし話せるくらいの雰囲気になってきた。
「じゃあ、僕は夏目って呼ぶね。……でも高校入学するのに上京するなんて珍しいね」
「うん……。実は東京のほうが仕事がしやすいよって言われたので上京することにして……」
「仕事?」
「……私、『漫画家』なの」
「……えっ。漫画家?」
僕が聞き返すと、途中で「お客様。申し訳ありませんが、店内混雑しておりますので……」と店員さんが会話に割って入ってきた。
店外を見ると並んで待っている人がいた。
なんだかんだで僕も夏目もすでに食事を終えており、そのまま話に夢中になっていた。
「すみません」とせっせと席を空け、会計を済ませた。
会計の途中夏目が「自分の分は払います」と言ってくれた。
だけど先ほどのアパートとでの件で、奢ると言った手前後戻りできなかったので僕がまとめて会計をした。
ちくしょう。野口さん二枚消えたよ……。
そのあと店を出て家までの道中。
といっても歩いて30秒くらいでたどり着く距離なので、ほぼ会話メインで歩いた。
「さっきの話の続きだけど夏目って漫画家なの?」
「今年の4月から。月刊誌で連載予定で」
「へぇ……すごいね」
「ありがとう。子供のころから漫画家になるのが夢で、ずっと頑張ってきたんだ。それが叶って、ほんとうにうれしくて」
夏目は本当にうれしそうに「えへへ」と顔がふやけながら自慢した。
それを黙って僕は聞いていた。
「だから本当は今日、出版社で担当さんと顔合せの用事で神保町に行こうとしたの」
「え!? でも今日神保町で迷ったって言ってなかったけ?」
夏目は先ほどのふやけた顔を僕からそむけた。
「携帯使えなかったってことは連絡もしてないんでしょ」
「う゛っ……」
夏目は体をビクッとさせた後背中を丸め、ぶるっと震わした。
僕は、「あぁ。またやってしまったと」と気づいた。
どうやら夏目は自分の失敗について耐性がないのか、尋ねられただけでも責められているのだと思っているようですごく落ち込んでいる。
「はぁ……。担当さんの連絡先は覚えている?」
そう言って自分のスマホを差し出す。
夏目は手に持っていたポーチから名刺の一枚を取り出した。
「連絡先は知ってる。……ごめんなさい。お借りします」
夏目はスマホを手に取ってぺこりとお辞儀した。
────そしてスマホを持ったまま固まった。
「……どうやれば電話できるの?」
「あぁ……ちょっと貸して」
人のスマホでも通話くらいならできるだろうと思ったが、夏目は操作方法がわからないみたいだった。
そう言って自分のスマホを奪って、番号を聞いて打ち込む。
そして『発信』ボタンをタップして夏目に手渡す。
スマホからは「はい」と声が聞こえた。
「あっ。えと……夜分に失礼します。
さすがに担当さんとの会話を聞くのは申し訳ないと思って夏目からすこし距離をとった。
(でも。夏目は高校生で漫画家で上京してきたのか……。)
僕は、福島から漫画をかくために東京にやってきた同い年の女の子のことを思ってふと春の夜空を見た。
それから10分ほどが経過して夏目が「ありがとう」と言ってスマホを返却しに来た。
「担当さん。何だって?」
「明日の昼にご飯食べながら顔合わせしようって言ってくれた」
「大丈夫そう?」
「……うん」
「じゃあ帰るか」
そんな会話をして二人でアパートへの階段を上った。
階段を上がって奥が僕の部屋だ。
「──あっ。あの」部屋に戻ろうとした僕に夏目が引き留めてきた。
「ん?どうしたの?」
「本当に色々すみませんでした。そして本当にありがとうございました」
「いいよ別に。明日はちゃんと行ける?」
「だ、大丈夫だと思います……」
僕は、不安そうな返事を聞いて「明日一緒について行こうか?」と提案しようとしたが、口をつぐんだ。
夏目が頼まれたら考えたが、こちらからいうことでもないなと思った。
晩飯のことやスマホをかしたことは突発的に起こったため仕方がなかった。
一応「相談にのる」とは言ったもののこちらから提案するほど仲が良いとは思っていない。
(夏目自身も社交辞令と捉えているのかもしれないし。それに…。)
先ほどの夏目の漫画家が叶ったというあのふやけた顔を見てなんだか心が冷めてしまった。
──── どうせ。夢なんて才能あるやつにしか叶わないんだ。
「……まぁ。せいぜい今日みたいに迷子にならず担当さんと会えることを心から願っているよ」
提案することをやめてからかうように皮肉ったらしく言った。
「~~っ!。今度こそちゃんと行けますからぁっ!!」
夏目は怒って自分の家に入っていった。
そしてすぐに「ダンッ!!」と強く扉を閉める音が響いた。。
「…………僕ってやつはほんと、最低だな」
そう独り言をつぶやいて僕も、自分の家に入ったのだった。
部屋に入ってすぐシャワーを浴びた。
風呂にあがってすぐ、テレビをつける。そしてベットに腰掛けスマホを手に取った。
『通話終了 21:20』という画面からTwitterを開いてタイムラインを漁る。
(今日は散々の日だったな……。)
新しい家での生活をスタートした今日。
一人の女の子に振り回された。
しかもその女の子は隣の部屋の住人だった。
さらに夏目は同い年で、漫画家という。
夏目は自身の夢を叶えそれを続けるために上京してきた。
僕は夏目のことと自分の昔のことを重ねて────そしてやめた。
これを考えるのはやめよう。ただ別れ際夏目には悪いことしたな……。
日が昇り、ピンポーンとインターホンがなった。
それがアラーム代わりとなって目が覚めた。
昨日色々考えて、罪悪感を抱いたまま寝たんだっけ。
僕は一回伸びをしてベッドから降りる。
(誰だろう?)
ドアスコープでインターホンを押した主の姿をみると。 夏目栞がいた。
✑✑✑
「~~~~~~!!!!!!」
私は入居初日新しいベッドの上でうつ伏せにして、悶えていた。
私って、ほんと酷い。
今日会ったばっかりの人しかも色々失礼なことしてしまった。
それなのに彼──進藤君は助けてくれた。
それなのに少し嫌味を言われた程度ですぐに怒って……。
というか私、今日会ったばかりの男の人に号泣してしまった。
~~~~恥ずかしい!!!!
それに怒って別れる前にちゃんと待ち合わせ場所に行けるかと聞かれ、またもむかっとしたのだ。
だから強がって大丈夫と答えて、売り言葉に買い言葉でいった感じだ。
今日だけで進藤君は、厭味ったらしい口調をすることもあったけど何度も助けてくれている。
相談に乗ってくれると言ってくれた。
社交辞令かもしれないけど、今日の神保町のことと照らし合わせると進藤君は私にとって救いになっている。
「はぁ~~~~~~。なんで私、こんなことしてるんだろう。もう少し素直に頼ろうかな……」
今日の長い一日に振り返って、色々頭の中を整理させて……疲れたのかそのまま寝てしまった。
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