第34話 自慢

翌朝、ビンスを埋め黙祷しフォルトに向けて出発した。

ハルは黙祷している時にアリアの「いい奴だった…本当に」と言う言葉が強く耳に残った。


2週間弱、龍山の麓が見えた頃、遠目に誰か戦っているのが見える、1人だ。

フォルトに近い場所の龍山に入る者は見当がつかなかったので駆け寄る事はないが、変らぬペースで近付いた。

戦っている者の顔が認識出来る程近づいた時にハルが駆け出した、アリアとソフィも知り合いか?と思いながら後を追う。

3人が戦っていた者の元に着いた時には戦いは終わっており、ハルが初めて倒した竜種と同じ形のものが動かず倒れていた。


「ニール!」

「ハルか!?」

ハルの呼ぶ声にニールが驚く。

戦っていたのは無精髭を生やしたニール、装備の見た目と纏う雰囲気が変わっている。


「変わってないね!」

「変わってるだろ!?色々!」

「なんか…強くなった?」

「あぁ!今ならハルの足手纏いにはならねぇ」

「足手纏いなんて思ったこと無いよ」

アリアがバツの悪そうな顔をしている。


「それよりも1年以上どこに行ってたんだ?」

「王都に行ってたんだ、龍山を通りながら」

「なるほどな、あの目の回る装備から変わってる」

「そんな変だったかな…」

「ハハハッ、フォルトに向かってるんだろ?」

「うん」

「じゃ、一緒に行こう」

3人にニールが加わりフォルトへ向かった。

ハルとニールが話しているところにアリアがニールに問いかける。


「もう1人の仲間はどうした?」

「ロキか?ロキは冒険者やめて、ギルドで働いてるよ」

「そうか、1人で龍山に入っているのか?」

「あぁ、麓までだけどな」

「そうか…」

ニールはハルとの会話に戻る。


「アリア、彼は頑張ったんじゃない?とても」

ソフィの言葉に少し間を置いてアリアが答える。


「あぁ」

その言葉にソフィは小さく笑みを浮かべ、アリアは無表情だが刺々しい雰囲気は全くなかった。


フォルトに着いた4人はギルドに向かう。

ギルドに入ると少しの騒めきが起こりる。


「ハル!どこ行ってたんだ!?」

ロキが驚き喜び半々の表情で駆け寄ってくる。


「久しぶりロキ!」

「居なくなっちまったから心配したぞ、ウォールさんは王都に行ったんじゃないかって言ってたけど…」

「うん、王都に行ってたんだ」

「装備が上等になってる、あの目の回る装備は卒業したんだな」

「…やっぱり変だったんだ」

アリアがハルに言う。


「あたし達はウォールの所にいる」

ハルが頷くとギルド長室に歩いて行く。


「ニールと一緒って事は龍山で会ったのか?」

「そうだよ、ニール強くなってた」

「あぁ、ハルがいなくなってから、ニールは頭おかしくなる程鍛えてたからな」

「おかしくなんてなってねぇよ!」

ニールが憤慨している。


「俺が見に行かなきゃ病院送りになる所だったじゃないか」

「あん時は…少しやり過ぎただけだ…」

「ハル、ニールはな魔力操作の訓練し過ぎて1回頭おかしくなっちまったんだ、ノイローゼってやつだ、何日も休みなく訓練し続けてたみたいでな、ギルドに顔出さないから見に行ってみたら、倒れて譫言言いながら魔力動かしてた、飯もろくに食ってなかったみたいだったから俺が管理する事にしたんだ」

「やっぱりロキが面倒見てるんだね」

「ハハハッ、そうだな、やっぱり俺が面倒見なきゃいけないみたいだ」

「うるせぇ!子供扱いするんじゃねぇよ!」

「悪い悪い、でも体ぶっ壊れるほどやるのは凄いけどそれじゃ続けられなくなるだろ?」

「…まぁな」

「その後は倒れる事はなかったが、休みは取らないわ見てないところで訓練するわで大変だったけど、ある程度計画的なスケジュールを守ってたな」

「そうなんだ、すごいねロキ」

「おれがすごいんだぞ!ハル!」

「わかってるよ、ニール」

ハルは久々のロキとニールとの会話に終始笑顔だった。


ギルド長室では深刻な顔でウォールがアリアの話を聞いていた。


「呼び出された?」

「あぁ、そう言っていた」

「不味いね…それは」

「何故呼び出されたか聞いたが返答は無かったから理由は明確には分からんがな」

「近いと思って動くよ」

「それがいいだろうな」

「規模がわからないけど近くの街に援軍の要請をする、住民の避難については役人に伝えて判断は任せるしかないかな、騎士団は前回の事があるから協力してくれればいいんだけど」

「あたし達はほぼ確定事項だと思うが、必ず来る証拠はないからな」

「本当に厄介だね…」

ウォールは難しい顔で少し思案して立ち上がりギルド長室を出る、アリア達もそれに続く。

ハルを見つけたウォールが話しかける。


「ハル君、王都は楽しかったかい?」

「はい…とても…」

ハルはビンスを思い浮かべ、表情が暗くなる。


「?…僕は今日忙しいから、風の加護の使い方は明日以降に聞きに来て」

「わかりました」

そう言ってウォールは足早にギルドを出て行った。


「今日は休みにする、だが気を抜くな」

「すぐではないと思うけどね」

アリアとソフィがハルに言葉をかけギルドを出て行く。


「これからはフォルトにいるんだろ?」

「うん、暫くは」

「またどっか…そうか、わかった、それじゃ俺は仕事に戻るよ」

ロキはカウンターの奥に走って行った。


「ニール、俺はハワードに会いに行くから」

「わかった、明日もギルドに来るんだろ?」

「うん」

「じゃあ俺も顔出すよ、じゃあな」

2人でギルドを出て別れた。


鍛治屋オリハルコン、ハルが入り口から中の様子を覗いている。


「ハルか!?入って来い!」

「ひ、久しぶり」

「久しぶりじゃねぇ!1年以上顔ださねぇで、心配しただろが!」

「ごめん、なさい」

「元気なんだな!?怪我は…なさそうだな」

「元気だよ、怪我も無い」

「どこ行ってたんだ?」

「王都だよ、この装備買ってきた」

「えらくいいもん身につけてんなと思ったら、王都でか…でもすげぇ高いだろ…それ」

「下層と龍山の素材を売ったから」

「…待て待て、ハル、銀級とはいえ、そんなとこには行けねぇだろ」

「あー、アリアとソフィっていう白銀級の2人に鍛えてもらってるんだ」

「白銀級!?なんでそんな連中がハルを!?」

「それは…ヴァンパイアの事で目的が似てたからかな」

「なるほどな…しかし、龍山とはな…ハルは後ろついて行ってただけなんだろ?」

「いや、戦ったよ俺も」

「おいおい、どうなってんだハル、いきなり銀級なったと思ったら、次は龍山に行って狩りしてるだぁ?何がどうなったらそんなことになんだよ」

「ま…魔闘術を使えるんだ、俺…」

「魔闘術?なんだそれは?」

「魔力操作で…魔纏を動かすんだ、グルグルって…」

「お前魔力操作出来んのか!?…そういう事か、そりゃすぐに銀級にもなるわな」

「加護も、風邪の加護も使う…」

「それなら冒険者として一流だな!そんな奴に教えてたって自慢できるなこりゃ、ハルもその年で魔力操作出来んなら周りに自慢してもいいぞ!俺にもな」

「えっ…俺は…」

「今使えるってこたぁここで教えてた時から使えたんだろ?言ってくれりゃ周りに自慢出来たのに、でも俺は使えねぇからアドバイスは出来ねぇか…二流いや、三流冒険者の俺でも頑張れば使えるようになれたんだよな、そしたらそんだけ稼げる冒険者に…まっ出来なかったから三流なんだが、ハル、お前は凄いな、自慢の教え子だ!」

「ありがとう…」

「ガハハッ、この店にも箔がつくぜ、暫くはフォルトにいるんだろ?」

「うん、あっハワード、避難の準備だけしておいて」

「どういう意味だ?」

「魔族が、ヴァンパイアがこの街を襲うかもしれないんだ」

「なんだと!?」

「いつかもわかんないし、絶対じゃないんだけど…」

「わかった、準備だけはしておく、お前は…ハルは戦うんだな?」

「戦う」

「…そうだよな」

「それじゃ、俺行くとこあるからまた来るね」

「おう、待ってるぞ」


ハルは店を出て、宿屋風見鶏亭に向かう。

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