第33話 手助け
赤髪のヴァンパイアは上空にいるクシャルを警戒しており距離を取る為か地上にいる、これはハル達に有利に働く。
赤髪にハルが駆ける、両手の剣を右から左に振るい其々首と胴を狙う、ハルの攻撃は防御不可と判断してか後方に飛び回避する、着地するタイミングで左右からソフィとビンスの片手剣が首と胴に迫り、正面からはハルの後ろにいたアリアが後ろに飛んだ赤髪を追い刺突を放つ、赤髪は左右の攻撃を両手で弾きアリアの刺突が首に突き刺さる。
アリアは首を跳ね飛ばそうと左右に剣を振ろうとしたが赤髪の両手が突き出していた右手を掴む、赤髪は深く刺さるのは構わず前進しアリアに組みつこうとしたが、アリアは赤髪の手を振り払い剣を捨て後方に大きく飛び退く、赤髪の左右にいたソフィとビンスの火球が近距離で挟むように直撃する。
燃え上がる火炎の中から影の蝙蝠がゆっくり飛び立ち離れた場所に全身を復元する、そこにハルの高速の矢が飛来し胸を貫いた、すぐさま傷はなくなるが、腹ただしげにハルを睨む。
魔闘術を使う4人の連携に赤髪はクシャルへの警戒も合わさって対応できない、戦況はハル達が有利だ。
4人は連携した攻撃を繰り返す、赤髪に何度も変身させ消耗させていく、しかし攻撃に偏りが出ているのに気付いていなかった。
ビンスとソフィの火球が直撃して赤髪を燃え上がらせる、炎の中から飛び立つ蝙蝠を見ながらソフィとビンスは大きく肩で息をしている。
「あとどれくらいだ?」
アリアの問いに2人は答える。
「魔法は2発、魔闘術もそれほどもたないわ」
「僕は3発だけど魔闘術はもう切れる」
それを聞いたアリアは険しい表情になる。
魔闘術と加護を十全に使いクシャルが結界を張ってくれている今の状況は有利と言っていい、だがいつもより高い集中を維持して高火力の魔法を連発すればガス欠になるのが早まるのは当然だ、2人が欠ければ遠距離の攻撃手段がほぼ無くなる。
赤髪の限界はわからない、すぐなのか、まだまだなのか…
「陣形を変える、ソフィはあたしの後ろ、ビンスはハルの後ろだ、魔闘術が切れた者を守りながら戦うのは難しい状況だ、ソフィとビンスは回避に意識を集中してくれ、魔法は各々のタイミングで使っていいが限界までは使うな」
2人が頷く。
「ハルはとにかく攻めろ、フォローはあたしがする、あたしが間に合わない時はソフィとビンスがフォローする…早く決着をつけよう」
「わかった」
赤髪のヴァンパイアはハル達の陣形が変わるのを見て小さく笑みを浮かべる。
ハルとアリアの猛攻が赤髪を襲う、ハルの連撃の隙をつき赤髪は攻撃してくるが、それをアリアが弾く、ハルが攻撃を繰り返し傷をつけていくが体を両断するに至らない、数度攻防を繰り返し、赤髪が大きく回避した瞬間ソフィとビンスの火球が飛ぶ、左右から迫る火球に逃げ場がなく直撃するが、そのタイミングはズレていた。
ハルとアリアは影の蝙蝠を追い復元した瞬間から攻撃する、2人の連携でも反撃を食らわず傷をつけることは出来る、だが回避に専念されると致命傷を与えるまで時間がかかる。
ハルの袈裟斬りに振った左右の剣が赤髪の胸に傷をつける、ハルはそのまましゃがんだ体制になり頭上をアリアの両手剣が横薙ぎに振るわれる、赤髪はこれを掴む、右手を斬り飛ばされながらも左手で受け止める、赤髪は剣を掴んだ左手が焼かれながらも引き寄せアリアの頭に蹴りを放つ、今までと違い捨て身の反撃、回避は間に合わず腕でガード、鈍い音と共にソフィの方に蹴り飛ばされる、ソフィが受け止めようと動く、ハルは赤髪との距離が近すぎる為十分に剣を振るえない、体を捻りながらスペースを生み出しアリアを蹴り飛ばした赤髪の足を斬り飛ばす、ハルの体勢は悪い、赤髪を見るとクシャルが現れてから引っ込めていた羽が広がっている、赤髪はハルへは攻撃せず片足で地を蹴りビンスのいる方へ飛んだ、ビンスは魔闘術が切れかけ動きの鈍った状態では回避できないと前面に炎の壁を作る、ハルは直ぐに体勢を戻し赤髪を追ったが赤髪は炎で出来た壁に突っ込んで行くのを見た、ビンスの目の前に焼け焦げ左手を振りかぶった赤髪が現れる、目を見開き後ろに飛ぶように回避したビンス、だが腹が大きく切り裂かれていた。
ハルは体中に風を纏い赤髪同様炎の壁に突っ込んむ、視界が開けた瞬間赤髪が目の前におりその体と首を両断した。
腹を押さえ蹲るビンスにハルが駆け寄る、押さえている腕から血が溢れ出している。
「ビンス!」
「問題…ないよ、掠っただけだから…あいつの影…蝙蝠にならなかった、う…動きも遅い…ハル、いくんだ」
「アリア!ビンスが!」
アリアとソフィが駆け寄って来ている。
「いけ!ハル!」
ビンスの叫びに驚いたが赤髪に向かうハル。
赤髪のバラバラの体は黒いモヤになり緩慢な動きで集まり復元されていく。
「あの化け物さえいなけりゃ…クソが」
赤髪の言葉は誰にも届いていないが焦燥が多分に含まれていた。
ハルが赤髪に飛びかかる、両手に握る剣を隙間なく振るい赤髪に反撃は許さないが届かない、右手の剣を左から右へ振るいそれを追うように左の剣を振るう、僅かに赤髪の胸に傷をつける、だが傷がつくこの間合いでは赤髪の攻撃も届く、左手の剣を振り抜いたところに赤髪の貫手がハルの首に迫る、しかし拳程の大きさの火球が赤髪の顔に直撃する、ソフィが枯渇間際の魔力で放ったものだ、ハルはその衝撃で一瞬動きの止まった赤髪の貫手を掻い潜り足を斬り飛ばす、そこにアリアが飛び込み片手で振るう両手剣で赤髪を肩から袈裟斬りに両断した。
ハルは赤髪のズレ落ちる上半身、崩れ落ちる下半身を切り刻む。
一瞬黒いモヤが発生したが集まらず復元される事はなかった。
「恨みは晴らせたかよ?」
赤髪のヴァンパイアが口を開く。
「あぁ」
アリアが返答する。
その間にもハルは剣を振るい赤髪の首を斬り落とす。
「そりゃ良かったな…俺はこんなとこに呼び出した奴らを恨むよ」
「呼び出された?」
アリアが聞き返すが赤髪は薄ら笑っているだけだった。
返答がないと分かると、その首だけになった赤髪の顔にアリアが剣を突き立て戦いは終わった。
上空からクシャルがハルに伝える。
「終わったな、私は行く、山に来た時は顔を出せ、ではな」
そう言って西へ飛んで行った。
動かなくなった赤髪のヴァンパイアを捨て、ビンスに駆け寄るアリアとハル。
「アリア…ビンスの傷は深いわ…」
ソフィの言葉に状況を理解するアリアとハル。
ビンスが横たわりながら喋る。
「アリア…ソフィ…君達は、あいつを、憎んで、いたんだろ?…勝てて、良かった…」
ビンスの深く傷ついた腹からは血が流れ続けている、痛みの感覚はもう無い。
「ハル…君の目的を、少しでも手伝えて…良かった、よ…」
これ以上ビンスが言葉を発する事はなかった。
3人の表情は暗い、怨敵を討った喜びや達成感は無く、ビンスを失った感情だけが表情に出ていた。
冒険者は命懸けだ、皆理解している、理解しているのだが…
この戦いで命を懸けるべきなのは自分達でありビンスでは無かった、そう3人は思っている。
しかし結果は変わらない、この結果に納得している者は1人もいない。
「ビンス…すまん…」
アリアの言葉にビンスの返事はない。
「ここで1日休む」
アリアの言葉にソフィとハルも動き出す、ビンスに布を掛け、赤髪のヴァンパイアの死体は焼き払った。
クシャルが暫くこの場に居たからか魔物の気配は全く無かった。
アリアは腕を骨折、ソフィは魔力が枯渇状態でフラフラ、その為まだ日は高いがハルが夜営の準備を1人で行う、手伝おうとした2人を首を振って断った。
この後会話は殆ど無く、静かに時が過ぎた。
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