第10話 その魔王活躍につき

「勇者……蒼真……」

その青い肌をした爽やかな顔がギュッと引き締まる。


「そうでございます……新しく誕生した勇者の名は蒼真。」

会議室が静まり返る……

時計の音が淡々と響き渡る。

「魔王様……。どうされました?」

セバスチャンが顔を下げる俺に声を掛けてくる。


「いや……何でも無い……続けてくれ……」

やっば……顔を上げれん……

いや、まぁ偶然たまたま名前が一緒っていう可能性もあるしな……


「それで……?ソイツはどんな姿だ?」

オーガが口を開く。


「14、5くらいの青年で服は旅人がよく着ている青のローブに皮のブーツ。目は赤く少し尖ったような黒髪だと聞いております。」


はいっ!ガッツリ俺でした!

やばい、早めに俺って言わなきゃ後々面倒な事になりそう……

「あ、あの……?」


魔王の言葉を遮るようにオーガが立て続けに質問をぶつける。

「んでその勇者の仲間はどんなやつだ?」


「胸のサイズがE。皮の貧相なドレスで金髪の長髪が特徴の女だと伺っております。そして[祈り人]だと。」

やばい、ルルだ……

俺がもしここで勇者でしたって言えばルルが危ないかも……

ぬわぁぁぁあ、どうしよどうしよ


あ、でも俺が勇者って説明をして利用する為に騙してるってここで言えば何とかなるんじゃないのか?

「あ、あの……?」


魔王の言葉を遮るようにサキュバスが口を開く。

「ならば見つけた瞬間に殺さなくてはいけないのう……。[祈り人]は勇者を召喚する一族じゃ。その血筋を絶ちきる為にも見つけたら即殺さなくては。それに勇者の仲間ならなおさら。」


駄目だ……言えねぇ……

俺が勇者だと言った所で直ぐにルルが見つかって殺される……

ヤバい、このままだと俺が1人一役で世界の命運を持たなければならなくなる……

どうしようマジで……


あ、そうだ!人間界に偵察に行っていた魔王の俺がルルの居場所を、全然違う所で見たって言えば当分は大丈夫じゃないのか!?

「あ、あの……?」


魔王の言葉を遮るようにセバスチャンが声を出す。

「現在、勇者一行は藁の村とつるぎの里の間の小さな鍛冶屋に潜伏中とのことです。」


やっばいッッ!何でバレてんの!?情報網凄すぎだろどーなってんだよ!!

何とか嘘をつかないとッッ!

「あ、あの……?」


魔王の言葉を遮るようにオーガが椅子から勢いよく立ち上がる。

「今から勇者共をぶっ殺してきてやるッ!」

会議の途中だが、そう叫び勢い良く飛び出していった。


ヤバいヤバいヤバいヤバい!!

っていうか何でさっきから俺の発言に被せてくんの!?魔王の発言だよ!?普通聞くでしょ発言力無さすぎ!!

と、とりあえずルルとかに言わないと!!


サキュバスが嬉しそうに口を開く。

「オーガめ……嫌いじゃが、こういった男らしい所は……好……き。」

サキュバスは涙を流していた。


他の会議の参加中の魔族の長達も声を揃えて言う。

「やっぱりリーダーはお前だ、オーガ…」

「任せたぜ……キャプテン……」

「そうゆう熱い所に惚れたんだよ……」

「一生……ついていくぜ……兄貴……」


いや……何コレ……

何で部活のキャプテンが1人で立ち向かっていくみたいな雰囲気になってるの……


ヤバいっ!!急がないと!!

魔王は立ち上がり走り出そうとする。


「どこへ行くんですか魔王様?」

セバスチャンが肩を持ち声を掛けてきた。


「ちょっとトイレっ!!急がないとっ!」


「それは失礼しました……行ってらっしゃいませ……」

走り出しすれ違った瞬間にセバスチャンが耳元で小さく小声で一言。

「くれぐれも……お仲間を殺されないように……」


その言葉を聞いた瞬間は周りがスローになったような感覚だった。


何で……セバスチャンは……

仲間って……


ぬっそんな事より急がないとっ!

走りながら前に手を出す。

「ワープッ!!」


「とうっ!」

ニコラスの鍛冶屋の真後ろにワープするとその目の前には今まさに片手を挙げ魔方陣を作り出していたオーガが魔法を使う瞬間であった。

「ち、ちょっ!オーガさんストットップ!」


「魔王様……?何故このような場所に……」

オーガが片手を下ろす。

魔方陣が消えた。


何て言おう……何て言ったら帰ってもらえるのかな……

あ、そうだ!この小説はコメディ中心だから誰かが死ぬシリアスな展開は似合わないって言えば!

いや、違うなコレは駄目だ。何か分からんが多分言っちゃいけないやつだ。


いや、もう言っちゃうしか無いか……

確かにオーガは気性が荒くて戦闘系だが、義理堅くて何よりも正々堂々を望むからな…

ってセバスチャンが言ってた

サキュバスはルルを殺す気満々だったけどオーガだったらワンちゃん……

「あ、あの……実は……」


「どうされました?魔王様。」

オーガは俺に顔を近付けてきた。


「カクカクシカジカで……」


「なるほど……それで今日の所は帰れと……」


「そうなんだよ頼む……」

魔王は手を合わせて腰を下げる。


「それは出来ません。いくら魔王様の頼みと言えども」


「飴ちゃんやるから」


「普通に帰れば怪しまれますぞ……?うーん……何か手が……」


コイツちょろいな……

「ならこういう作戦はどうよ……」


バンッ!扉を勢い良く開ける!

「皆大変だ!!外に巨大な魔物が!!」


「ッッ何だと!?」

ニコラスが驚愕する。


「お兄ちゃんッッ!魔物が来てるそうですけど、ど、どうするんですかッッ!」

普段は落ち着いているカナエが少し慌てた様子を見せる。


ニコラスが再び叫ぶ。

「貴様ッッ!どうやってトイレから抜け出した!!?」


「今そんな事言って場合じゃないでしょ!?勇者様っ!行きましょう!!」

ルルが口を開く。


その掛け声と共に全員が外に出るとそこには巨大な人形の怪物がいた。赤い肌で鬼のようなツノ、鋭い牙を光らせている。

「勇者様ッッ!あれはオーガです!しかもあのサイズはおそらく……」


カナエが震えながら声を出すも

「オ……オーガの王……」


ニコラスも叫ぶ。

「どうするんだ勇者!!」


勇者は余裕の笑みを浮かべていた。

腰に手をつき堂々と立っていた。

「俺に任せなさいッッ!」

そう言い勇者は数歩歩きオーガに近付く。


「何だ人間!!俺に勝てると思うのか!?」


数分前――

「じゃあさ俺が勇者としてお前を殴るからそれで倒れて負けたって事にすればいいんじゃないか?」


「勇者に負けて帰れば一族事魔界で笑い者にされます!それは出来ません!!」


「飴二個上げるから」


「分かりました!その作戦で行きましょう!!」


これで俺がオーガを倒した事になればルルの中でも俺はスター的な存在になるのでは?

ンフフフフフ

↑こっちが本命な魔王でした。

現在――


「おい!オーガ!この勇者の名前をその顔をとことんと刻んで……」


ニコラスとカナエ、ルルが少し離れた距離で見守っている。

「何かわめいているが大丈夫なのか……?」


「信じましょう……勇者様を……」


勇者はオーガの顔におもいっきり1発の拳をいれた!

「くらえっ!!必殺の

【超ド級勇者の希望の一撃パンチ】!!」


「ぬわぁぁぁあ、やられたぁぁあ」

その大きなオーガは勢い良く地面に倒れた。

勇者は後ろ向きに手を挙げた。

ヤバい……俺……今、かっこいい……


「たまにはやるではないか勇者!」

「クズですがやっぱり勇者は勇者なんですね!」

「流石勇者様!!」




倒れた衝撃で地面が奥底まで大きく割れ

オーガは底の見えない谷に落ちていった。

「おわっっ!!ちょっっ!!魔王様ぁぁぁぁあ!!」

その断末魔が辺りに響く。


あっ……ちょ……ヤバい……殺っちゃった……


勇者はルル達の方を振り向き苦笑いで声を出す。

「俺……勝ったよ……」


「少しはやるではないか流石は勇者だ」

「見直しましたよ」

「流石は勇者様です!!」


あっ……気持ちいい……

オーガには悪いけど……

まぁ生きてるでしょ……

勇者はルル達に向かって手を振りながら走り出す。

「おぉーい!俺!勝ったよ!!」


その瞬間さっきの衝撃で凄い音と共にニコラスとカナエの一軒家がボロボロに崩れ去った

そして、時間が止まったかのように静まり返った。













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きまぐれ魔王の勇者学 にっしー@ドラノベ現在34位 @nissinissi2

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