第6話 小野和泉の話③
「今回は前の話の続きじゃな」
立花家随一の家来だった小野和泉は柳川藩が改易され、加藤清正に仕えると丁重に扱われるようになった。
【ある時、御次(隣室?)にて近習の侍が喧嘩を仕り、討ち果たした】
「仕るなよ、仕事場で」
(無視して)【清正公は(喧嘩の)現場に行こうと座敷を立った。
ところが和泉が袖を掴んでこう諌めた。
「大将たる御身がそのような所に軽々しく出るというのはあり得ない事です」】
「あれ?この話、どこかで聞いたことがあるよ」
【「そこへ行くのはこの年寄りが先に行った後です。御手はその後に下ろされるべきでしょう。そうでなくては何のための御番衆(番を編成して宿直警固にあたる者)でしょうか?」と申し上げれば清正も赤面なされ、そのまま座敷に直ったという。
その後番衆が事態を納めた。
清正公はこの事を生涯無念に思ったのだろうか。終焉の話で「小野和泉に胸中を見抜かれ是非に及ばず」とのお言葉だった。】(以上本編終わり)
「つまり大将というのは些細な問題にも動じず部下を任せるべきだが、戦いに慣れた方でも軽挙に陥る事があるという事じゃな。そして、それを諫める近待がいるというのは誇るべき事なのじゃ」
「えー、でも一番うまく問題を解決できる人が現場に行くのが一番効率が良くない?」
「大将の身に何かあっては大変じゃ。だからこそ身辺を警護する番衆がおるのじゃ。その職にあるものをないがしろにして大将自ら現場に向かうとのは良くない事だったのじゃろう」
「じゃあ、胸中を見抜かれたっていうのは?」
「家臣より自分が行った方がうまくいく。と『胸中では部下を信用していなかった事』かもしれないのう」
「加藤さんって城作りから戦争まで何でもできるから、部下に任せるってのは苦手だったのかもしれないねー(個人の感想です)」
そこまで話していると次郎が
「あのー。それって源頼朝の話のパクリだったりする?」
「パクリ?」
「うん、初めに出た『大友記』って軍記物の最初に書いてあったんだけど」
●大友家の初代当主 大友能直(おおともよしなお)は(鎌倉幕府の将軍)源頼朝が鷹狩りに出ている時に曽我兄弟が仇の工藤祐経を討取った。(曽我兄弟の仇打ち)
このとき頼朝公は鎧をつけ出陣したが11歳の市法師が背中にとりつき「君は征夷大将軍なのだから、このような夜討ちに軽々しく動くべきではありません」と説得した。頼朝公も「もっともだ」と留まった。
その後、(頼朝は能直を)幼少なのに只者ではないと感じ、豊後豊前を与えた。
(大友記『大友由来の事』より)
「このお話とすっごく内容が似てない?」
最後のオチは違うものの、言われてみると確かに展開が同じである。
「でも、そんな話をするかなー?」
「というと?」
「小野さんって61歳まで文字を勉強していたんでしょ?だったら昔の話とか読めないじゃない?」
「でも吉川元春さんとかは講師を呼んで源氏物語を口頭で教えてもらったりしてたみたいだし、本じゃなくて誰かのお話で聞いたんじゃない?」
そこまで聞くと浅川は深いため息をついて言った。
「あのな、二人とも」
凄く苦労がにじむその言葉に2人は顔を向けると。
「世の中の偉い人というのは、大体同じような失敗をするし『昔こういう人が同じことをしようとして失敗しましたよ』と言っても『俺は大丈夫』といってわざわざしくじることが多いんじゃ」
まるで自分の体験を語るかのように深く深く「はぁぁぁぁ…」ともう一度ため息をついた。
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俺は大丈夫>大丈夫じゃなかった。
人間ってこのパターン多いです。
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