福岡柳川藩 立花道雪・宗茂伝説 ~浅川さんの聞くことにゃ~

黒井丸@旧穀潰

第1話 【道雪】多々良浜合戦の事P19 1569年?

 浅川聞書という本が読み難いので、筆者が理解するために内容を分かり易く物語風に脳内翻訳したものを公開します。


 原作の本文に該当する部分は【 】で囲みます。タイトルの数字はおまじないみたいなものです。


 なお、先に断っておきます。

『佐賀県の方、特に鍋島家関係者(浅川聞書の内容的に)ごめんなさい』



※本作はフィクションです。現実の人物・団体・柳川藩とは一切関係がありません。

それでは、はじまりはじまり。

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「このデマ小説を書いたのはだれだぁ!」


 時は江戸、所は筑後(福岡南西)。

 ウナギで有名な柳川の地に、某料理漫画のような男の怒声が響き渡る。


 男の名は浅川伝右衛門(仮;?~1643?)。


 秀吉から「鎮西最強」と称された元大友家家臣の名将 立花宗茂(1567-1542)の部下として仕えている男だ。

 ※本作はフィクションなので現実の浅川傳右衛門さんとは一切関係がありません。


 その言葉に、近所の童子である太郎と次郎の兄弟は言った。


「なーに、おじいちゃん。またボケたの?」

「ご飯はおととい食べたでしょ?」


「虐待じゃろそれ」


 真顔で答える浅川。

「あ、ちゃんと理解できてる」

「どうやらまだボケてはいないようだねー」

 雪の様な白髭を蓄えた老人。傳右衛門を指さして太郎たちは笑う。

 ああ、このじいちゃんは単に怒りっぽいだけだったのだ。と

「人を老人扱いするでない!ワシはまだ十分元気じゃ!」

「はいはい、ところで何をそんなに怒ってたの?」

 そういわれて、浅川はハッとして手に持っていた本を2人に見せる。


 そこには『大友記』というタイトルが書かれた三冊の本があった。


 その『元就 門司城を攻める事 立石原合戦事』というページに

『戸次の軍に当たって左右へ崩れゆく毛利軍と刀を打ち合わせると、(戸次は)徒歩の武者800人に弓を持たせ「参らせ候(かかってこい)戸次伯耆守」と朱字で書いた矢を射させた。芸州の兵は驚きながらも打ちかかり乱戦となった。』と書いてあった。

「これがどーしたの?」

「これはな、事実と違うんじゃ」

「そーなの?」

 次郎の問いかけに浅川は軽く咳払いをすると、懐から別の冊子を取り出して中を見ながら言った。

「【多々良浜(筑前糟屋郡)の合戦の時、高森某という敵から、矢を送られた者がいた】」

「矢を送られた?」

「多分、敵の矢が命中したって事だよー。戦争では不覚をとったとは言いにくいから矢を撃たせてやったとか送られたっていうんだよー。多分」

 兄弟の会話を無視して浅川は

「【その矢の主は、翌日の合戦で「戸次丹波守の身内の誰々」と言って、敵方の(矢を)送った人の名を言い、「参らせ候」と小刀の先で掘った上に血を刷り込ん(だ矢を射返したうえ)で、比類なき働きをしたという】」


「……何を言ってるのかよくわからないねー」

「昔の矢って名前とか書いてたのかな?」

「そういえば母上が『自分の持ち物には名前を書きなさい。そうすれば敵を撃ち殺した時「自分が殺りました」って言えるでしょ?』って教えてくれた気がする」

「つまり話をまとめると、戸次さんの部下が『高森』という敵から矢を射られたんで、次の日に「自分は戸次組のもんじゃい!この矢を撃った高森とかいうダボ!かかってきやがれ!こんボケが!」と血を刷り込んだ矢でカチコミかまして大暴れした。って認識でいいのかな?」

「なんで例え方がやくざの抗争なんだよ」

「戦国武士なんて警察がいない世紀末のやくざみたいなもんじゃん」

 与えられた情報を咀嚼して何とか理解しようとする2人。


 それを無視して浅川は話し続ける。 

「つまりまあ、【この事を世間が聞き間違って「道雪様の弓手は皆、このようにしている」という話が広まっているが、これは癖事(誤情報)なのじゃ。これは薦野玄嘉(こものげんか。戸次道雪の部下、薦野 増時の事。玄賀ともいう)が柳川へ筑前より入部した祝儀に参加したときに話された慥(たしか)なる事である】」

 そう言うと持っていた本を閉じた。


 これを聞いて太郎はしばし考えた後

「…最後が良く分からなかったけど、つまり、大友記って言う本の書いている事は嘘っぱちで、実際に道雪様に聞いた話と違う。って事?」

「そのとおりじゃ」

「うわー、回りくどいよじいちゃん」

「大体、薦野さんって誰?」

 その言葉に浅川は目を丸くする。

「なぬー?立花氏の家老を務めて後に「立花三河守」の名乗りを許されたり、黒田氏の家臣となった時は黒田姓を許された、あの名将を知らんのか?」

「聞いた事なーい」

「初耳ー」

「かぁー。最近の寺小屋は一体何を教えとるのか、嘆かわしい」

 盛大にためいきをつく浅川。


 そんな彼を見て次郎がふと気がついた。

「でも、これって立花家にとっては良い話じゃないの?何でそこまで怒ってるのー?」

「例え間違ってても道雪様を称える良いお話じゃない」

 そういう2人に浅川は「それは違う」と言った。

「いくら道雪様が素晴らしいお方とはいえ、その逸話に嘘が交じれば『立花道雪様は素晴らしいお方と聞くが、この話はウソではないか。そうなると他の話もあやしいものだ。本当は全部嘘なんじゃないか?』などと、本来の事績にまであらぬ疑いがかかるではないか!」

「あー確かにアンサイクロペディアで唯一嘘を書かせなかった某魔王とか本当にすごかったもんねー」

「本当にすごい人間は、嘘なんか書かなくても十分おもしろエピソードがあるという事だねー」

「………色々と引っかかるが、まあそうじゃ」


 そんな話をしていると太郎と次郎の父が帰ってきた。

「おお、爺様。二人の面倒を見てもらってすいません」

 ひと仕事してきた帰りの父親は浅川の持っていた書籍を見て「おや?大友記ですか?」と書名を尋ねた。

「なんじゃ?知っておるのか、このトンデモ本を」

「なんでも、高橋家(立花宗茂が立花家に養子に来る前の家。実家)はその本を底本にして高橋家の歴史書を書くと言ってたぞ」

「かーっ!!!こんなデタラメトンデモ本を元に歴史を書くとは嘆かわしい!!後世に、文才がないから解説書を書くことしか能のない書生から散々こき下ろされるのが目に見えるようじゃわい!」

「すごく具体的な人物像をあげてるけど、予知能力でもあるのかオッサン」

 当時の書状との誤差が非常に多いのが「大友記」という本である。そして文才のない人間が検証しながら現代語訳した『大友記の翻訳と検証』という本を作成してみたのだが、大分市と臼杵の地名を混同していたり時代が全然違う事がわかった。


 それを元にかかれたのだから『高橋記』も、まともな歴史書になるはずがない。


 どれだけ酷い内容になったかというと『主人公である高橋紹運の父である吉弘鑑理の名前を間違えている』といえばその内容の酷さがお分かりいただけるだろうと思う。群書類従に掲載された高橋記は本当にひどかった。


 話がそれた。元に戻す。

「道雪公はたしかに偉大な方じゃったが、嘘までついて顕彰する必要はないじゃろ」

 と浅川は懐から冊子を取り出して言う。

「大体この大友記には、とかは載っておらんではないか」

 参らせ道雪の逸話より、こっちの方がよほどチートな活躍と思うのだが相手が毛利ではないので知名度が低いのだろう。


 3人もその言葉に目を丸くして言った。


「「「道雪様がすごくても、さすがにそれは話を盛りすぎだろ!」」」


「な、なんじゃとぉ!!!」

「敵の中を堂々と歩いて進軍とか、嘘をつくにしてももっとマシな嘘をつきなよー」

「長旅で疲れた兵がすぐに戦えるとか、チート小説の設定?」

「傳右衛門殿、お医者様をお呼びしましょうか?頭の」

 憐れむような目で見られて浅川は焦ったように弁解する。

「ワシ嘘つかないもん!この耳で当時の部下だった方からちゃんと聞いたもん!」

「はいはい、お爺ちゃんの中ではそうなんだろうね。お爺ちゃんの中では」

「おじいちゃん。100から7ずつ数字引いて言ってみてくれる?」

「ボケ老人認定されてるぅー!!!本当じゃって!」

「うっそだー」

「そっちの方が信じられないよー」

「ウソツキ―」

「じいちゃんのうそつきー」

「嘘じゃないもん!本当にワシ聞いたもん!トトロ本当にいたもん!宣教師のフロイスも中公文庫版フロイス日本史8巻P68に書いてあるもん!」

 涙ながらに訴える傳右衛門。

 実際に日本側の書状でも日田から現在のうきは市付近に出兵した大友家の武将との書状があるので事実と言って良いと思う。


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 長いので一度切ります。

 次回は浅川聞書とは何かを紹介しながら短い話を訳そうと思います。


 なお今回の話。

 敵の名前が高森という名前なのか?

 撃たれた味方が高森なのか翻訳して見てもよくわかりませんでした。

 ただ、戦場での功績を証明するためにも持ち物に名前は書いてるだろうなぁと思い、今回の話にしました。

 賢明なる読者諸兄の意見を聞きながら情報を修正しつて行きたいと思います。


 と言うわけで、浅川聞書の内容を把握するために物語風に翻訳したりツッコミを入れていこうと思います。

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