殺戮人形とよばれ、命じられるままに人を殺すことを定められた幼い姉弟たちが、人間の心を取り戻してゆく――といった内容は、作品のあらすじや他のレビューをご覧いただくとして。
『七つの鍵の物語【神話編】』の世界を受け継いだ作品です。重厚でボリューム感のある【神話編】とは打って変わって、こちらは各話が短くコメディ色も強めなので、Web小説としては読みやすいかもしれません。
前作を知らなくても問題なく楽しめると思いますので、こちらから入ってみても良いと思います。もちろん、背景となる前作を知っているとより面白いですので、後から【神話編】も訪ねてみてください。時間をかけて構築された壮大な世界観を楽しめます。
個人的に、この作者様の作品で特に好きなところは、悪役がとことん強く・冷酷に描かれるところです。やり過ぎると書くほうも読むほうもツライ……なんて遠慮や手加減は不要! あっさりやられて主人公の引き立て役になるだけの悪役なんていなくていい! そんな方に是非読んでいただきたい。
圧倒的な強さと悪を貫く――そんな悪役を描くのって、案外難しいように思います。でも、そんなキャラには、きっとそれだけの過去や想いがあるのではないだろうかと、その裏に魅力を感じてしまいます。
殺戮人形と呼ばれる兵器として育てられた二十人の少年少女たち。
彼らを率いる一番——アインスと呼ばれた少女は一人の男と出会い、与えられた変化を受け入れることで、やがてその運命を自らの手で変えていく——。
当初はコミカルなキャラクターに見えたニーダルが、実のところ背負う重く暗い陰。重い過去を背負う彼だからこそか、全てを受けとめてしまうその大きな器に救われていくロゼットと、その弟妹たちが「人形」から人の心を取り戻していくその姿に胸を打たれます。
やがて、そうして救われた彼女たちの存在こそがニーダル自身をも救う鍵となっていくという。
息も詰まるような迫真の戦闘シーンの中でも、格好いいのにどこか軽みと大人の余裕を失わないニーダル。離れた場所で必死に戦い抜くロゼットたちと、冷徹な敵役たちのわずかに見せる情。
現実世界を映すかのような理不尽な世界の中で、それでも圧倒的な力と想いでその理不尽さを吹き飛ばし、満身創痍になっても大切な物を掴み取ろうとする彼らの姿は最高に格好良かったです。
そして、ラストはまごうかたなきハッピーエンド!
悪徳貴族のヒロインたちとは対照的に、ぺったんこだのまったいらだのシャープだのどうにも辛いロゼットさんの描写はきっと作者さまの愛情の裏返しかな、なんて……!
そんなところも含めて、登場人物たちが愛しくて仕方がなくなる素敵な物語でした。
時の権力により、孤児たちから生み出された20体の『殺戮人形』。
権力者の支配という見えない絡繰り糸に操られ、人を殺すための道具と化した彼女たちは、最終試験と称して、一人の冒険者の暗殺を命じられる。
権力者たちは知らない。命を狙われる冒険者も知らない。
そして、『殺戮人形』たちも知らない。
これが、自己の意志持たぬ彼女たちを、人間に戻すことになることを。
支配の絡繰り糸が、運命の糸に切り替わる瞬間になることを……。
殺伐とした世界観の中で躍動する、不敵な冒険者の存在感が圧倒的。
彼の影響で変わっていく20人の少年少女たちの様子も、とても繊細にしっかりと描かれていて面白い。
今後、彼女たちがどういった道を、人として歩んでいくのか期待の一作。
是非ご一読を。
――戦いの道具として、心を持つことを許されなかった『人形』たち。
――遠い昔、人としての心を奪われ、残りカスのようになってしまった男。
その『心』を失くした者たちが出会い、触れ合って、残酷な現実と戦いながら、徐々に人としての感情と心を取り戻していく治癒の物語です。
練り込まれた世界観と、人物たちが置かれている厳しい状況が、読む側により現実味と臨場感を与えてくれます。
また、重い背景にも関わらず、脛に傷を持った者たちが自分たちなりの幸せと、安息を求めて、それぞれの目的のもとに戦っていく……その過程を見守るのは、微笑ましくも暖かい気持ちにさせてくれます。
そして話の構成的にも、ただ暗い、ただシリアスなだけでなく、所々配置された笑いを取る場面が適度に緊張を緩めてくれていて、いい緩急をつけて飽きずに読み進めることができる物語だと思います。