雉焼き 別名『雉焼き豆腐』


 ●=熊八

 ▲=おくさん


 大友興廃記という佐伯の人が書いた本によると、大友宗麟さんはキリシタン墓地のある、朽網くたみで狩りを楽しんだ事があるそうです。

 朽網ってどこかって?竹田の長湯温泉のさらに北西です。

 長湯はガニ湯って珍しい露天風呂があるので行ったことのある人もおられるのではないでしょうか?

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(テンポが悪くなるので・・・内は省略して可)


 ラムネ温泉って炭酸水の温泉もありますが、ガニ湯のインパクトの方が私は強かったですね。何しろ道端に温泉があるんですもん。水着でも着ないとお巡りさんのお世話になりそうな変わった温泉です。


 あのあたりは内陸の山奥で、今でもイノシシは多いですね。農家の方大変だと聞いております。

「住民よりもイノシシや鹿の方が数が多い」

 これ、向こうで100回くらい聞きました。

 そろそろ他のネタがほしい所でございます。

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 戦国時代のイノシシは貴重な食料であり、戦争の練習にもなる動物でした。

 この時代、狩りというのは何十人も勢子せこ、大声でイノシシや鹿を追い立てる役がいました。

「ホーホッ、ホーリャ!」

 とかけ声をかけて殿様の前に獲物を誘導するんだそうです。

 この役目は税金の一貫で、基本的にボランティア。

 無料で強制参加させられたそうです。

 田舎の自治体の水路清掃とか消防団活動に参加させられるような感じですね。

 あれ、面倒らしいですよ。

 宗麟の息子さんは「狩りは民衆に苦労を強いるからやめた方が良い」って息子たちに書いていたそうです。優しい方です。


 なので父親の宗麟さんも「無料で働かせたんじゃ、あんまりだ」ってことで、参加者に食事くらい振る舞おうと考えました。

 そんな時、ちょうど久住の雉がとれたと報告がありました。


 久住の雉は黒岳の麓から、28km以上も離れた南の入田鴉岳まで飛ぶ、身の締まった雉が多いんだそうで、関あじ関鯖みたいな上等な肉だったんでしょうね。

 そんな珍しい雉がとれたので、狩人は宗麟公に進上しました。すると宗麟さん

「うーん」となにやら考えこみます。

「どうされました?」

「うむ、せっかくの雉なのでみんなで分けたいのだ」と言いました。

 頑張ってくれた領民を差し置いて、自分だけ美味しいものを食べようとは思わなかったのでしょうね。立派です。

 ですが、困ったのは料理人です。

「1羽の雉を100人で食べられる用にしてくれ?無理だよ そりゃぁ!」

 雉ってのは鶏よりは大きいですが、それでも大勢で分けるには量が足りません。

「きれいに分けたら切り干し大根みたいな一切れができちまう。いったいどうすればいいだろうか?」

 料理人は考えます。そして

「おい!ありったけの豆腐をもってこい!」と部下に言いました。

「豆腐なんてどうするんです?」

「雉の肉は白いだろ」

「そうなんですか?」

「スーパーの鶏肉見て見なよ皮は真っ白じゃねえか鶏も雉も同じだよ」

「あー、なるほど」


 疑問に思った方は帰りにマルショクの精肉コーナー肉屋でも、のぞいてみてください。少し赤みがかった白い肉が売ってますから。


「鶏肉は白い。だから同じくらい白い豆腐を焼けば、雉と見た目は同じだろう、まあ見立ってやつだな」

 そういうと料理人は、

 手際よく角切りした木綿豆腐を串に刺し(手際よく一本一本串を差し込む)

 塩を適量振りかけて網の上でじゅうじゅう焼く(粗塩を降りながらひっくり返す)

 程良く、いい焼き色が付いたところで皿に移すと、そこで湯煎した熱っつーい熱燗をざっと振りかける。

「さあ、鳥肉は熱いうちがごちそうだ!さっと食べてくれ!」

 そういわれた庶民は出された豆腐を熱々のうちにほおばります。

 すると、ほわん、とした酒の良い匂いが口中に広がり、鼻から抜けてあっと言う間にほろ酔いに。

 そして豆腐から塩味の効いた、あっつあっつの水分が じゅわぁぁぁ と広がって、酒の風味と混ざりあい、酒蒸しした鶏肉のような、なんともジューシーな味わいが舌の根本まで押し寄せてくる。

「こりゃうまい!」

 昔は醤油なんて無かったから、焼き鳥にはタレではなく、塩と酒で味付けをしたんですね。

 でもね、酒ってのは塩をつまみに飲むと何とも言えない良い味になるもんで、この豆腐の塩焼きに酒なんてかけた日には、戦国時代の人には最高のごちそうになったんでしょうね。

 おまけに鶏肉と違って油がないから淡泊だ。

 胃にもたれない。安いからたくさん食える。それを口実に酒も飲める。


 一日働いた身としてはたまらなかったでしょうねぇ。


 私も帰ったらあっつい湯豆腐に酒でキューッと一杯やりたくなってきました。


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(テンポが悪くなるので・・・内は省略して可)

 

「うめえなぁ~」

「豆腐は体にいいからな、大豆のイソフラボンは美容に良いし、低カロリーだからダイエットに最適。カルシウムが多いから骨粗鬆症予防にもぴったりとくらぁ」

「おめえは豆腐屋の回し者か」

「バカ言っちゃいけねえよ、まわしものになるのはこれからよ。えー、ここにいるみなさんの中に豆腐屋さんはいらっしゃいますでしょうか?いらっしゃいましたら、これ(お金のしぐさ)次第で、ここで「このように豆腐は体にいいんですよ。近所の○○豆腐店さんの豆腐は味もいいし安い。ぜひ買いに行きましょう」って宣伝しますよ。何ならタイトルの後ろに店名をつけたって良い。マルショクさんいかがです?」

「やめなさいよ、みっともない」


 とまあ、このように雉に見立てた豆腐料理を領民は楽しんだのでした。

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 この塩をかけて焼かれた豆腐。

 これが『雉焼き』、又の名を『雉焼き豆腐』といわれる豊後料理です。


 1637年くらいに、佐伯の人が書いた本にはそうあります。



 さて、このごちそうを振る舞われた男たちの中で熊八というおいさんがいました。

 殿様からの思いがけないごちそうにいい気持ちになった彼は


 ●「殿様でさえ、こうやって気を使ってくれるんだ。俺もかかあに一つごちそうしてやろうか」

 ってぇ事で、この料理を教えてもらい、自分の女房に振る舞うことにしました。


 ●「おーい、いま帰ったぞ」

 ▲「あら、お帰りなさい」

 ●「今日はな殿様から雉焼きって料理をごちそうになったぞー」

 ▲「あら、それは良かったわねぇ」

 ●「それでな作り方を聞いてきたから、おめえにもごちそうしてやろうと思うのよ」

 ▲「あら、うれしい」


 ●「よし、それじゃあ豆腐を出せ」


(ポカンとした表情で、額に手を当て熱を計るしぐさをする。男は怪訝な顔で)

 ●「なんだよ」

(無言で熱を計り続ける)

 ▲「ねえあんた」

 ●「なんだい?」

 ▲「野菜の名前を思いつく限り言ってみてくれるかい?」

 ●「えーと、ラディッシュ、キワーノ、アイスプラント(西洋風の珍しい野菜の名を三つあげる)って、俺ゃあ、ぼけちゃいねえよ!」

 ▲(感心したように)「あんたハイカラだねえ」

 ●「かかあに珍しい料理だそうってえのに、何で痴呆症の判定を受けなきゃいけねえんだよ!」

 ▲「だって、雉を焼くのに「豆腐を持って来い」なんて言われた日には、わたしゃアンタがアルツハイマーにでもなったんじゃないか心配だよ」

 ●「だから雉焼きには豆腐が必要なんだよ!」

(再び額に手を当て熱を計るしぐさをして)

 

 ▲「……こんどは100から7づつ数字を引いてみてもらおうかしら?」

 ●「ええと93、86、79…ってボケの診断はいいんだよ!」

 そこで熊八は、雉焼きとはどんな料理か説明しました。


 ▲「なあんだ。豆腐の塩焼きに熱燗をかけただけじゃないの。まぎらわしいわねぇ」

 ●「言われてみりゃそうだな。まあ豆腐を焼くのが雉焼きだ。というわけで豆腐を出せ」

 ▲「あいよ!」

(豆腐を受け取り、包丁を入れる)

 ●「よし、じゃあまずは豆腐を串に刺してっと、あっ…あれ?」

(串に刺そうとするがぼろっと落ちる)

 ●「変だな?」

(もう一度、串に刺すがぼろっと落ちる)

 ▲「あんた、どうしたの?」

 ●「この豆腐がよぉ、柔らかくて串に刺さらねえんだよ」

 ▲「そりゃ、絹ごし豆腐だからねえ」

(ずっこける熊八)

 ●「なんだってそんな豆腐しかねえんだよ!」

 ▲「あらやだよ「俺は木綿豆腐みたいな堅い豆腐よりも絹ごしみたいな上品な道具を使った豆腐の方が好きだから、豆腐は絹ごしを買え」っていったじゃないの?」

 ●「そうだっけ?」

 ▲「そうよぉ。ちなみに絹ごし豆腐ってのは材料を型に流しただけの豆腐で、木綿豆腐は絹ごし豆腐から水分をとって固めた豆腐だから、布の種類は関係ないのよ」

 ●「なんだそりゃ。ならなんだって絹とか木綿とか紛らわしい名前が付いてるんだよ」

 ▲「食感が絹のように細かいか、木綿のように荒いかできまったらしいわ。豆腐を雉と言うくらい紛らわしいわね」

 ●「たしかにそうだな。しっかし、こんなに柔らかいんじゃ串焼きにできねえなぁ…」

(熊八、どうするかなぁ、といった表情で頭をかきながら)

 ●「しかたねえな。だったら、網じゃなくて鍋に入れて、(豆腐をほうりこむ)そして塩を振って焼き色をつけりゃいいか…って、ありゃあ?」

 ▲「どうしたの?」

 ●「豆腐が鍋底にくっついちまった。これじゃ反対側まで火が通らねえや」

 ▲「だったら水を足して、煮たらどうかしら?」

 ●「じゃあ、水を足して、ぐつぐつ沸騰させて…火を通して」

(真剣に鍋の火加減を見る)

 ●「…そろそろかな?」

 ▲「豆腐は中まで火が通るのに時間がかかるわよ」

 ●「そうか、じゃあじっくり煮て、おたまでひっくり返して」

 (さらに真剣に鍋の火加減を見る)

 ▲「そろそろいいんじゃない?」

 ●「よし、じゃあここで豆腐に熱燗をさっと振りかける」

 ▲「あら、良い香りね」

 ●「あとは器によそって、あっつあつのままでかじり付く…………あっちあっち!でもうめ…………湯豆腐だよ!これ!」


 ▲(鍋から箸で豆腐を食べながら)「塩味に酒味までついて贅沢な湯豆腐ねぇ」

 ●「これはこれで旨いけど!なんか違うよぉ!あの炭火焼きの香りとか、ぶわぁってあふれる汁気とか…なぁんか、違うんだよなぁ!ねえ、本当に木綿豆腐はないの?」

 ▲「あんたが絹ごしが良いっていうから買ってませんよ」

 ●「うーん、食べられないとなると無性に食べたくなってきたな。他に雉焼きに代用できそうなものはねえのか?」

 ▲「豆腐は絹ごしの他には無いわねぇ」

 ●「そうかー。豆腐はそれだけかぁ…残念だなぁ」

 ▲「そんなに美味しかったのかい?」

 ●「ああ、表面に焦げ目がついてな、なかから じゅうじゅう と沸騰した汁が出る様なんて雉肉の脂が焼けた音そのもんでよぉ。おまけに引きしまった豆腐の身に丁度よくふりかかった塩、そして酒をさっと振りかける。ありゃあ雉だって言われても騙されそうだったなぁ」

(うまそうに上を見あげる)

 ▲「そんなにおいしいなら 私も食べてみたかったわねぇ…」

 ●「そうだよなぁ…でも木綿豆腐が無いんならしかたねえ、他に串に刺して焼けるような白い食い物はないかねぇ…」

 ▲(困った顔でこめかみに手を当てて)「そうねぇ…」


 ▲(調理場で食材を探しながら)「困ったわぁ、豆腐は明日買いに行こうと思っていたから何もないのよねぇ……」

 ●「全くなにもねえのかい?」

 ▲「ないわねぇ……………………今ウチにあるものと言えば、お隣さんからもらった雉肉くらいしか無いわねぇ」

 ●「それを先に言えよ!!!」


 雉焼きでございました。(礼)

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大monooki 黒井丸@旧穀潰 @kuroimaru

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