第5話:浦島太郎を○○○○が書いたら

 この物語はバットエンドで終わる。これは最初に言っておくべきだろうし、それは語り部である浦島太郎たる僕の責任であるし、義務であろうとも思う。

 僕は漁師であったわけであり、いつものように海に出かけていく。それは必然であり避けることができるのかどうか―― 仮に問うことができるとしても、問うこと事体が無意味であるし、運が悪いとか良いとかも言い切れない。ただひたすらに、室町期に成立した物語―― 予定調和の中にあっただけのことではないかと思う。僕は決して桃太郎ではなく浦島太郎であるという事実を再確認するだけだ。

 そう―― 浜辺で僕は亀に会った。この出会いは、特に劇的なものでもなく、ありふれた日常の中に埋没しそうな出来事に過ぎなかった。子どもに苛められる海ガメという場面はなんともありふれた物と言えるかもしれない。僕はなんとも容易く考え、子どもたちを追い払い、亀を助けた――

 後に問題となり僕に降りかかることになる運命というものについて語るのも、言ってしまえば魚介類を殺すことで糧を得ていた僕の原罪に起因するものかもしれない。全くもって非常に投げやりな言い分かもしれないことは理解しているのだけれども。

 この物語―― 僕にとっての一連の事件については、振り返ってみるとそれほどの思い入れがあるわけではない。実際―― そうであるのだからそう言うしかない事象の連続にしかすぎないわけだから。そもそも―― 僕は苛められていた亀を助けたということを善行であると思い込み、なんらの問題意識をもたず無自覚に竜宮城に招待され歓待され、この物語の一方の中心である乙姫様の存在について深く考察しなかった。

 それを愚かであると批判するのであれば、僕は甘んじてそれを受けるしかない。いや、受けようと受けるまいと、僕の運命そのものには何の影響も与えないのであるのだけれども。

 迂闊うかつなことをしたのかもしれないし、その結果として負債と化した時間の奔流の中で一気に老化し、鶴となる結論は、この物語を聞かされた者にあまり良い気持を抱かせないかもしれない。でも―― そういう風に成立してしまった僕の物語はそれ以上でもなくそれ以下でもなく、ただひたすら後味の悪い物語として成立するしかないし、それを僕は語るしかない。

 そもそも―― 人語を解する亀を助け、海の中という人が呼吸不可能な領域に無自覚に足を踏み入れ、何の疑問も持たなかった僕に全ての責任がある。

 あのときに引き返すことは出来たかどうかを問うことは無意味であり、仮に引き返せたとしてもそれはいずれ負債となって僕が背負うことになっただろう。

 確かに玉手箱の煙を浴びて一気に老化した僕は、間抜けといえばこれ以上間抜けな者はないだろう。

 しかし―― 結局のところ、僕にとってこの物語の帰結ははっきりしたものであり、殺生を生業としながらその殺生の対象に歓待されるという矛盾こそが、バッドエンドを招く原因となっている―― それは分かりきったことなのだけど、僕が漁師であり浦島太郎であること―― それにより、不幸は永遠に解けることの無い呪いの連鎖のようなものだった。

 偉そうなことを滔々とうとうと述べたところで、バットエンドであることは変らない。けれども僕が不幸であったかというと、それは少し違う。確かにある種の地獄のような結末ではあるけれども、鶴になったことに関して僕はそれほど悲観はしていなかったのだ。

 甘いといえばこれ以上甘いということはないのだけど。

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いろいろな作家の文体で書く 中七七三/垢のついた夜食 @naka774

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