魔法少女とアルミラージ

牛☆大権現

第1話


私は旭日 菜々美、中学一年生です。

家族は父と、妹が1人。

母親は、妹を産んだ年に亡くなりました。


将来の夢は漫画家です。

何度か新人賞に応募しているのですが、いつも落ちてしまって。

夢を叶えるのは、とても難しいです。


今日もお母さんの本を、漫画の資料に使わせて貰うため、書棚に籠っています。


「え~と、植物関係の本は……」


大人が使うための本棚なので、私には少し高めです。

上の方にあった本を、指で引っ掻けて取ろうとした所、何かがカチッと嵌まる音がしました。


本棚がズズッと音を鳴らしながら右にズレて、奥に階段が現れました。

凄い! うちにこんな秘密の部屋があったなんて!!


私が足を踏み入れた瞬間に、階段の横にあった蝋燭に火がつきました。

私は、好奇心の赴くままに、その階段を降りていきます。


階段が降りきった先にあったのは、暖炉があって、道具に囲まれた小さな部屋。

その真ん中には、ウサギさんがいました。


「ウサギさんだ! 」


私は、嬉しくなってつい駆け寄りました。

持ち上げると、首をかしげました。

この子、生きてる!


「なんだお前、あの魔女に似た匂いがするな?」

「わ、喋った! 」

「何を当然の事を? 我こそ神獣アルミラージなり」


ウサギさんが、2本足で立ち上がって胸を張ってます。



「アルミラージ……って、あの角が生えたウサギさんだよね」

「知っておるではないか、然りだ」

「でも、あなたには角が無いよ? 」


私が指摘すると、ウサギさんは怒ってしまいました。


「今はかりそめの姿なのだ! あの憎々しき魔女めに力を封じられていなければ、このようなザマを晒すことも……」

「かりそめ、ってことは本当の姿は別にあるのかな? 嫌な事を聞いちゃって、ごめんなさい」

「察するに、貴様はあの魔女めの娘だな? 練られていない割には、高い質の魔力を感じる」


ウサギさんが、ポンポンっと私の膝を叩きます。


「お母さんは確かに、魔術とかのオカルトは好きだったけど、魔女だったとか聞いたこと無いよ? 」

「ええい、あの魔女は自らの後継者となる者に、何も教えていないのか! まあいい、我と契約してくれ、さっさとこの部屋から出たいのだ」

「契約って、何をするの? 」


ウサギさんが、紙と筆、それからリストバンドを渡してきました。


「この紙に名を書き、そのリストバンドを腕に嵌めよ。 それにより、お前は晴れて魔女の仲間入りだ」

「ここかな? 」


筆は使い慣れなかったけど、何とか床を汚さずに名前を書くことが出来ました。


「ナナミ、良い名だ。あの魔女めのセンスだろうというのが、気に食わないがな」

「ありがとう、それで私は何をすればいいの? こういう時、アニメだと……」


私が、腕にリストバンドを嵌めた時です。

大きな、地震が起きました。


「キャッ! 」


慌てて、頭を抑えて屈みます。

物が落ちる音が聞こえます、怖いよ……


「ちょうどいい、ナナミの仕事がやってきたぞ」

「この地震と、あなたとの契約に何か関係があるの? 」

「そうだ、これはそれなりに強力な悪魔が起こしている現象だ。貴様の先祖の不始末を、さっさと片付けて来るがいい」


ウサギさんが私の身体に触れると、急に景色が変わりました。

そして、鼻腔に強い鉄の匂いが襲いかかります。


何かを啜る音と、悲鳴。

目の前に現れた巨大な影が、動きます。

人のような形をしたそれは、口元に赤いものを滴らせて、一つしかない目でギロリとこちらを睨みました。


「何を腰を抜かしている! さっさと杖を出して、奴を滅ぼせ」


ウサギさんが、私とその巨人の間に立ち塞がります。

でも怖い、足が震えて力が入りません。


「杖を出すって、どうすればいいんですか? 」

「リストバンドに触れて、命じろ。あの魔女の娘なら、それくらいはして見せろ」


言われるままに、リストバンドに触れてみました。

火傷しないのが不思議なくらい、熱を放っていました。


「魔女ナナミの名と契約の元に。魔杖よ、真の姿を晒し我が命を遂行せよ」


私の足元に魔方陣が浮かび上がり、リストバンドが光輝きます。

巨人が、棍棒を振りかぶって来ましたが、不思議と怖くありません。


「術式展開(マジックデプロイメント)! 」


振り下ろされた棍棒を、光の壁が弾きました。

手に顕れたのは、黄色の可愛い杖。

服装はいつの間にか、魔法少女らしいフリフリのドレス。

私が漫画に書いた通りの衣装です。


「ウサギさん、これなんで? 」

「魔女のローブというのは、術者のイメージを反映した服装になる。ナナミがイメージした最強の自分が、その姿だったのだろうな」


棍棒ごと吹き飛ばされた巨人が、戻ってきました。

あんまりダメージはなさそうです。


「それより、さっさと決着をつけろ。防ぐだけでは倒せんぞ」


私は、力を杖の先に集めるイメージをしながら、巨人に向けて先端を向けます。


「魔杖よ、我が敵を迅く滅ぼせ。目映き光の矢は必中の一撃なり。ブライトアロー! 」


杖の先から放たれた光は、巨人の心臓を貫通しました。

そして、大きな音を立てて、巨人はうつ伏せに倒れます。


「見事な魔力の収束だ。この調子なら、成長もはやいだろう」


ウサギさんは、嬉しそうに私の足を叩いています。

「今ので、終わりですか? 」

「今日のところはな。だがあんなのは、見掛け倒しの名もない下級悪魔に過ぎん。油断してポックリ逝ってくれるな、新参の魔女よ」


こうして、私は魔法少女になりました。

この時はまだ、思ってもいなかったのです。

私の敵となるのが、私の従姉にあたる人、ナノカお姉ちゃんだったなんて……!




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魔法少女とアルミラージ 牛☆大権現 @gyustar1997

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