題材になっている文豪の生前を思えば、如何にも、確かにそのとおりだろうと、知的な刺激と面白みが感じられます。そして文章が、実に格調高い美文!それこそ、題材になっている文豪に勝るとも劣らないでしょう。SF的な刺激と良くも悪くも人間的な味わいの入り混じった、文学としての完成度が高い名作短編です。
とにかく書き出しがすばらしい。「無機質な培養槽」と「ヘミングウェイ」は普通交わることはないでしょう。 異質と異質とが出会うときにドラマは、はじまると思うのですが、そういう意味で見事な書き出しです。 文体にはクセがあるので読みにくいと感じる人もいるかもしれませんが、流し読みせず立ち止まって読んでいくことを心がければ、目の前に『絵』が浮かんできますよ。太宰が好きであろうとなかろうと一読の価値ありです。