フォンテーンの証言の検証

どれが真実で、どこまでが虚言なのか――?

本書(怪物執事ー英国を魅惑した殺人鬼の真実 )では第2部で細かく検証しています。

明らかな虚言はともかく(シークのくだりとかw)、とくに印象に残った、嘘について。


1人目に殺害した、ライト。

彼とフォンテーンの関係ですが、ライトの恋人(女性)の証言によると、ライトはフォンテーンの言いなり状態だったそうです。他人から見てすぐわかるほどの上下関係。

そして盗みをしたくてたまらないライトが仲違いで、フォンテーンを撃った。それが殺害動機であると証言していますが、本当にフォンテーンは撃たれたのか?

その撃たれた寝室現場には、頭をかすめただけとは思えないほどの血痕がありました。そのおびただしい血は、フォンテーンではなく、ライトのもの。一緒に猟へでかけ、そのとき殺害した、とフォンテーンは証言していましたが、真実は違うようです。

……断言できないのは、ライト殺害については、目撃者がおらず、通報もなく、フォンテーンの証言から発覚した殺人だったためです。たしかに死体は供述した場所に埋められていたものの、なぜ殺害したのか動機は不明のまま。

本書では、「ライトに恋していたフォンテーンは、相手にされないことに嫉妬したのではないか」とありました。


金融業者クロア氏のもとで奉公したことを自慢するフォンテーンですが、実際働いたのはわずか6日間。

働き始めてすぐ、食卓の給仕でフォンテーンは水差しを晩餐のテーブルに音を立てておきます。本来ならば、給仕用のテーブルに戻すはず。

ともに働く同僚がおかしい、と気が付き、クロア氏に報告。そして身元を調べられ、悪事が発覚して解雇されたのが真実です。

執事としてのキャリアを自慢するフォンテーンですが、実際はお粗末なレベルだったよう。


そんななりすまし犯罪者執事ですら、お屋敷で職を得ることができたのは、20世紀なかばのイギリスでは家事使用人がそれだけ不足していたことを物語っています。

紹介状を偽造し、転職先の雇い主が問い合わせをしたさい、前の雇い主になりすまして嘘の働きぶりを答えました。驚いたのは、職業紹介所へ登録ができたため、それを信じたレディ・ハドソンがフォンテーンを執事として雇ったことです。


1970年代のイギリスでは、執事が連続殺人を犯した内容が、センセーショナルに報じられました。

それだけ執事という存在が、主人に使える忠実な使用人として尊敬されていたのです。

しかしフォンテーンのような悪魔にとって執事とは、上流階級へつながるステイタス獲得の手段の一つとして利用できる職業でした。


なぜフォンテーンが自分自身を華麗な宝石泥棒で、正義の怪盗だと信じていたのか?

フォンテーンが少年時代を過ごした1930年代は、娯楽映画がたくさん上映されており、とくに人気があったハリウッド映画といえば、義賊ものでした。紳士である宝石泥棒が盗んだ宝石で、貧しい人々を救い、世の中の不正義をこらしめる内容です。

虚構と現実の境界があいまいなフォンテーンは、自分自身が義賊だと錯覚し、思い込み、それを信じて現実として妄想し、達成するために窃盗を繰り返します。そしてついに殺人まで犯したものの、その妄想はあくまでも「周囲が愚かだったから仕方なく」という虚実を信じます。


サイコパスの特徴そのままのフォンテーンは一見魅力的であり、彼を取材した記者がだんだん取り込まれ、同情し、味方になるくだりは背筋が寒くなります。

獄中結婚した木嶋佳苗や宅間守等、現代日本の連続殺人事件で有名な人々を連想させます。


※下記ブログに2019年11月16日に掲載したコラムと同じ内容を投稿しました。

英国執事とメイドの素顔

19世紀イギリスに実在したリアルな使用人とヴィクトリア朝豆知識。

https://sitsuji.ashrose.net/archives/2214

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サイコパス英国執事 ロイ・フォンテーン 早瀬千夏 @rose

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