最果て惑星と地球のネゴシエーションハーレム
ちびまるフォイ
できとるやんけ!!!
惑星アルバイト10人が乗ったシャトルはブラックホールに飲み込まれて不時着した。
『メーデーメーデー! 聞こえますか? どうぞ!』
『メーデーメーデー! 聞こえますか? どうぞ!』
『メーデーメーデー! 聞こえますか? どうぞ!』
「こ、ここは……?」
耳に入るやかましい通信の声で目が覚めた。
「もしもし、俺は惑星アルバイトNo1です。見知らぬ惑星に不時着しました」
『気が付きましたか、こちらは地球です。あなたの場所の特定に成功しました』
「本当ですか! 早く救助艇をお願いします!」
『それはできません』
「なんで!?」
『あなたが今いる"最果て惑星"にはブラックホールの通過が必要。
しかし、ブラックホールに生物が入ると原子分解されて消えてしまうのです』
「それじゃどうして俺が生きているんですか!?」
『奇跡としか言いようがありません。
現に、あなたの他の惑星アルバイト9人は全員が原子分解されました』
あたりを見回しても惑星アルバイトの仲間たちは服どころか髪の毛一本見当たらない。
「それじゃ……俺はこの惑星に取り残されて助からないってことですか」
『希望を捨てないでください。地球側はあなたの帰還のために尽力しています。
幸いにも生物でなければ原子分解は起きないため、物資は送れます。
あなたの惑星に救助艇ができるだけの科学力がつくまで耐えてください』
「はい……」
見たことも聞いたこともない惑星にひとりだけ取り残されたのは心細い。
救いは惑星にやってくる地球からの物資艇だった。
「すごい! これだけ食料があれば十分に生活できるぞ!」
物資を回収すると、物資艇はまた地球へと戻っていった。
そうして地球からの仕送りによるサバイバルを過ごしていた。
あるとき、最果て惑星を歩き回って見つけた新種の花を摘んで地球の物資艇に入れて送った。
『メーデー。応答せよ、応答せよ』
「はい。こちら最果て惑星です」
『物資艇に地球にはない花が入っていたがこれはなにか』
「こちらの惑星で見つけた花です。たくさん咲いていました。
普段、物資を送ってもらっているのでこちらからも送ってみました。いらないかもですが」
『君。この花がそっちにはたくさん咲いていると言ったか!?』
「え、ええ。こんなのいくらでも」
『この花には地球にはない物質だけでなく、
地球にわずかしかない超絶希少な細胞やバクテリアがついている!
これは地球化学の発展に大きく貢献するぞ!!』
「本当ですか!?」
『本当だとも! 最果て惑星には希少な物資がたくさんあるのかもしれない!
新しい物資を見つけしだい地球に送ってくれたまえ!!』
以降は物資艇がやってくる頻度が多くなった。
自分に物資を届けたいというよりも、最果て惑星の資源を早く送ってくれと催促されているようだった。
そのうち、物資艇には最果て惑星からの貢献で変革を遂げた地球の写真なども送られるようになった。
「応答せよ、応答せよ」
『はい。こちら地球最果て惑星本部です。どうしましたか』
「物資艇に入っている写真を見ました。地球はずいぶん変わったんですね」
『あなたのおかげですよ。最果て惑星の新物質のおかげでめざましい発展を遂げました。
ついに任意テレポート技術も政府に認可されて、それでそれで……』
「あ、あの! それだけ技術が進歩していれば、救助艇を出せるじゃないですか?
最初に言っていましたよね。科学力がつくまで待ってください、と」
『ああ……そうですね』
「まだできないんですか」
『こちらも忙しいんです。もちろん努力していますよ。
ですから、最果て惑星の暗黒鉱石とシルバーフラワーを物資艇にいれて送り返してください』
「……はい」
何度連絡しても地球側から来るのは最果て惑星の物資要求ばかりだった。
人間ひとり生活するために必要な物資など多くはない。
もう送ってほしいものがなくなると、からっぽの物資艇だけが最果て惑星の資源回収にやってくる。
惑星を探し回って資源を物資艇に積んでいると疑問が湧いてきた。
(地球は俺を助けるつもりがあるのだろうか)
(本当は物資回収のために自分をこの惑星に縛り付けたいんじゃないだろうか)
そのことを考えたとき、この自分だけしかいない惑星で生涯を終えることに恐怖を感じた。
自分が死ぬその瞬間まで物資を運ぶだけのコンベアとして過ごすなんて嫌だ。
「メーデーメーデー! 地球、聞こえるか!?」
『こちら地球本部です。どうしましたか? 物資は積みましたか?』
「そんなもの積んでやるものか! 本当に俺を助ける気があるんだよな!」
『もちろんです。今も科学者が英知を振り絞って研究に明け暮れています』
「だったらどうして地球が便利になって、いつまでも救助艇は進展しないんだ!
本当は俺をこの惑星に縛り付けて物資を送らせたいだけじゃないのか!?」
『そんなことはありません。我々は人命にまさるものはないと思っています』
「じゃあ、あんたらが救助艇を完成させるまで物資は送らねぇ!」
『待ってください! そんなことしたら研究が進みません!』
「だったらちゃんと進展していることがわかる証拠を物資艇に入れるんだな。
俺の救出を後回しにしていると感じたら物資は送らない」
『……』
地球との通信は切れた。
最後になにか言葉を飲み込んだ気がした。
この通信の後、あれほど頻繁に着陸していた物資艇がまるで来なくなった。
最初は研究に本腰を入れたのだと考えていたが、
お腹が減ってものどが渇いても物資艇が来ないことに耐えきれなくなった。
「メーデー! 地球、応答せよ!」
『こちら地球です』
「物資艇がまったく来ないぞ! どういうつもりだ!」
『送ってほしいですか?』
「当然だろ! このままじゃ飢えてしまう!」
『では、あなたが資源を送ってください。
資源を送ると約束したなら、地球から物資を送りましょう』
自分の頭から血の気が引くのがわかる。
「お前ら……俺を死なせればもう資源は得られないんだぞ」
『あなたが資源を送らなければ、我々も物資を送らないだけです』
こちらの脅しを、同様の脅しで地球側はカウンターを放ってきた。
お互いに交渉の主導権を握り合っている。
しかし、地球は「今以上の発展ができなくなる」に対して、こちらは「物資ないと飢え死」。
立場の差は明らかだった。
「……わかった。資源は送る。それでいいだろう」
『では物資艇を送ります』
それからしばらくして物資艇が最果て惑星に到着した。
積まれていた食料や飲み物を一瞬で消化するほど限界間近だった。
物資艇には食料だけでなく、初めて見る機械も積まれていた。
「これは……?」
添えられていた手紙を開いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
これは人間培養キットです。
そちらの惑星にある資源を使うことで人間が作れます。
地球の資源では、どうしても人間を作れません。
下記の指示通りに物資を投入すれば人間ができるでしょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
すぐに地球側に問い合わせた。
「おい! この人間培養キットなんて頼んでないぞ!」
『ええ、知っています。それより、救助艇はできましたよ』
「ほ、本当か!」
『はい。しかし、地球から最果て惑星に行くことはできません。
最果て惑星から地球に戻ることは可能です』
「それでいいじゃないか。それじゃ早く救助艇をこっちへ送ってくれ」
『救助艇を送る条件は、あなたが培養キットで人間を作るのが必須です』
「はあ!? なんでそんな関係のないことを……」
頭より先に口が出てしまった。
しかし、すぐにその理由はわかってしまった。
「まさか……地球に資源を送るための人員を惑星に残すためか……!?」
俺が最果て惑星を出てしまってはもう資源を回収できない。
地球側から人を最果て惑星に送ることもできない。
となれば、最果て惑星側で「置いてけぼりにする人」を培養生成し、物資回収役として残すというものだった。
「あんたら人間をなんだと思っているんだ!
資源を回収する自動ロボットじゃないんだぞ!!
最果て惑星にまた一人きりで人間を残すつもりか!」
『こちらの条件は伝えました。通信は以上です』
通信が終わると、惑星に取り残されたのは培養キットと自分だけだった。
培養キットで自分の身代わりとなる人間を作れば、自分は地球に戻ることできる。
しかし身代わりとなった人間は惑星で自分が味わった孤独を受け続けることになる。
「俺はいったい……どうすればいいんだ……」
悩んでも助けてくれる人は誰もいなかった。
『メーデーメーデー。こちら地球。応答せよ。応答せよ』
「こちら最果て惑星」
『しばらく経ったが救助艇の要請を受けていない。地球への帰還を諦めたのか』
「はい。もう諦めました。俺はこの惑星で過ごすことを決めました」
『物資艇の要請もぴたりと止んでいる。説明せよ』
「送ってもらった人間培養キットを使って人間をたくさん作りました。
そして人間たちで協力して、この惑星だけで自給自足できるようにしたんです」
『なんだと!?』
「それにこちらでは地球にない物資がたんまりとあります。
科学技術も地球のレベルをはるかに上回るほど便利になりました。
今さら地球に戻るのは、現代人が原始時代に戻るようなものです」
『そんな……バカな……』
「ただ、困っていることが1点だけあります」
『困ったこと?』
「実は……人間培養キットですが、最果て惑星の環境では美人の女性しか生まれないんです。
地球にしかない資源を投入すれば男性も作れるようになるので、物資艇で送ってもらえませんか?」
このことを聞いた地球側からは短い通信が即答で帰ってきた。
『わかった。では私が地球から救助艇ですぐ行く!』
最果て惑星と地球のネゴシエーションハーレム ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます